大阪都構想否決の場合に虚偽報道による投票無効を求める者が乗り越えるべき壁
大阪都構想否決の場合に、虚偽報道による投票無効を求めるかどうか。
その場合、乗り越えるべき壁があります。
大都市法準用の公職選挙法に投票無効の規定
※一部、読み替え後の文章を適用
公職選挙法
(新聞紙、雑誌の報道及び評論等の自由)
第百四十八条 この法律に定めるところの投票運動の制限に関する規定(第百三十八条の三の規定を除く。)は、新聞紙(これに類する通信類を含む。以下同じ。)又は雑誌が、特別区の設置についての投票に関し、報道及び評論を掲載するの自由を妨げるものではない。但し、虚偽の事項を記載し又は事実を歪曲して記載する等表現の自由を濫用して特別区の設置についての投票の公正を害してはならない。
(選挙の無効の決定、裁決又は判決)
第二百五条 選挙の効力に関し異議の申出、審査の申立て又は訴訟の提起があつた場合において、選挙の規定に違反することがあるときは選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合に限り、当該選挙管理委員会又は裁判所は、その選挙の全部又は一部の無効を決定し、裁決し又は判決しなければならない。
第二百六条 特別区の設置についての投票においてその特別区の設置についての投票における賛否の結果の効力に関し不服がある選挙人は、大都市地域における特別区の設置に関する法律第七条第五項前段の規定による公表の日から十四日以内に、文書で市町村の選挙管理委員会に対して異議を申し出ることができる。
第二百九条 前三条の規定による特別区の設置についての投票における賛否の結果の効力に関する異議の申出、審査の申立て又は訴訟の提起があつた場合においても、その特別区の設置についての投票が第二百五条第一項の場合に該当するときは、当該選挙管理委員会又は裁判所は、その特別区の設置についての投票の全部又は一部の無効を決定し、裁決し又は判決しなければならない。
公職選挙法は都構想の住民投票の実施根拠である【大都市地域における特別区の設置に関する法律(大都市法)】の7条6項で準用されることとなっており、148条、205条1項、206条、209条1項は準用除外の対象にはなっておらず(同法施行令)、大阪都構想においても適用対象です。
無効となった場合には再投票となります。
では、「選挙の規定に違反することがあるとき」と「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合」とはどういう場合か。
最高裁判決「主として選管の違法」
最高裁判所第一小法廷判決 昭和27年12月4日 昭和27(オ)601
公職選挙法二〇五条にいわゆる「選挙の規定に違反することがあるとき」とは、主として、選挙管理の任にある機関が選挙の管理執行の手続に関する明文の規定に違反することがあるとき又は直接かような明文の規定は存在しないが選挙法の基本理念たる選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるときを指すものと解するを相当とする。
要するに最高裁は、「選挙の規定に違反することがあるとき」とは、主として「選管の側」で何らかの違法がある場合に選挙(投票)無効になると言っています。
で、過去の裁判例を見ても、立候補妨害・立候補者氏名掲示の脱落・選管の違法によってそもそも投票できなかったような場合・投票できないはずの者が投票した場合・本来無効にすべき票が有効になった場合・偽造票の混入・票の抜き取り・投票立会人が監視できない状況が作出された、など、直接的に票数が変動するような場合が見つかります。
参考:選挙無効の判例のまとめ
「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合」については票数の変動による結果の逆転の可能性を見ているようです。
毎日新聞らの捏造報道はどうか
対して、毎日新聞(NHKと朝日新聞もだが2社は訂正済み)の報道が大阪都構想の投票結果に与える影響はどうでしょうか?
このような場合は、選挙人の投票の判断に影響を与え得るとは言えますが、果たして『賛成⇒反対に変更させた・それによって投票の結果が変わった』、とまで言えるかどうか。
このような因果推論は先述の選管による違法と比べると非常に弱いものと言わざるを得ません。
もっとも、メディアによる報道が投票行動に一定の影響力があるのも事実です。その一般的な事実に加え、今回の都構想における投票において、反対票を投じた者が、毎日新聞の当該報道を見て反対に決定した、というような例が相当数証明でき、その規模と賛成票と反対票との差を勘案した場合、もしかしたら「選挙の結果に異動を及ぼす虞」が認められるかもしれません。
最高裁判例も『主として、選挙管理の任にある機関が選挙の管理執行の手続に関する明文の規定に違反することがあるとき又は直接かような明文の規定は存在しないが選挙法の基本理念たる選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるとき』と言っているので、必ずしも選管側の違法だけに限られているとは言えないという解釈も可能。
ただ、そのような解釈がなされるのかどうか、ハードルは高いと言えます。
訂正報道・反対言論による「中和」について
仮に訴訟になった場合、訂正報道や反対言論によって虚偽報道が「中和」されたはずである、と言う主張がなされることが予想されます。
もっとも、このような主張を認めると不都合が生じます。
1:虚偽報道を放置していたらその影響が残ってしまい、投票結果が当該虚偽報道が誘導する方向に向かってしまう⇒無効の可能性が高まる。
2:虚偽報道に対して積極的に反証・反対言論を行うと、虚偽報道による影響が小さくなるので、「選挙の結果に異動を及ぼす虞」が認められなくなる⇒無効の可能性がなくなる
努力した結果が法的な次元では悪い効果となるという問題。
実はこうした判断が問題になったことがあります。
オウム真理教に対する破防法の適用に関してです。
このとき、「明白な危険」(明白性)要件の有無が問題になり、それが認められませんでした。
公安審査会の理屈は、摘発が進まないと危険性は高いままだが証拠が集められない、しかし、摘発が進むと証拠が集まっても危険性は薄まってくるというものになっています。
これは裁判所ではなく公安審査会が行った判断であったということが大きいと思っています。
虚偽報道による投票無効のハードルは高い
いずれにしろ、都構想が否決された場合に虚偽報道による無効の主張というのは、非常にハードルが高いと思われます。
だからこそ、毎日新聞はじめとして各メディアは選挙や投票に関してやりたい放題報道するのでしょう。
以上