憲法53条の臨時国会召集と内閣の召集義務懈怠のエセ問題について

「憲法53条の臨時国会召集義務違反ダー!」

などと叫ばれている話は、ただの印象操作・政局でしかない場合が多いので注意。

臨時国会の召集に関する法規と慣例

日本国憲法
第五十三条 内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。

よって、「臨時会の召集について内閣には何ら権限は無い」というのは、誤り。以下訂正されている。

内閣が勝手に臨時会の会期を設定したら、それはそれで揉めるでしょう。

だから、「当事者」たる国会の構成員である国対委員長同士で話し合いをして決める、というのは、合理的。

ただ、以下の規定との関係を整理する必要がある。

国会法
第十一条 臨時会及び特別会の会期は、両議院一致の議決で、これを定める。

両議院一致の議決」とあるが、通常国会が閉会している最中にはこれができないから、「与野党の国対委員長間で話し合いが行われ、実施されてきたのが慣例」なんだろう。調べたら通常国会も同様でした。
※閉会中審査は通常国会で決議があった審議事項を扱う

今年度の通常国会の会期の終了日は6月16日であり、野党4党(立憲民主・共産・国民民主・社民)から臨時国会召集要求書が提出されたのは7月16日でした。

憲法も臨時会の召集決定の権限を内閣に与えているだけで、それに至る手続については限定していない上、国会法11条は閉会中の召集要求について沈黙しているので、上述のような「慣例」は論理必然的に必要になるだろう。
(※国対委員長同士である必要は無いが、少なくとも召集要求をする側と話し合いをする機会は必要。)

したがって、以下のように「慣例が憲法違反」と言うのは的外れ。

「合理的期間内」に召集されたかの論理必然的な判断要素

合理的期間内の召集というのは、法文上、そのように解釈されるし、政府もそういう見解のようだし、下級審裁判例でも合理的期間内の召集が法的義務であるとしたものがあります。

では、何を持って合理的期間かどうかが決まるのか?

この点について考える際に、上掲の臨時会召集要求書の中身を見ると、あることに気づきます。

それは、「会期」と「審議事項」が書かれていないということ。

①召集し
②会期を設定しても
③【何を審議するのか】

これが決まらなければ、召集する意味が無い。

だから、野党側との「話し合い」で、③まで詰める必要がある。

少なくとも今回の野党の召集要求書には②③は書かれていないのだから、そこを決めてはじめて「合理的期間の起算点が決まる。

これは論理必然的な話でしょう。

安倍内閣の臨時国会冒頭解散

さて、最近で一番問題視されたのが平成29年の安倍内閣のときに臨時会召集要求から98日後に開かれた臨時国会の冒頭で解散した例。
※衆議院の解散については司法審査の対象外というのが確立した判例

当年の通常国会は6月18日が会期の終日であり、6月22日に野党が臨時国会召集要求をしているので、やはり閉会中の要求だったということです。

ただ、この時は漠然としたものではあるものの「加計学園問題の審理」という目的は要求書には書かれていた。
(上掲下級審裁判例のリンク先参照。なお、国会議員個人に損害賠償請求権が無いとして請求棄却をしているため、合理的期間を徒過したかどうかの審理はしていない)。

しかし、やはり「会期」については何も触れていない

したがって、野党側が会期についてどういう要求をしていたのかが不明なので、臨時国会召集要求の時点を「合理的期間」の起算点にすることはできない。

さて、話を2021年の臨時国会召集要求に移すと…

自民、臨時国会の召集を拒否 野党は「憲法違反」と批判 2021年8月31日 17時26分 朝日新聞

政府・与党が召集に動かないため、安住氏が8月26日に、新型コロナ対策で予備費を積み増す補正予算案を通すための臨時国会を9月7~16日に開くよう森山氏に求めていた

「政府・与党が召集に動かないため」とあるが、召集を求めた側から会期の時期について何ら話をしてこなかったのだろうか?

この文面からは、そうとしか思えない。

「会期や審議内容を詰める話し合いについても無視されてきた」というならまだしも、7月16日に召集要求をしておいて8月26日まで何もしてこなかったのだから、「合理的期間」の起算点は発生していないと考えるべきだろう。

選挙対策・政局のための臨時国会召集要求

日本維新の会が臨時国会召集要求をしていないことから分かるように、今回の召集要求は立憲・国民・共産・社民の選挙対策のための印象操作に過ぎません。

「召集しろ」と言いながら、会期や審議内容については何も言わない。

これでは召集する意味が無い。

無理やり召集すれば答弁や事務処理のために国会の事務員や省庁の官僚が動かざるを得ないが、意義の乏しい召集をしてリソースを浪費するのは避けたい。

結局、8月ってのは与野党ともに国会議員らが地元に帰って挨拶回りをしたり、静養したりなんだりをする時期っていうのが染みついてて、本気で臨時会を召集する気なんて無いんでしょ。

過去の国会の会期についてみてみると、お盆に臨時会が召集されていたのって、昭和の時代に数度ある程度で、ここ40年ほどは8月の臨時会はお盆の手前に臨時会は終わっていたり、それ以降に召集されていたりと、見事にお盆が避けられているのが分かります。

つまり、通常国会が閉会してから臨時国会召集要求を出して、会期や審議内容を詰めずにお盆を超えるというのが既定路線で、その間にも「合理的期間」が進行しているかのように見せかけるという、茶番劇なわけです。

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