傷痕
病気で開腹手術をした娘は、おへそを真ん中にして5cmほど、おへその左右に1箇所ずつ腹腔鏡を入れるために開けた8mm程度の傷がある。
更に術前術後の絶食のためCVカテを鎖骨下から倒したので、首筋と右の鎖骨にも傷がある。
術後は生々しくて、痛々しくて見るだけで気分が沈みがちになった。余談だが、入院中に着せた西松屋の服を見る度に胸騒ぎや動悸が起こり、怒りのようなものが湧き上がるので、退院後暫くしてサイズアウトしそうとか断捨離とか自分に言い訳しながら全部捨てた。
1ヶ月経って、傷は塞がったが盛り上がって赤味が残った。自分の帝王切開の痕は気にならないのに、娘の傷は気になった。二度の妊娠で伸び切って尚且つ経年劣化したわたしのお腹の皮と違い、まっさらで柔らかい肌だから。
3ヶ月が経った頃、お腹の傷をそっと触ると娘がケタケタと笑うようになった。感覚あるんですか。わたしの傷にはないですよ。さすが0歳。きっと細胞分裂の回数が大人の何倍もあるに違いない。
笑っている娘を見てわたしも笑った。赤子の笑い声は本当に愛おしい。幼い娘の体にメスが入ったという心の生傷は少しずつ傷痕へと変わっていっている。と思う。
今は、そのままもっともっと薄くなって見えなくなって欲しいという想いと、頑張った証なのだから、痕が残って何が悪いと思う理性がせめぎ合っている。
将来娘がその傷痕をどう感じるかはまだ分からない。でも、その時にわたしが揺らいではいけないと、それだけは強くおもう。