マルチに沼って、人生詰んだ①-1
かもみる@マルチ借金失敗談 @kamomiru1032
某マルチ商法元会員/活動期間5年でダウンライン・収入ずっとゼロ/
残ったのは在庫と借金(完済済)/毒舌腹黒/心の健康研究中/
ご自身や大切な人がかつての私と同じ状況又は、これからなりそうな方々のお役に立てますように
*
インタビューはお互いの子どもが寝静まったであろう3月1日(金)の21時半からに決まった。
「すみません、まだ子どもが寝付かなくて…」そう何度か連絡をもらったのち、22時半から開始となった。
22:30へ携帯の時計の表示が切り替わるのを確認し、LINEの通話ボタンを押すとすぐに出てくれた。
「夜分遅くに…」と2人して謝り合う。
お互いに顔は出さなかった。
声だけを聴くと20代後半のように聞こえ、
話し方はゆっくりしながらも、
ぽつぽつと言葉を発していく様子に妙な緊張と何からどこまでどれだけ話せばいいのか、という迷いが滲んでいる。
彼女は今33歳、週4日パートで働きながら、夫と2歳の子どもの3人暮らし。平穏な家庭だ、と言った。
彼女は12年前の2012年、知り合いの紹介によりマルチ商法に出会ってから5年間マルチの活動を精力的にした。
90万円あった貯金はおろか自身のカードのキャッシング枠150万円を使い切った。
それでもまだマルチの活動をやめようと思いきれなかった。
「ここまでは先行投資、ここから大逆転できるかもしれない」
何度もやめようと思った。
しかし、これまでつぎ込んだ金額を考えると、
それらがただパーになっただけとはとても思うことができなかったし、周囲の人間もそれを煽った。
チャンスは、これから。
大きな山が崩れていくように5年かけて人間関係も崩壊し、多額の借金を背負うことになった。
ボロボロの心に染み入る優しい言葉
マルチ商法とは、自分の手で売った商品を人に紹介し、
紹介した人がさらに売っていくということを連綿と続けていくネットワークビジネスとも呼ばれる。
自分が売った商品やその紹介した人が売った商品の一部を利益として受け取る性質ゆえに
長く続いている源流のごく一部の人間だけが儲かるビジネスであり、
ピラミッド式のその下位の会員は源流上層部の養分にしかならないのが現状だ。
下位会員でも、知人を会員への勧誘に成功したり、自分が引き入れた会員が商品やサービスを購入すると一定のマージンがある。
稼げるようになるには、自らの勧誘によりどんどん会員および購入商品を増やす必要があり、
ピラミッド式になった組織の上位会員にあたる人間になればなるほどマージンが多くなる。
また一般的にその勧誘手法は、
「誰でも簡単に稼げる」
「自分の夢をかなえることができる」
など、人の悩みやコンプレックスに寄り添う言葉から始まることが多い。
実際に会員の大部分は、知識や経験の浅い学生、主婦、若い会社員などであり、
宗教カルト団体や自己啓発カルト団体も同様であり、手法含めて、類似していると言われている。
かもみるさんがマルチ商法に出会ったのは彼女が21歳の時だった。
「海や川の生き物が好きで、学生時代から“いきものふれあい広場”のようなところでボランティアをしていました。
初めての就職も、水族館などで働くスタッフを育成する機関で働くことが出来て。
それ自体は好きなことだったので嬉しかったのですが、職場で毎日パワハラを受け、精神を病んでいきました。」
聞こえるところで
「あいつ今日もつかえねぇよ」
と吐かれ、
1度しか教えられていないことでミスをすれば、
「てめ、まじで殺すぞ。病院でも行けば?」
と暴言を撒き散らされる日々だった。
「自分はトロいというか、どんくさいというか。
ポンコツだってわかっていたので、あまりに酷い言われようだとも思いながらも自分を責める日々でした。」
小学生や中学生でも、彼女がとろい、という理由で仲間外れにされた。
そんなふうに生きてきた蓄積は彼女に強く、“自分を変えたい・人望も信頼も厚い人になりたい”と思わせた。
彼女は当時隆盛を極めていたFacebookに仕事の愚痴を書き込むことで、自分の心を保とうとした。
「学生時代の生き物のボランティアで、みんなの中心にいるような憧れの先輩に、Facebookで声をかけられたんです。
『大丈夫?ご飯行こうか?』って。
嬉しくて、ご飯行きました。
ストレスで夜眠れないこともあって、昼間にレッドブルを当時すごく飲んでたんですけど、
『レッドブル飲むならこっちのほうがいいぞ~』って渡されたのがチェンジ(仮名)のエナジードリンクでした。
その場で勧誘は始まらなかったし、そのときはそんなこと少しも疑ってなかったんですけど…」
チェンジとは、ホームページによると
エナジードリンク・サプリメント・化粧品などを通じて、人々の健康と幸福をサポートする会社であるらしい。
心なしかレッドブルより、もらったエナジードリンクの方が体がラクになる気がした。
普段、通勤電車で座りたくてたまらないほどの疲れも、その日はあまり感じなかった。
その効果に驚き、先輩に「これどこに売ってるんですか?」と連絡を入れたら、
「会員制の通販だから、買っておいてあげるよ。」
とだけ言われ、彼女は素直に甘えた。
「そのあとくらいからかな…
健康に関するセミナーあるからおいで、
とか何度か誘われるようになりました。
最初は面倒だし断ったりもしてたんですけど、
なんかその日は行ってみようかなって思ってしまったんです。
憧れの先輩が参加することもあって、
試しに行ってみてダメだったら“自分を変えたいって思うのももうやめよう”って思ってました。
なんか、もう諦めた方がいいんだな、って思っていて。」
そこで参加した自己啓発セミナーが、
ぼろぼろになっていた彼女の心に突き刺さった。
“1を出したらあっちを向いて、2を出したら目を合わせる。
3を出したら握手して、4を出したらハグをする“
内側と外側の2重の円を作って、
向かい合う知らない人に、
自ら選択した番号を出して、
目を合わせたり、握手したりした。
そうしているうちに、主催者が大号令を出した。
「4のハグを誰も出してないじゃないですかあ!
ここで4を出せる人間にならないと変われないですよ!
あなたは一生今のまま。それでいいんですか~?!
成功しなくていいんですか~?!
どんどん4を出して行きましょうよ~!」
気まずさを抱えながら、
参加者たちが4を出し、ハグをし始めた。
ハグに慣れてくると、むしろ心地よくなって、
荒廃し尽くした心が初めてケアをされているような気持ちになった。
涙がどんどん出てきた。
「受け入れられる、とはあまりにほど遠い環境に身を置いてきたので、ハグがすごく沁みてしまったんです。
職場とは別に、小さいときから人との距離を間違えてしまって、
重いって思われるというか、引かれるような経験をたくさんしてきたので。
すごく嬉しかったです。
自分の居場所みたいに思えました。」
10時から20時まで続いたセミナーから帰宅しようとしたとき、
モデルのように美しい絵美さん(仮名)に挨拶され、お茶の約束も取り付けた。
疲労感はあったものの、なんかいいことが始まりそう、と彼女の心は満たされていた。
どん底から這い上がれるチャンスだと掴んだその切符は彼女の身を亡ぼすことになっていった。
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