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帰省①

 久しぶりに戻った地元は私を歓迎していないように思えた。


 八月。地元である青森へ帰省した。四月に大学進学のために故郷から離れ一人暮らしを始めた自分にとって帰省というものをするのは初めてで、最初はどれだけ感慨深いものなのかなとか想像していたけど、当然といえば当然そんなものはなく地元はただの地元だった。

 駅のホームで父親が出迎えてくれて家まで車で帰る。自分に土地勘がなく、さらに深夜ということもあってか、見慣れない道がずっと続いていた。街灯が本当に少なく、そして怖いくらい静かだった。

 実家に戻ったはいいもののやることもなく、いつものようにスマホをいじって怠惰に過ごすだけだった。これじゃあ仲の良い先輩方と会えないだけであっちにいてもこっちにいても同じじゃないかと、もう帰りたい、今すぐ一瞬で戻れるなら戻ってしまいたいと本気で思った。これじゃあいけないと思い、とりあえずドライブしようと車を走らせた。

 ドライブといっても、行くところは本当に何もない。大体の店は閉まってるし、唯一やってるのはコンビニと牛丼チェーンぐらいだ。どこかへ行くことは目的とせず、ただ久々に見慣れた道を走ろうと思った。

 一人で運転するときは音楽やラジオを何もかけず無音の車内にする。フロントガラスから見える建物は深夜ということもあり、輪郭だけしか見えずなんだか怖い。久々の地元の道は、建物は、なぜだかえらく客観的に見えた。初めて通る道みたいに、初めて見る建物みたいに見えた。故郷ではあるのだけど、自分の故郷ではなく、誰か別の人に乗り移ってその人の記憶を介して見ているような気持ちになった。なんだかそれにひどく寂しくなった。初めて青森を離れ、つくばへ来たときもそうだった。

 「街が私を歓迎していない」ように思えた。

 歓迎していないのは寧ろ自分の心だと分かっている。自分というフィルターを通して世界は色を変えることを知っている。

 知っているからといって解決はしない、明日になったらきっと元に戻っているんだろうなと思いながら誰かの故郷の道を通り続ける。

 暗闇の図書館、コンビニにたむろする若者の集団、法定速度を優に超えて私を追い越してすぐに見えなくなっていく車たち。

 ナビに従って入った道が本当に知らないところで、このまま崖まで、もしくは戻って来れない森まで自分を連れて行こうとしているんじゃないかと思った。


 初めて煙草を吸ったのは、青森を離れる少し前だ。コンビニでライターとなんとなく知ってる銘柄を買って、わからねぇなと思いながら火を点けた。同じコンビニの前に車を止め、初めて吸ったものと同じ銘柄を買い、同じように火を点けた。

 あのときと同じ光景を眺めながら、同じ煙草を吸いながら、過去の自分と今を対比する。変わってしまったものなんて何もないはずなのに、なんだかまた寂しくなってしまって、すぐに帰った。

 寝れるはずもなく起きていた。

 いつの間にか寝て、その夜はそれで終わった。

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