帰省③
帰省について書こうと思ったのは、この日のことがあったからだ。前置きしておくが、その日についてネガティブなことをたくさん書く。だから、自分の知り合いは特に読むか読まないかちゃんと判断してほしい。もし、自分がまだ高専にいたらこんな文章は書かないと思うけど、もうそれぞれの場所だから、だから許してほしいというか、書いてしまいたいと思っているから書いてしまう。前置きは終わりだ。
指定された店へと前日泊まらせてもらった友達とバスで向かう。高専時代の男子が一斉に集まる飲み会がその日はあった。主催者とつくばへ一緒に行った友達は直前の体調不良で来れないらしかった。それでも十人を超える高専時代のあの友人達が一斉に集まれることはやっぱり単純に嬉しかった。
八戸ブックセンターという市営のめちゃくちゃ良い本屋があって、そこに行きたくて飲み会の時間より早めに向かった。そこで一人の大好きな友人と合流する。そいつはまたお洒落になっていた。再会もほどほどにすぐに各自が好きな本を見て周る。本当に選書がいい。いろんな雑誌のバックナンバーもたくさんあって、表紙を眺めるだけでも楽しい。
一時間半から二時間ぐらいはそこで時間を潰した。本当にあっという間で、結局本も二冊買ってしまった。指定の店はそこからめちゃくちゃ近かったので、ギリギリまでいた。
歩いた先にはすぐに指定の居酒屋があって、自分たちのテーブルは二階らしく、階段を上がる。案内してくれた店員さんだと思っていた人が友達で驚いた。襟足が伸びたぐらいで全然雰囲気は変わっていなかったけど、社会人になったそいつが一番大学生みたいな見た目をしていた。
横並びのテーブルにだんだんと友人が集まってくる。これまで通り、どの友達も感慨深さは全くない。お疲れ、久しぶり、ぐらいの軽いテンション。本当に会ったのが昨日の今日みたいな感覚だった。
渡された薄っぺらい紙に書かれたQRコードを読み込んで、それぞれお酒とか食べ物を注文する。二階のフロアに客は自分たちしかいなくて貸切状態みたいになっていた。
乾杯も済ませ、各々話し始める。
端的に言ってしまうと、飲み会は楽しくなかった。何も、本当に何も話せなかった。誰が悪いとかじゃなくて、そういうことを話す空気じゃなかった。自分も上手く話せなかったし、上手く聞けなかった。居酒屋はハズレを引いたようで、注文された飲み物も料理も全く来ない。最後まで、お腹いっぱいになることもなく、飲み会は終わった。
僕は、あの日の続きがしたかったし、一緒に過ごした時間をもっと振り返りたかった。今みんなが頑張ってることとか楽しかったこととか、ヤバかった人とか、悩みとか、そういうものを共有したかった。大声で変なことを話したかった。肩を叩いて、雑に絡んで、何も考えずに言いたいことを言い合いたかった。僕が求めていたのは、テスト終わりとか卒業前に行ったあの焼肉のときの空気だった。
実際に行われていた(自分もした)会話は、初対面で相手のパーソナリティが分かっていない状態で行うあの上っ面の情報交換みたいな会話や、本当に低俗で何も面白くないただの下品な下ネタの話とかそんなので、なぜかあのときのように話せない。正直うんざりだった。「こうじゃない」だけがずっと心につっかえていた。
分かっていたことだし、そうなると予感はしていたことなんだけど、型にはまった像というか、作られた物語とか評価に乗せられた空っぽな人に友人が見えるときがあって、心底萎えてしまった。全部が全部じゃないし、みんな友達は大好きだって今も言えるんだけど、それでも、変わったというか、ああ、もうこうなっちゃったんだ、って、こういう話しか俺らはできないのかってなってしまった。
一度だけ、全く面白くないのに作り笑いで声を上げて笑った。これまでならそんなこと絶対しないはずのことをしてしまった。「それはダサいよ」とか「お前そんなこと堂々と話して恥ずかしくないの?」とかこれまでだったら信頼の上で言えていたようなことを、「よくないわ」とか「それだけが大学生活じゃないからね」とかなんだか上滑りした言葉だけが口から出てくる。
なんでこんなんなんだって思いながら、なんとなく目の前のチャーハンを食べて、誰かが美味しいっていうからそうでもないのに美味しいって言ったりした。お腹はずっと減っているのに、なんだかもう何もいらなくなっていた。
空気が澱んでいて、空回りした感じ。リズムがずれていて誰とも上手く話せない。楽しそうにしている人を見て、これの何が楽しいんだって心で愚痴る。二次会なんて行く気に全然ならなかった。
友達の家に何人かで帰ってきてから、そのとき思っていたことをそのまま言った。友達の中でもさらに信頼できる人たちだったから愚痴ってしまった。
「だって、俺たち逸れもんじゃん! そういう普通になれなくて、そういう普通が嫌いで、心底ダサいって思ってて、今まではそういう人少なかったけど、そういうこと思ってる奴らが寧ろいっぱいいたのが高専じゃん、そこで変なことしようぜ、おもろいことしようぜって言ってたのが俺たちじゃん! なんで今更そんな普通になっちゃうんだよ」
一字一句これじゃないし、絶対盛ってるけど、そんなことを言いたくてずっと話した。「俺は、まだおもろいよ、がんばってるよ」とか変な自己肯定もしていた。「友達のことはダサいって思いたくないじゃん? でも思っちまったんだよな」「もっといっぱい聞きたいのに、なんでこんなんになっちゃうんだよ、楽しくなかったよ」とかぶつぶつ呟いていた。ゆっくりその場にいた友達と少しは話せた。話したいことを話せた、けど、自分のテンションが追いついていないせいで純粋にその場を楽しむことはできなかった。
泊まるか悩んでいたけど、自分の気持ちが萎えてしまって一人になる時間が欲しくて無理やり帰った。なんだかうまくいかない日だった。
同じようなことが過去に一度あった。小学校の頃の友達数人で夏に集まったときだった。
みんながみんなとは言わないが、ほとんどの人をつまらないと思ってしまった。面白くなかった。話題は酒かタバコか金か内輪のゴシップの話、仕事や大学での話は全然なく、こういう話がしたいんじゃないとずっと思っていた。帰ってからしばらくして、そこのLINEグループからは抜けた。そのときのことがあって成人式も行かなかった。具体的なエピソードとして、何が嫌だったとかも書けるけど、それよりも本質的には、そこの雰囲気が嫌いだった。なんか違う、なんか嫌だ、俺はここ好きじゃない、ここは俺のいたい場所じゃないって思うあの感じだ。
今回の高専の友達の集まりでもあの時と同じような感情が出てきて、出てきてしまったことが悲しくて、それでダメになってしまった。しょうもないって思ってしまった。ダサいって思ってしまった。そんなこと思いたくないけど思ってしまった。
どうすればもっとちゃんと話せたんだろう、もっとちゃんと話したかったし、もっとちゃんとふざけたかった。僕たちのいいところはあんなんじゃないと思うんだ。僕たちはもっと面白かったはずだよ。もっと楽しく、あんなまがいもんの即物的な楽しさじゃなくて、もっと、もっと、俺らは変なことで笑えるはずだよ。もっと変なことしようよ。もっと誰にも理解されない無駄なことで笑おうよ。真正面から頑張ってるあなたの話がもっと聞きたいんだよ。
僕はあの高専での時間が本当に大好きだ。僕もあなたも変わってしまうかもしれないけど、それでもあの続きがずっとしたいし、あの続きが本当に出来なくなってしまったら、多分全然耐えられるけど、すごく悲しいことだと思う。
次は、もし次があったらゆっくり話そうよ、お酒なんてあったってなくたって俺たちは面白いんだから楽しく話せるに決まってるよ。お酒があってももっと楽しく話す方法がきっとあるよ。おもろかった瞬間をみんなで話して、見て、思い出そうよ。今のあなたの頑張ってる話を、変なことした話をもっと聞かせてよ。俺も面白くあり続けられるように頑張るからさ、そんなつまんないこと言わないでよ。
悲壮感たっぷりに書いてはいるが、友達の中でも本当に信頼している人については、全くこれまで通りで、今後も楽しく話せると思う。それでもこの日のことは、結構心に効いた。
初めての帰省はそんなんで終わった。少人数でゆっくり温泉でも入りながら話すのがやっぱりいいんだろうなと思った。
頑張るよ。また話そう。