生物学の話をしよう

この記事はbiol2024アドベントカレンダー1日目の記事です
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一番勉強をしていた子に「なんでそんなに勉強するの?」と直球で聞いたことがある。確か高専2年生の頃だ。彼はクラスの中で「勉強ができるキャラ」としてみんなから見られていて、彼もそれをアイデンティティとしていたように思う。彼は放課後に勉強ができない人たちを集めて自主的に「授業」を開催するようなヤツだった。

流れるような話し方と特徴的な丸字のきれいな板書。たまに笑いが起きながら淡々と進んでいく問題解説。聞いているのは彼と仲が良い女子、男子、そしてやじうまのように参加した私。編入受験時代は彼に私も相当世話になった。

当時、別に私は彼とそこまで仲が良いわけではなく、お互いに同じクラスメイト、友達の友達ぐらいの距離感だった。

「なんでそんなに勉強するの?」
昼休みの教室。楽しげに話している中、たいして仲も良くないヤツに急な変なことを聞かれたからか彼は少し困惑していたと思う。そして少し考えた後、
「だって難しい問題が解けるのが嬉しいから」と言った。
「ふーん、まあいいんじゃないすか」みたいな適当な返答を私はした気がする。記憶はそこで終わる。

覚えていることと言えばその返答を「嘘だ」と思ったことぐらいだ。普段使いの気持ちの悪い言葉で言えば「フェイク」だと思った。

彼は学問が好きなようには思えなかった。だけどこんなに勉強をしていてそれをアピールしている。一方僕は学問が好きという気持ちがあるだけの落ちこぼれだった。多分そのギャップが気持ち悪くて解消したくて聞いたのだと思う。

別に彼は授業範囲を超えた勉強をしている様子はなかったし、僕たちが専門的に勉強していた化学に愛があるようには思えなかった。そういうのは話していればなんとなくわかる。キャリアのための勉強、結果のための勉強。勉強ができるとは、与えられた問題を繰り返し解き、それをテストで再現できることだとでもいうように彼は完璧な準備をして完璧な結果を得ていた。

彼が好きなのは「勉強ができる自分」であり「他者よりも能力が高い自分」なんだろうなと彼の答えを聞いてなんとなく思った。


学問が好きなやつなんて大学に入るまではほぼいなかった。

返ってくる反応はいつも言葉に出さないが「まあ、どうでもいいかも」か「あなたはそんなに興味が深くてえらいでございますね」というような口を若干への字にしたあの顔で、講義を聞いて自分が感動したことを伝えても「さっきの講義そんな話だったんだ、それで何を覚えておけばいいの?」という反応がほとんどだった。


去年のことである。実験の待ち時間、暇で暇で何を思ったか私は隣のTAのバイトをしていた友人に自分の好きな心の哲学の話をしていた。一通り私が話した後「自由意志はあるかどうか」そんな話に移った。

「ない」という友人に対して生物学ならともかく、哲学なら俺の方が知っていると議論をふっかける。本で聞き齧っただけの知識を使って反論した。

大体はこれで終わってしまう。「そうなんだ」か「何言ってるかわからない」。しかし、そいつはさらに反論してきた。それもクリティカルな反論だった。嬉しかった。

「いいサンドバックだ!!!」とそのとき思った。こいつは自分が何を言ってもすぐに倒れたり逃げるようなやつじゃないという安心感があった。話せるという嬉しさで実験そっちのけで話した。

類は友を呼ぶというように、私の周りにはそれぞれの生物好きが気づけば集まっていた。学問が好きなやつ、何かに対してガチなやつが私は大好きだ。

宅飲みでみんなが恋愛話を広げている中「そんな話より顎の話しましょうよ」と言ってくる一年生がいれば、急に「幼生に対しての相同性はどうすれば成立するか」って話を振ってくる友人もいる。実習での飲み会の最後に「だから俺たちは生物学をやるんだ!!」とほぼ初対面なのに握手するようなこともあれば、「棘皮動物の五放射相称の形態がなぜ進化したのか」に取り憑かれているやつもいる。「分子生物学しか興味ないです、細胞よりでかいものは意味ないです」というやつもいれば、気付けばどこかの島にすぐに巡検しに行き聞いたこともない菌類を探し求めるヒゲ友人もいる。

彼ら、彼女らは本当に楽しそうに自分の好きなものを話す。だからそこまで興味のない話であっても聞きたいと思わせてくれる。生物学は本当に広くて、手法も考え方も全然違う。お互いの興味が被っていることがなくてもこいつも学問が好きなんだという連帯感で今日も私は自分の好きな話が出し惜しみなくできる。そしてそれは本当に素敵でありがたいことなんだと思う。


実験終わりの21:00頃。満身創痍で中華料理屋へ飯を食いに行く。店は混んでいて、そこらの大学生の話し声が聞こえてくる。

隣では男女が二人で座っていて私と同じく注文した料理を待っているらしかった。聞き耳を立てると男が自分のキャリアの話を一方的にしている。

おそらく医学の人たちで話している詳しいことについては何もわからなかった。けれど、まとめてしまえば「俺はすごい、俺はこんなに優秀なんだ」という内容で唯一覚えているのが
「こんだけやりゃあ絶対勝てるでしょ」という言葉だった。

対して別の席では一年生と思われるグループが話している。

「学類どこだっけ」
「生物資源」
「なんで生物資源に入ったの?」
「え、どこも入りたいところなくて楽そうだったから」

と、そんな会話が聞こえてきた。

他の知り合いと話していたときも

「別に自分の学類でやってること話せって言われても何も話せないしな」
「そりゃそう」

これが普通だよね、みたいなそんな嫌な安心感。

そんなものだと思う。本当にそんなものだと思うんだ。自分だってもし十年後企業で働いて学生であるという大義名分がなくなったときに今の熱量を保てているかというと自信がない。それでもこういう話を聞くとため息をつきたくなる。「お前の知りたいことはなんなんだ」「お前は何がしたいんだ」とレバニラを頬張りながら心の中でキレるのだ。

学問が好きなやつなんて大学に入るまではほぼいなかったし、本当に好きで一時間でも二時間でも語ってくるやつなんてごく限られているんだと思う。
これは学問に限ったことではない。何かに対してマジになっている人がどれだけいるだろうか。それを思いっきり話してくれる人がどれだけいるだろうか。
もし今自分が生物学類の友人と会えていなかったらと思うと、本当につまらないまま大学生活を終えただろうなと思う。「どうでもいい」が増えていくことに怖くなる。


あなたの好きなことの話がもっと聞きたいのだ。
世間話のノリで学問の話をマジになって楽しく話すようなやつらがもっと増えていいと思うのだ。


ここから宣伝チックな話に移る。

筑波大学には「⚪︎⚪︎つくば」という特定の学問分野の話を学生がプレゼンテーション形式で話すイベントが存在する。現在は哲学の話をする「哲つくば」、言語学の話をする「言つくば」、歴史学の話をする「歴つくば」などが存在する。生物学においても(生物学というよりも「生き物全般」に趣旨は近い感じはあるが)「生つくば」が存在するが現在は無期限休止となっている。

私はこの「生つくば」もしくは、新しい「生つくば」のようなイベントを開催したい。
身内に留まらず色んな人の生物学の話が聞きたい。

しかし、私はめんどくさがりである。これ以上は正直何も決めていない。需要がどれくらいあるのかもわからない。いつ開催するかも未定である。(来年度始めぐらいにやりたいなという気持ちはある)
そこで、とりあえずDiscordのサーバーを作った。入ったからといって運営の仕事を必ず任せるわけではない。気軽に「筑波大学の生物学が好きな人たち」が集まり、後々「生つくば」のようなイベントをやる準備をする場所にしたい。

正直、自分は現状の人間関係で満足しているし、このサーバーでサークルのように積極的に交流を深めようとかは思っていない。言ってしまえばこのサーバーの運営に対してそんなにやる気がない。生物関係のサークル・団体は「野生動物研究会(やどけん)」を始め「バイオeカフェ」「ねっしー」「iGEM TSUKBA」など数多く存在する。リアルでの交流を深めるのはむしろそっちでやった方がいいと思う。

極個人的な話をするのならば、今いる友人たちと進学・就職などで今後離れたときにお互い今興味を持っていることを共有できる一つの場所を作っておきたいという気持ちでこれを作った。


そんな何も決まっていない状況ではあるが、もし気になる方がいれば気軽に入ってきて欲しい。(基本的には筑波大学の学生に限る、その他の方は別途連絡を X:@7ta_itf まで)


そして生物学の話を思いっきりしよう。

僕はあなたの話が聞きたいのだ。


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