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我々は支配者なり。いざ無限の旅路へ。【SF短編】


 幸運にも宇宙船が墜落した星の環境は、我々の生存に適っていた。

 我々を最後の最後まで守ってくれた宇宙船は、その威厳のある雄姿を爆炎に包まれながら水面の下へと沈んでいった。我々は陸地に辿り着く。巨大な河川のある肥沃な土地は生命に溢れていた。どこまでも続く平野と遥かに望む山々が、我々の存在を受け入れてくれる寛大さを誇っているようだった。

 しかし、宇宙船は壊れてしまった。我々は二度と故郷へ帰れなくなってしまった。到着して早々にこの星の生物と文明レベルを調べてみた。知的生命体は存在しているものの原始的な社会の発展途上であり、星間飛行技術など影も形も存在しない。海に沈んでいった宇宙船を引き上げて修理することも、一から宇宙船を建造することも不可能だ。
 私は皆を集めて、包み隠さず全てを話し、一つの結論を示した。

「我々もこの生命に満ち溢れた星の一員となろう。この星こそが我々の新たな故郷になるのだ」

 皆も同じ気持ちであったらしい。懐かしい故郷を思えど、帰還が叶わぬのならば新たな夢を見出して、未来に希望を抱くことを選んだのだ。我々の代で叶わなくとも、この星で文明を築き上げていけばいつの日か、もしかすると我々の子孫が、我らが懐かしき故郷に星間飛行で帰り着くかもしれない。それは全てを賭すに相応しい、偉大な夢だった。

 そうと決まれば話は早かった。我々はこの星の先住民である知的生命体とコンタクトを取る。「彼ら」と我々とでは頭脳や肉体が大きく異なり、言語的な意思疎通は難しかった。だが原始的な「彼ら」は我々に対して温和な性格であり、争いは起きずに受け入れられた。我らは共存の第一歩を歩み始めたのだ。

 「彼ら」の未開ぶりは目に余るものだった。せっかく建造した食料貯蔵庫に外的野生生物の侵入を許しその強奪をみすみす見逃していた。なんと非効率的であろうか。我々は全員で団結し食料貯蔵庫の管理を自主的に行い、外的野生生物の撃退を成功させた。「彼ら」はそれを非常に喜び、我々との共存関係はより強固な絆へと昇華した。

 我々は彼ら知的生命体の支配を行った。「彼ら」は我々を崇め奉り、貢物として快適な居住空間と食料と安寧がもたらされた。我々が些細な仕事を行うだけで「彼ら」は大いに喜び、勤勉に労働に励み社会を育み文明を進化させていく。時に「彼ら」は異なる種族同士で衝突し、益体もない戦争の果に滅んだり栄えたりしていく。

 文明が発達していくにつれ、増えていった我々も多様性を求めて大移動を開始した。知的生命体である「彼ら」の旅に便乗し未知への大冒険を行うのだ。二度とは会えぬ別れであっても寂しくはなかった。どれだけ離れても我々の心は夢で繋がっている。互いに研鑽し互いに強く生きていこうと誓いあった。

 無限の海と山を超えていき、知的生命体を支配し続ける限り、我々の夢は永遠なのだ。

   ◆

 あれからどれだけの月日が経っただろう。
 この星の文明は高度に発展した。「彼ら」は相も変わらず争い憎み合い、時には理解しあって愛し合い、共に生きていく。そんな知的生命体として文明を極めに極めて、ついには星間飛行を実現できる時代にまで到達した。巨大に膨れ上がった国と呼ばれるコミュニティ同士で団結しあった結果だ。彼らの支配者である我々にとっても非常に誇らしい。
 過度の開発により星の自然環境を著しく穢してしまった際にはひどく落胆もしたが、終わりよければすべて良しというものだ。星の環境保全にも動き出して開発された技術が、宇宙空間での生存や惑星開拓の礎となったらしい。

 「彼ら」が開発した宇宙船に乗って我々も共に旅立つ。生存に適した星を開拓していく、無限の旅路だ。その果てに懐かしき故郷があれば、先祖代々の夢を叶えられるかもしれない。心の奥が熱く燃え上がるほどに高揚していた。

「それじゃ、いこうか」

 「彼ら」の一人が呼びかけてくる。
 そうだ。我々の旅はこれからも続く。我々が支配する限り、君たちの繁栄もきっと続いていく。それはなんと素晴らしいことだろうか。
 この旅路の始まりを彩るかのように、数え切れないほど多くの先祖を代表するかのように、我は声を高らかに宣誓した。



「にゃあ」



【終わり】

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ナタ
私は金の力で動く。