映画感想:『シュガー・ラッシュ オンライン』はディズニー最大最高の悪巧みと悪ふざけが織りなす「変化と維持と友情」の物語である。(ネタバレ少々アリ)

『シュガー・ラッシュ オンライン』を見終えた。

 端的に言おう。名作とはいかないが、傑作であった。ディズニーにしかできない最高で最大の悪ふざけとパロディを超一流の技術とセンスでやってのけたという怪作。前作が面白かったと思うなら絶対に見に行くべし。6年越しの出会いがそこにある。

 前作シュガー・ラッシュで、主人公ラルフは悪役として27年間その役割を演じ続けたが、それに嫌気が指し、ヒーローになるためにメダルを求めて別のゲーム世界に旅立ち、レースゲーム「シュガー・ラッシュ」で出会ったバグだらけの女の子ヴァネロペと出会うというお話。その続編だ。
 二人の友情は前作が終わってからなんと6年間続いていた。現実と同じ時間が流れていたのだった。ある事件がきっかけでシュガー・ラッシュが閉鎖されてしまい、難民が大量発生してしまう。ヴァネロペの居場所を取り戻すためにラルフは、二人でインターネットの世界に飛び込むというのがお話のあらすじ。

 さて、ネタバレ満載でいこう。
 今回の映画のテーマは「変化を求める者」と「現状を維持したい者」との対比である。
 ヴァネロペは「予想もつかないワクワクドキドキすることを求め続けたい」自由を求める者である。
 一方ラルフは「ヴァネロペという親友を手に入れた現状が最高に幸せ」であるため、それを取り戻すために行動する者である。
 二人は意見は違うけれど、親友であることには違いない。ヴァネロペ自身も冒頭で「違う意見があってもいいのよ」と言う。物分りいいなぁ!
 しかしラルフは馬鹿だ。「違う意見があるということは友達ではなくなるのでは」と心配をしてしまうほどに物分りが悪い。

 ラルフとヴァネロペが原因となったある事件によりシュガー・ラッシュが閉鎖しようとしてしまう。ラルフは悲嘆するヴァネロペを見て「笑顔を取り戻そう」とインターネットで修理部品であるハンドルを手に入れようと閃く。実はここが肝心。行動し始めるのはヴァネロペではなくラルフなのだ。

 そして辿り着いたインターネット世界で金稼ぎのために来たハードスラムで退廃的なレースゲームに訪れるのだが、その自由度がヴァネロペの心にしっかり来る。ここが第二の故郷だと言い張れるくらいに彼女に馴染んだのである。「変化を求める者」にとっての理想郷に辿り着いてしまったわけだ。

 一方でラルフもハンドルを手に入れる資金稼ぎのためにバズったりユーチューバーになったりして見事大金とハンドルを手に入れる。これで「現状を維持したい者」としての望みも叶うようになったが、当のヴァネロペは心がゲームセンターへの帰還からインターネットへの移住に移り変わってしまっていた。

 これは、裏切りではないんだが、物分りが悪いとそうはならないんだ。

 実際のところゲームセンターに戻るよりもインターネットにいるほうが「ヴァネロペは元気で夢を叶えられる」のだが、「変化」ではなく「現状維持」を求めようとするラルフは理解が及ばなかった。そんなこんなでアンダーグラウンドの悪いやつに誤解したままある事件をやらかしてしまう……というのが転換部分。

 実際のところ物語としては前作で完結した部分もあり、見方を変えれば蛇足めいた部分にもなるだろう。「人はそれぞれ違うのだから意見が違ったっていいじゃない」という根幹的で哲学的な真理を、物語初頭からヴァネロペはその境地に至っている。物語とは感情の変遷にあるのだからどうやるのってところで……この物語の主人公が一体誰だったのかを思い出すわけだ。

 そう、ラルフだ。悪役の壊し屋ラルフだ。
 この物語は「馬鹿で物分りの悪いラルフが、意見が違っても友情は続くことに気づく」ための物語である。
 わざわざ6年の時間が現実でも続いていたこと、物語として登場するディズニープリンセスたちがヴァネロペと友情を結んだこと、そして「ラルフ」が現実世界で人気者になること。これが意味をなす部分とは「今まで現実世界にまで乱入できなかった物語の登場人物が、次元の壁を超えてそこに存在するかのようにできる」という新境地を追い求めた結果だったのだろうと思ったりする。
 そしてその上で「友情は変化しても決して失われない」というメインテーマを描ききったまさに意欲作だった。

 ただすでに完結したストーリーであったわけだし、本作のストーリーラインは結構力押しというか整合性的にどうなのと思う部分もあったりする。あれだけ前作で登場人物が欠けたら一大事だって話だったのにここまであっさりやっちゃっていいの、だったり。
 そういう部分も含んだ上で、ディズニーがやりたかった最大にして最高の悪巧み、悪ふざけ、悪知恵とエンターテインメントがそこにあったのである。

 ディズニープリンセスにドレスを脱がせてTシャツ姿にさせるなんて予想外にも程が会ったわ……!! でもそうであっても彼女たちはプリンセスなのだよ。ドレスを纏っていなくてもね。

 小ネタで言うならそうだな、多種多様のメディアが登場してたわ、youtubeにAmazonにTwitterにFacebookに、よく注意しなければ見逃すけれどWikipediaもそこにいたりした。ソーシャル・ネットワーキング・サービスあるあるネタを毒混じりにブラックに描ききったのも今作の魅力よ。

 ああ、ソニックも喋って動いていた。日本語吹き替えだと金丸さん本人だよ。しかもディズニーコーナーだとバズ・ライトイヤーの声がちゃんと所ジョージさんだったり、ズートピアの狐もはっきりと出てきたりやりたい放題そのものだった。ディズニープリンセスに至っては全員原作と同じ声だよ。いくらかかってるんだよこの映画!! あ。ディズニーだったわこの映画。いいのかよ公式が二次創作を本気でやらかして。本気にも程がある。

 そしてなんとなんとディズニーつながりで、スタン・リー御大の姿もちらっと見えたり。彼は永遠に物語の世界で生き続けるのかもしれないなぁ。ありがとうスーパーヒーローの父。

 いろいろ興奮してきたが文章としてまとまりがなくなってきたのでここらへんにしておこう。ぜひ見に行ってほしい映画であった。

私は金の力で動く。