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【読書記録】青い壺 有吉佐和子
青い壺 有吉佐和子
文春文庫
ある日ふらふらと紀伊國屋に行ったら、ベストセラーの棚の堂々1位に有吉佐和子の『青い壺』が。
有吉佐和子(1931~1984)。
何年も前のことですが、花街に生きる二人の女性の人生を描いた『芝桜』『木瓜の花』、セリフを覚えてしまうくらい繰り返し読みました。ほかにも、『複合汚染』『恍惚の人』『華岡青洲の妻』『悪女について』など、夢中になって読んだ作家の一人…のはずなのに『青い壺』という作品のタイトルさえ知らなかった!
流行っているものは買わない、という歪んだ性格のわたしですが、今回は思わず手を伸ばしてしまいました。
何も引っかからないまま読み終わりました。しょんぼり。
『芝桜』のせいで、期待が高すぎたのかもしれません。
人の手から手へと渡るひとつの美しい青磁の壺。一時的にその所有者になった登場人物たちの姿が、オムニバス風に描かれています。戦後間もない昭和の家族の、親子、結婚、嫁姑問題、老後や介護、世代間摩擦。さらに富裕層と困窮者たちの暮らし向きの違いも盛り込みつつ、芸術家や医療従事者や水商売やビジネスマンなど、日本社会のありとあらゆる情景が切り取られ、説得力を持って目の前に迫って来ます。ジャーナリスティックといえばよいのか、とにかく全方位に詳しい(らしい)作者の筆が生き生きと立っています。
家父長制が今よりもっと当然だったあの時代の言葉遣いや人間関係の対処の仕方も、今読むと新鮮で面白いかもしれません。わたし自身が昭和の女なため、読んでいるとたまにイラっとしますけどね。同族嫌悪なのかもしれません。
主人公たる美しい壺は、偶然壺を手に入れた人びとの生きざまを切り取っているこの物語の、「つなぎ役」でしかない感じ。壺に旅をさせるための展開にもやや無理があります。そもそも製作者である陶工の手を離れる経緯も、彼の留守中にデパートの人が無断で持っていくという不思議な展開。その後も、「偶然」買われたり盗まれたりお礼品になったりと、さまざまな人を書きたいがために、無理やりアクシデントを起こしているみたい。必然性が絶対偉いとは申しませんが、壺の存在はわたしには結構唐突に思えました。
複雑で多様な社会で、この壺はどこへいっても不変の存在(モノなんだから当然だけど)。そして、その価値や評価は見る人によってさまざま。とすると、この壺は、美や芸術の普遍性のメタファーかなにかなのでしょうか。陶磁器について何も知らない不調法なわたしだから、こんな読み方しかできないのでしょうか。
有吉佐和子の文章はいつでもすばらしく的確で読みやすく、説得力があります。しかしそれは同時に、謎も毒も詩情もないスタイルにもなりえます。この辺りは好き嫌いの問題ですが。
登場人物のありようがやや類型的で一面的、それゆえの安定感が滲み出るこの作品は、総合的には読者サービス満点の、いい意味のマンネリズム(という安心感の供給)が漂う小説といえましょう。そして、作者はわりと適当に楽しんで書いたのかも(勝手に決めるな)。だって磁器や着物や料理のくだりは本当に楽しそうなんだもん。
有吉佐和子の小説は、もっと殴りかかってくるようなテーマの作品の方が絶対面白いです。(言い過ぎだってば)
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