流木

半農半ニート。生きているだけ。

流木

半農半ニート。生きているだけ。

マガジン

  • ニートマガジン

    • 208本

    みんなで作るニートなマガジン。ニートの日記、エッセイ、活動記録、ノウハウ、メンタル問題、低コストな娯楽、節約方法、貧乏旅、思想や哲学、作品評など。

  • 逍遥日記

    日記。

最近の記事

逍遥日記#27 千円と都市生活

ベランダから解体中の家屋が見えた。どこの町にもあるような、他の小綺麗な家々に比べて頭一つ分低い、おそらくずっとその町で暮らしてきたであろうお年寄りが住んでいそうな家だった。 4、5人の作業員が屋根に上って何事かを怒鳴り合いながら瓦をひとつひとつ剥がし、家の横にある駐車場くらいの空間に放り投げていた。 まだらに瓦の剥げた、赤茶けたトタンの張り付いた家はなんだか食べられている途中の焼き魚みたいに見えた。 ここしばらく悪天候が続いたのと、中途半端に寒くなってきたのとでややぐったり

    • 逍遥日記#26 そういうものだろう

       朝起きて携帯を見ると、珍しくメッセージが何件か入っていた。「Happy Birthday!」がふたつと、「誕生日やんけ!」がひとつ。あとは電話帳に登録の無い番号からの着信が一件あった。  今日は誕生日で、バイトは休みで、外では雨が降っていた。  またひとつ年を取った。はて、年齢としての数字は増えているはずなのに年を「取る」とはどういうことだろうか。と思って調べてみたらどうやらこの場合の取るは加算するという意味での取るであるらしい。なるほど、前回の誕生日から今回までの一年を

      • 半農半ニートの一年

         小動物の足跡が残るさらさらに乾いた地面を掘ると、そこには湿った土がある。晴れの日の土は乾湿のバランスが取れていて手触りがいい。草負けや雑菌の侵入の心配があるので農作業中は手袋をつけるように言われているのだけれど、あまり気にしていない。指先はボロボロで、爪の奥には手を洗ってもなかなか落ちない土汚れがこびりついている。一年前よりやや厚みを増した手を見ているとそれなりに時間が経過したことをはっきりと感じた。書店で働いていた頃もいつの間にか指紋が消えていたことを思い出す(一日中本を

        • 逍遥日記#25 遺失物

          旅の間に財布を無くした。 財布の中には身分証とカード類、そして少しの現金が入っていて、警察署で遺失届は出したけれど無事に帰ってくるとは正直思っていない。せっかく約3年に渡る運転嫌いを克服した途端にこれである。緊急事態用のキャッシュカードがなかったら今頃私は知床でクマの餌にでもなっていたかもしれない。 冗談はさておき、現状の私は私が私であることを公的に証明できない立場にあり、これはとても奇妙なものである。あの薄っぺらいプラスチックの板っきれを2、3枚持っていないだけで私がどれ

        マガジン

        • ニートマガジン
          208本
        • 逍遥日記
          24本

        記事

          シリエトクの旅

          沖合を走る漁船が、東の空から曙光を連れてきた。まだ太陽が顔を出す前のほんの短い時間、空の底に薄ぼんやりとしたオレンジが積もる。 ストーブを点ける人もいるような冷え込む羅臼の朝、起ききっていない頭と目が寒さでゆっくりと現在に浮き上がる。 知らない土地、少しだけ慣れた仕事、それなりに打ち解けた人、潮の香り。その日が最終日であることを思い出して、自分がなぜここに立っているのかを考える。 逆光で海の暗い影になったままでいる何艘かの漁船、そのひとつに向かって手を振った。 約2週間、

          シリエトクの旅

          青藍、貝を撫でる

          老いた獣の脊椎のような、無骨で乾いた国道335号線が羅臼の町を貫いていた。 灰色の中心線を境に、半分はオホーツクの青、半分は山の緑と茶の、寂寥とは少し違う印象の静かな自然が佇む町。海を挟んでそう遠くないところに、国後島がくっきりと見えた。 バツ印のようなテトラポッドからカモメが飛んだ。 名古屋港を出てから約3日、適当なヨーロッパの国に行くよりも長い時間をかけて羅臼町に辿り着いた。モルグに運ばれる遺体のように船に揺られ(船酔いでほとんど死んでいた)、連行される罪人のようにバ

          青藍、貝を撫でる

          逍遥日記#24 内熱/気になる司書さん

          散歩:死。 先日、初めて熱中症らしきものを経験した。 人手不足の農場に呼び出され、久しぶりに炎天下の畑で鍬を振り回したり腰に優しくない態勢で落花生の収穫をしていたのだけれど、その日は異様に暑くて頭からバケツ水でも被ったのかと思うくらい汗がとめどなく流れ落ちていた。 意識ははっきりしていたし体もとりあえず動いていたのでまぁなんとかなるだろうと作業を続けているうちに水筒の水がなくなり、予備の麦茶もなくなり、気づくと汗が出なくなって口の中がカラカラに乾いていた。 理由がよく分か

          逍遥日記#24 内熱/気になる司書さん

          逍遥日記#23 ワールドエンド・コメダ・レボリューション

          散歩:サボ。 今朝、友人からもらったコーヒーチケットを握りしめてコメダ珈琲に行った。 すでに気温が30度を超えていた8時半、客足はそう多くはなかったけれど、店員さんが少ないのか席に案内されるまでしばらく待った。待っている間、レジのすぐ横に置かれたコロコロコミックの、やたら情報量の多い表紙の中に懐かしいキャラクターを見つけた。 名前を呼ばれて案内されるまま店の奥にある丸テーブルに席を取り、久しぶりに見るメニュー表からアイスコーヒーを注文した。 数分もしないうちにアイスコー

          逍遥日記#23 ワールドエンド・コメダ・レボリューション

          猫も杓子もニートも

          社会人には社会人の文脈があるように、 アメリカ人にはアメリカ人の文脈があるように、 ピダハンにはピダハンの文脈があるように、 猫には猫の文脈があるように、 ニートにはニートの文脈というものがある。 文脈というのは一つの閉じた小世界だ。 そこにはルールのようなものがあり、個々で独立しながらも通底する共通言語のようなものがあり、流れのようなものがある。 普通に生活していると、人はせいぜい2、3の文脈しか通過しない。 家族、友人(学校)、会社くらいのものだろう。 取り分け求めるも

          猫も杓子もニートも

          逍遥日記#22 縷々徒然

          散歩:サボ。 暑さのあまり睡眠が二時間刻みになった。 それでも朝五時くらいには勝手に目が覚めるものだから日中は中途半端に眠く、頭がずっとぼんやりしている。 上の階では誰かがドリブルでもしているのか、ぼんぼんとボールの跳ねるような音が断続的に響いてくる。 朝の五時にドリブル? 冗談は人生だけに留めておくべきだ。 夏の午前、殺人的に暑くて致命的に長い。 先日労役から解放されて喜びに浸っていたのも束の間、こんな状態では文字も映像も目の上をころころ滑り、涙のように流れ落ちていく

          逍遥日記#22 縷々徒然

          逍遥日記#21 ニートの空、UCCの夏

          散歩:サボ。 ※少し前の日記。 バイト先が農閑期に入った。 これから秋の玉ねぎ定植に向けて畑の手入れをするほかにはあまり仕事が無いとのことで一旦契約が打ち切られ、私は労働から解放され自由の身となり、ここにひとりのミスターアンチェイン(無職)が爆誕した。 最終出勤日の帰り際、社長の右腕ポジだったベテラン正社員が突然辞めると言い出して現場が剣呑な雰囲気に包まれたが、私はミスターアンチェインなのでそそくさと帰った。 ついに届いた自転車(とてもかっこいい、はやい)に乗って海沿い

          逍遥日記#21 ニートの空、UCCの夏

          逍遥日記#20 夏の朝のエコノミーパスタ

          散歩:不明(スマホ付き歩数計を家に忘れた) 朝からパスタを茹でていた。 食べ物がなかった。 より正確に言えばすぐに食べられそうなものがなかった。 冷蔵庫の中にはにんじんと輪切りになった玉ねぎと枝豆と牛乳と納豆しかなくて、米を炊くのはひどく面倒だった。 外では静かに雨が降っていて、車のタイヤが濡れたアスファルトを踏む音が聞こえた。 シンク下の収納にパスタが一束残っていたから、それを二つに折って小さな鍋で茹でた。 沸騰する湯から立ち上る湯気と、窓から見える家々の隙間に揺れる煙

          逍遥日記#20 夏の朝のエコノミーパスタ

          逍遥日記#19 混沌熱

          散歩:12581歩。 日陰もないような畑の中を歩き回ってマルチを剥がす。 野菜の詰まった重たいコンテナを軽トラに運び入れる。 カラス除けのテグスを張るために杭をハンマーで打ち込む。 鍬で畑に溝を掘って土壌消毒の準備をする。 終わるころには文字通り頭からつま先まで泥だらけで、長靴をひっくり返すと砂と虫がさらさら出てくる。いつの間にか肩に芋虫がちょんと乗っていた。 午前中しか働いてないとはいえ、夏の農業はしんどい。 今朝は社長が暑さで蜂起した(たぶん)ハチに刺されて帰ってい

          逍遥日記#19 混沌熱

          逍遥日記#18 近況:蒸し魚籠

          雷雨、快晴、曇天、いずれにせよ高温多湿。 湿気で部屋の空気がずいぶん膨らんでしまったように感じる。換気をしようと窓を開けてもぬるい空気が出ていってぬるい空気が名刺交換みたいに入ってくるだけ。 借りてきた本がやや厚くなっていた。 最近は雨がよく降った。 雨だとバイトもほとんどの場合休みになるから、部屋でぼんやり過ごす日も多かった。 じりじり痛む日焼けした皮膚に、湿気が気の利いたガーゼのように張り付く。 六月の後半はニーマガ用の文章を書いていた。 結局完成しなかったけど。 物

          逍遥日記#18 近況:蒸し魚籠

          逍遥日記#17 みそしる

          散歩:10321歩。 今日、みそしるを作った。 小学生か中学生の頃、家庭科の授業で作らされたのを除けば自発的にみそしるを作るのは初めてだった。もっとも、その授業の時も私は責任感のある女子がテキパキと調理を進めるのを隣で見ていただけだった。顔も名前も覚えていないけれど、背の高い女の子で、指がとても綺麗だった。 日本人で、かれこれ日本に28年も住んでいるのにみそしるのひとつもロクに作ったことがないというのはなんだか奇妙な感覚だ。 とはいえ今回も「よし、みそしるを作ろう」と思

          逍遥日記#17 みそしる

          逍遥日記#16 ねじまき

          散歩:10421歩。 旅に出る前に壁に立てかけておいたマットレスが倒れていた。 部屋の隅には埃がうっすらと積もり、歩くたびにそれが舞い上がってカーテンから射しこむ月の光を反射していた。 空にしておいた冷蔵庫の電源をつけて、部屋がキップルで埋め尽くされてしまう前にある程度掃除をしなければならない。 Gotta sweep sweep sweep! あとはポストに入っていた手紙やDMに目を通して(そのほとんどは至極どうでもいい内容のものだった)、買い出しに出かけて食料を確保

          逍遥日記#16 ねじまき