大病から復帰した岸大河、ゲームキャスターという仕事に何を思う?
2017年8月19日、ゲームキャスターとして最前線で活躍するStanSmith改め岸大河が長期入院の報告をした。結核であることを明かし、約1か月間の入院生活を経て9月22日に退院。10月1日には復帰後初仕事をこなし、元気な姿を見せてくれた。
これまで毎週何件も仕事をこなし、ゲーム業界に不可欠なキャスターとして不動の地位を築いていた岸にとって、まったく仕事をしない1か月とはどんなものだったのだろうか。入院中に何を考え、退院後についてどう考えていたのか。
そして復帰したいま、自分の仕事や役割をどう捉えるようになったのか。自身が切り開いてきたキャスターの道を歩んでくる後進たちに何を思うのか。
今回、丁寧にオブラートに包んだ本音をたっぷりと語ってもらったインタビュー(という名の雑談)をお届けする。あまり畏まったものではないので、あらかじめ留意してもらいたい。
なお、取材場所として岸に馴染みの深いWargaming Japanが自社の会議室を使用させてくれたことにお礼を申し上げる。最近のファンは岸が『WoT』の大会や番組で大活躍していたことを知らない人もいるかもしれないが、StanSmithといえば『WoT』、そんな時代もあったのだ。
※取材日は10月12日。「ゲームキャスターの岸大河が本気で語るesports業界の課題」の前に収録。
結核の発覚、そのとき
――いやー、ほんと治ってよかったね。
岸:
治る病気だったのがよかった。
――発覚した瞬間、どう思った?
岸:
終わったー!って(笑)。
でもやっぱり発覚までの流れが一番怖かったかな。最初に血を吐いたときは『Overwatch』をやってたんですよ。咽る感じの咳と混じってて、まだ鮮やかでさらさらな血だった。でも、お盆の最終日で病院が休みだったんです。
次の日もすごい量の、しかも濃い色の見たことのないような血が出て、すぐ病院に行きました。それが木曜日だったんですけど、土日に仕事が入ってたので、とにかく仕事をしたいと医者に言いました。
いろんな検査をして、木曜日は陰性。で、金曜日にも検査をして、そこで陽性が出た。直後の土日の仕事はキャンセルせざるをえず、月曜日から入院しました。
自分の病状からすると、結核かもしくは結核に似てる肺非結核性抗酸菌症の可能性があって、それぞれ薬や治療方法が違うんです。結核の場合は治りやすいんですが、入院は確定。肺非結核性抗酸菌症は感染しないので通院だけでいいものの、完治しづらいみたいです。僕は結核で、まだましだったのかなと思ってます。
発覚して数日は、キャスター業を辞めようと考えてました。もともと、病気で仕事を休むことがあるなら体調管理ができてなくて体も衰えてるってことだから辞めよう、という考えがあったからです。
とはいえ、いずれにせよ直近の仕事に関しては関係者に連絡しないといけなくて、年末までの仕事はすべて一度キャンセルしました。特に発覚した週の土日の仕事は直前の連絡になってしまって、迷惑をかけたなと。
ただ、どなたに連絡しても、誰一人「ふざけんな」という対応をされなかったのは嬉しかったです。それは当たり前のことかもしれませんけど……。皆さんにしてみれば、自分たちの大事なイベントや大会があるにもかかわらず、いきなり当日を取り仕切る重要な立場のMCやキャスターが出演できなくなったわけです。
そういう状況なのに、僕に対して最大限に配慮してもらって、心配してもらえた。このまま仕事を辞めてフェードアウトしていったらさらに迷惑をかけることになる、と感じました。
でも入院生活は先が見えなくて……。結核の場合は平均70日の入院、早くても5週間。「自分は最短で退院できる」と思ってる人が多くて、でもだんだん延びて精神的に落ち込んでしまう人が少なくないそうです。
僕もそうだったんですよ。これだけ元気だから最短で退院できるだろうと思いつつ、平均が70日で、それより長くなる可能性もあった。トンネルが長くて、しかも初めての入院なので、どうなるのかと怖かったっていうのが正直なところですね。
入院を告げられたときは仕事ができなくなることが悔しくて、涙も出てきて……。人に迷惑をかけて、自分はいったい何をやってるんだと。
――家族の反応は?
岸:
血を吐いたあと2日連続で病院に行ったので、結核かもしれないと覚悟はしてたみたいです。「まさか私の子供が……」とは思ってたんじゃないですかね。昔の病気というイメージもありますし。とはいえ、治る病気だと説明されたので、自分も含めてそこまで不安には陥りませんでした。
入院中に必要なものの買い出しは母にお願いしました。タオル、下着、歯ブラシ、シャンプーとか。シャツはもらったゲーミングTシャツがいっぱいあった(笑)。お箸も必要でしたね。あと、洗濯は母が週1で来て、やってくれました。
そうそう、入院前の最後の食事はラーメンでした。最寄り駅の近くの、いつも通ってるラーメン屋に「入院するからラーメン屋に行けない、でも食べたい」って電話したんです。母に丼を持っていってもらって、家で食べました(笑)。
実はみんな見てくれてた
――たまに「キャスター業を辞めて別の仕事をするかも」的なことを言うよね。2、3回聞いた覚えがある。
岸:
辞めるというか、次のステップを考えてるんです。10年サッカーをやってきて、そのあと10年くらいずっとゲーム関係、特にキャスターの仕事をしてきました。だから、次の10年は何しようかなって。
――結核だと分かったすぐあと、その2週間くらい前にALIENWARE ZONEの仕事を一緒にしたのがあって、連絡くれたでしょ。保菌中に接触したから検査が必要かもしれない、と。そのときに「キャスター業に復帰しないかも」って言ってたよね。でも、直後にRIZeSTの古澤さんの取材をしたんだけど、古澤さんからは「あいつは復帰する気満々」だと聞いた。何があったの?
岸:
入院する前、した直後も、ずっと1人で考え込んでたんですよ。他人なんかどうでもよくて、自分のことで精一杯。復帰について考える余裕なんてなかった。でも、皆さんに仕事の件で連絡する中で、「待ってます」という声をたくさんもらいました。古澤さんたちがお見舞いに来てくれたときも「待ってるよ」と言われました。
だから、復帰しなきゃいけないと考えるようになった。もちろん次のステップについては常に考えながら生きてますけどね。
――結核を報告したツイートにはすごい数のリプライがあったけど、ファンからの声とか期待はどうだった?
岸:
そもそも自分にあんなにファンがいるとは思わなかった。キャスターとして露出してても、視聴者の反応ってあんまり分からないんですよ。そう頻繁にリプライをもらうわけでもないし。イベントで声をかけられますけど、その人は僕がそこにいるから声をかけてるのであって、僕に会いに来てるというファンはほぼいなかったと思う(笑)。
でも、「待ってます」という反応を目にして、ちゃんとみんな見てくれてたんだなと実感できましたね。あれは嬉しかった。
結核であることは隠さなくていいと思ってツイートしたんです。血を吐いたことのツイートはしたし、長期入院となると言わないでも分かるでしょうから。言わないことで死に至る病気じゃないかとさらに心配させるよりは、完治する結核だと言っておいたほうがいいなと思ったんですよね。
それと、ちょうど発覚する一週間前に、RAGE vol.5の大阪予選がありました。2000人規模の会場にいたことで、来場者にうつしちゃったかもと不安になりました。でも、ほかの患者さんや先生と話して、それはどうしようもないししょうがない、考える必要はない、と。自覚症状もなかった頃ですから。
最初の報告もどういう内容にするかは2日くらい考えて、先生にも相談したんです。先生はあんまり結核については言わなくていい、もしするなら受け取る側に結核の知識がないと誤解されてしまう可能性を考えるべき、と言われたんです。
なので、自分の状態を報告するだけでなく、結核に関する知識をつけてもらいたいと思っていろいろ情報を出しました。いまは治る病気で、情報もたくさんあるので。
――自分がたいへんなときに人のことを考えるのは仕事柄?
岸:
とあるリプライをもらったんですよね。その人は僕の最初のツイートが不快だったようで、自分からうつしてしまったかもしれない人のことを考えてないような内容だと。それを言われたのがけっこう効きました。
その人が言いたいことは分かります。でも、僕が何かできるわけでもない。自分が接触した人のリストは保健所に渡しましたけど、対応するのは保健所なんですよ。
――たとえうつしたとしても故意じゃないし、岸くんが何らかの責任を負うものでもないよね。おれがもし感染してても恨むことは絶対ない。そもそも岸くん自身が誰かからうつされたわけだし。
岸:
ただそのリプライで考え方が変わったのは事実で、自分のことだけじゃなくて人のことも考えないといけないと思うようになりました。
でも、本当のことを言えば苦しかったですよ。入院したてで、結核についてもあんまり理解してない頃。自分のことでいっぱいいっぱいのときにそのリプライが来たんで。
StanSmithから岸大河へ
――入院中は何をしてたの?
岸:
本を読む、音楽を聴く、動画と映画を観る、人と会話する。それくらいですかね、外にも出れないんで。ハリーさんとの対談で「1日1つ発見をする」って話があったじゃないですか。それを実践しようと努めてました。
ゲームはデイリークエストだけ。配信は大会を少しと、自分のレギュラー番組を観ましたけど、ほとんど観てませんね。NFLは久しぶりにしっかり観ました。
入院生活は規則正しくて、朝7時に起きて21時に就寝してました。毎日8時に朝食を食べて、10時から11時に薬を飲んで検温、血圧の測定。12時に昼食。18時に夕食。その間に何かしらの検査をしましたけど、自由な時間が多かったですね。
だんだんやることがなくなって参っちゃう人もいるみたいです。僕の場合は喋るのが好きなので、患者さんが集まるデイルームにいて、とにかくいろんな人と話すようにしました。ゲーム業界以外の人と何度も話すのが久しぶりで(笑)、すごく楽しかったですね。
よく考えると、いままでは誰かと会話する機会が少なかった気がします。仕事は喋ることですけど、それと会話は違うじゃないですか。しかもゲームの研究は1人でするし、現場に行っても進行の確認をするくらい。たまに誰かとご飯に行くくらいでしか機会がなくて、しかもほぼゲーム業界の人でしたから。
――約1か月間、どんなことを考えてた?
岸:
改名のことですかね。
――退院してすぐStanSmithから本名の岸大河にした、その理由は?
岸:
特にない(笑)。あえて言えば、もうニックネームはいいんじゃないかと。ゲーム内ではそのまま使いますけど、仕事をしていくうえでは本名のほうがやりやすい。年齢を重ねて、ニックネームだと恥ずかしくなってきたのもあります。
新聞や雑誌で取り上げられるときも、英語だと縦書きになって変な感じになるじゃないですか。で、結局は括弧でスタンスミスって書かれる。だったら英語でやってく必要がないですよね。
――新聞と雑誌を意識するようになったと。
岸:
表記もStanSmithなのかStan Smithなのかstansmithなのか、カタカナでスタンスミスなのかスタン・スミスなのか、もうめんどくさい(笑)。
電話に出るときも、知らない番号からだとつい「はい、StanSmithです」と応えるんですけど、配達の連絡だと気まずくなる。「岸です」って言い直さないといけないんですよ。
そういう生活だったんで、入院して久々に自分が岸大河であることを思い出しました(笑)。朝、看護師さんに「岸さん、おはようございます」って言われるんですけど、入院直後はちょっと考えてから「あ、自分のことだ、いま呼ばれたんだ」と遅れて認識するくらい。
ご飯をもらうときも生年月日と本名を告げて受け取るんで、本当に本名で24時間過ごしてましたね。高校生くらいからStanSmithを使ってきたから、10年ぶりくらいです(笑)。
そんなふうに約1か月、毎日本名で呼ばれて自分でも言い続けて、「俺、岸だったわ」って記憶が蘇りました。
――普段も本名で呼ぶべき?
岸:
普段はどっちでもいいですね。でも、仕事中は本名でお願いします。
――いままでの共演者は難しそう(笑)。
岸:
復帰して最初の仕事はMCがいたからよかったんですけど、次の仕事はMC兼実況で、自分で間違えた(笑)。冒頭で「今回実況を務める――」まで言ったとき、自分の口がもうStanSmithになってて、そのまま出ちゃったんですよ(笑)。「StanSmith……こと岸大河です」ってなんとか言い直しましたけど、目の前のスタッフがめっちゃ笑ってました。
まあ、自分の名前が変わったとしてもそこまで大きな変化はないと思います。逃げられなくなるので覚悟はいりますが、その分、信頼も高まると思います。
――改名して反応はあった?
岸:
……ない! ただ、僕が本名にしたことで、3年後くらいには「キャスターは本名でやる」というのが普通になる可能性もありますよね。同業者がどうするのかは楽しみです。
岸大河にしかないもの
――復帰して、仕事は順調?
岸:
感覚は変わりませんけど、1か月ぶりってことで緊張はします。現場にいられることが純粋に幸せですね。
1か月収入がなかったので、お金をもらえることのありがたみも再認識してます。なんで自分に依頼してもらえるのかはより深く考えるようになりました。ただ仕事をこなすことにお金が支払われているんじゃなくて、人間関係、信頼関係のうえにお金があるんだなと。だからこそ皆さんの期待を裏切れません。
入院中、ライブやドキュメンタリーをけっこう観て、お金のためだけに仕事をしてる人もいるというのが見えてきたんですよ。逆にお金のことは度外視してすごいことをやってる人もいて、自分がどう見られてるのか気にするようになりましたね。
自分もそうですけど、全体的にゲームキャスター業のギャラは上がってるんですよ。僕が仕事を始めた頃は無償が当たり前にあって、よくて5000円、1万円もらえたら充分すぎるという世界でした。でも、いまは最初から1万円以上もらえるのが普通になってきた。変に実況の需要があるせいで、ギャラ3万円もあっという間なんですよ。
そうなるとたいして努力する必要もないので、仕事が雑な人が多い印象があります。それを目の当たりにしたことで、自分はどうか、ギャラにふさわしい仕事ができてるか、と考えることが増えましたね。ただ、お金以上に、視聴してくださる皆さんに満足感を与えたいです。
――次のステップについてはどう考えてるの?
岸:
キャスター業の次のステップとしては、信頼できる人をもっと作っていくことが一番。Ooodaさんやせんとすさんとはよく話すんですけど、お互いに面白いことができたらいいねと話してます。そこから生まれるものがあればいいですし、作っていきたいです。
あと、入院を通して自分にしかないものに気がつきました。だから、僕はまだまだ成長できると強く思ってます。
――岸大河にしかないものって?
岸:
実況に対する熱量ですね。そこが評価されてるのかなと思ってます。でも、まだ自分が理想とするレベルには遠い。
――いわゆるオタクの発想よね。突き詰めてる人ほど自分はオタクとはとても言えない、って思ってるやつ。
岸:
ゲームが大好きなのが当たり前になってて、逆に好きっていう感情を意識しなくなってるのかもしれない。長年連れ添った恋人に対する気持ちですよね。
ただ、ものすごく好きとか誰にも負けないと思える熱量がないと、聴いてる人の心には響かないんですよ。歌も同じで、技術がすごい人の歌は上手なだけで何も伝わってこない。言葉や声に重みがある人って、何か伝えたいことがあって、それをどう伝えるかに苦心してるはずなんです。
たぶん、その重みは積み重ねでしか生まれてこないものだと思います。自分の心に秘めた何かが溶け出してくるような、心と言葉が一体になった実況が理想です。
――実況っていうと、いま起きてることを伝える、しかも喋り続けることがどうしても重視されがちで、言葉が先行するのは致し方ない部分もあるよね。
岸:
そうそう。でも、喋り方、声のトーン、言葉の選び方、熱量、容姿、それらのトータルが口から出てくるようなキャスターを目指すべきですね。誰かの真似をするだけだと、なかなかその境地には辿り着けないと思う。
――いまはゲームをしててちょっと有名だと勝手に仕事が舞い込んでくるような、需要に対して供給が少なすぎる状況になってるのがあるよね。1回仕事をしただけでプロキャスターって名乗っちゃう人もいると思う。本当にいいキャスターになりたいなら、売り手市場にあぐらをかいてたらダメだと。
岸:
いまはよくても、努力しないと次に繋がっていきません。それはどんな仕事でも同じですよね。単純作業として実況するだけだと実力はつかない。僕自身、いつ仕事がなくなるかという危機感を持って仕事をしてますから、若い人にはそれ以上に努力してほしいです。
――依頼してくる企業ともあんまりコミュニケーションしてないんじゃない? 自分がなぜ選ばれたのか、何が必要とされてるのかを考えてないから、形だけ仕事をしようとしてる気がする。
岸:
こだわりがないから、その人である必然性がない。僕自身はいつも「岸大河を選んでくれる理由」に応えようとしてます。
例えばそれは、トラブルがあったときに間を持たせられるとか、1日前に台本を渡しても対応してくれるとか、前日に依頼しても番組をまとめてくれるとか、ほかにもさまざまな理由があると思います。
キャスターが目指すべき地点
――努力しないキャスターは依頼する側の問題でもあるね。
岸:
たしかに「やれる人がいないからこの人に頼んでる」っていうクライアントもいるでしょうね。だったら、そういう時代は終わりにすべきです。適任者がいないからとよく知らない人に頼んで、視聴者に「こんなもんか」と思われるのは嫌なんですよ。
それは将来的に自分にも返ってくることなので、キャスター自身が努力するのはもちろん、クライアント側も長い目で見て、本気で考えてキャスターを選んでほしい。
――キャスターってクライアントが育てるものでもある。その意識がないとポイ捨てになっちゃう。
岸:
僕も新しいキャスターを育てたいと思ってます。なかなかいい人に巡り合えませんけど、本当にやる気があるなら連絡してほしいですね。過去に募集したことはあって……でも、初っ端から「仕事くれ」って言ってくる人もいるんですよ。キャリアや信頼関係がないのにできるわけがない。
あと、キャスターは自分が目立つ仕事じゃないと思ってます。だから、自分がすごい、自分が盛り上げてる、自分が人気、と考えてるアイドル気取りは、絶対にしてはならないことだと思います。そういう意識はもったいないと感じますね。
人気者になりたいならYouTuberやストリーマーをやるべきです。キャスターはあくまで選手や共演者を魅せる仕事ですから。
自分が言いたいことを言っているだけ、なんて最悪です。大会じゃない番組ならいいんですけど、試合を実況してるときに解説者と全然関係ない話をするのもすごく耳障りですね。「その会話、誰が得するの」って。
――視聴者目線じゃないと。
岸:
自分の個人配信の感覚が抜けてない人が多いのかな。
――ただ、それは経験が少ないと難しいところではあると思う。
岸:
でも、仕事として引き受けるなら最初からできてないとダメですよ。特にMCは番組をコントロールする立場でもあるので。
――逆に、キャスターという仕事のいいところは?
岸:
僕もまだ勉強中の身ですけど、自分が考える番組構成にアレンジできる唯一のポジションなので、それが楽しいですね。その責任は負わないとダメですけど、いい番組にするために最も近いところにいる仕事だと思います。共演者と阿吽の呼吸で場を盛り上げられたときは最高です。
あと、僕が実況を担当した試合を見た視聴者が、「白熱したすばらしい試合だった! GG!」と喜んでくれるときは、試合を邪魔しない、選手の皆さんのプレイに見合った実況ができたのかなと嬉しくなる。
――キャスターはどこを目指せばいい?
岸:
1つは、選手に「実況されたい」って言われるように、ですね。トップ選手だけでなく、これから大舞台に立っていくような人たちも含めて。最近ゲームを始めた人に「実況してもらいたい」というコメントがもらえるようになれば、かなりいい仕事ができてることになると思います。
そういう存在になれば依頼も増えますね。クライアントがその人を選ぶ必然性も出てきます。
今後、キャスターの仕事自体は増えていくはずです。でも、実況だけできても成熟はしづらい。僕の場合も、仕事の割合は実は実況:MCで5:5なんですよ。そこは皆さんにも知っておいてもらいたいです。
実況だけでいいならでかいタイトルに集中しといたほうがいいです。でも、MCもできれば仕事の幅が広がる。そのためにはマルチタイトルへの対応が不可欠なので、実況とはまた違うスキルが必要です。僕はそれも自分の強みの1つだと思ってますね。
――岸くん自身のいまの目標は?
岸:
キャスターとして未熟な部分は山ほどありますが、ゲームをどれだけしないかってことです。ゲーム以外の知識や表現力を増やさないと、結局はいい実況ができない。お金をもらって全力を尽くしてるとはいえ、自分自身、アナウンサーごっこをゲーム業界でやってる感じがまだまだあります。
ただ、ゲームをしないと言ってもあくまで自分の中での比較で、人から見ればかなりやってるように見えると思います。そこは誤解されたくないですね。
新しいゲームなら充分に時間をかけます。逆にこれまでプレイしてきたゲームなら、いま以上にプレイ時間を費やして得られるものよりも、外から得るもののほうがよりよい実況のために活かせるだろうと考えてます。
◆◆◆
「ゲームキャスターの岸大河が本気で語るesports業界の課題」を読む。
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岸大河 @StanSmith_jp
協力
Wargaming Japan @wargamingjapan / 公式サイト
取材・執筆・撮影
なぞべーむ @Nasobem_W
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