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esports業界の実態は? 大会やチームが経営情報を公開するメリット

今年になって初めてesports市場の規模が調査・公開されたが、esports業界はとかく経営情報が不透明だ。売上や損益といった財務情報だけでなく、スポンサーによる協賛の参考になるファン数や大会の視聴者数などのデータもほとんど開示されておらず、外からでは実態がほとんど分からない。

ゲーム会社やesports事業者、大会オーガナイザー、(法人格を持つ)ゲーミングチームがあえて隠しているとは思わないが、類似するビジネスモデルを展開するプロ野球やJリーグ、新興のBリーグではかなり詳細な経営情報が公開されている。Jリーグは観戦者調査のレポートも公開しているほどだ。

今回は先行するスポーツリーグを参考にしながら、経営情報の公開にどのようなメリットやデメリットがあるのかを議論する。そのうえで、記事としては公開したほうがいいと結論し、どのような情報を開示していくべきなのかを検討する。

途中でJリーグやBリーグの財務情報へのリンクを張っているので、時間があればぜひ一度目を通してもらいたい。

【目次】
経営情報の公開はメリットが多い
esports業界では非公開が慣例に
情報を公開している大会やチームもある
事例:Jリーグ、Bリーグ、Tリーグ
何を公開したらいいのか

※この記事において、「経営情報」は「財務情報」や「経営戦略」、「指標」といった経営に関する情報をまとめて指す。また、「大会」は「リーグ」や「トーナメント」などさまざまな対戦形式およびオーガナイザーを包括した言葉として用いる。

経営情報の公開はメリットが多い

結論から言えば、経営情報は公開したほうがメリットが多い。

※参考「なぜクラブの情報開示が重要なのか?コンサル目線で考えるJリーグの真実(4)」)

まず、経営情報の公開はステークホルダーに対する最低限の説明責任である。esports業界はステークホルダーが非常に多く、タイトル1つとってもタイトルの権利者(開発元&販売元)、パートナー、スポンサー、メディア、プレイヤー(チーム)、ファン、ときに自治体などが存在する。

大会やチームが彼らと今後も良好な関係を保ちたいなら、現在の経営状況や今後の戦略を示し、将来像を描く必要がある。「支えて」と言うだけでは誰も動かない。「昨期はこうで、それを踏まえてこういうことをしていくから、今後も支えてくださいね」と安心感や期待感を与えなければならない。

※参考「大河チェアマンが語る「お金」の話 Bリーグ初年度を振り返る 経営編(1/2)」、「大河チェアマン「稼いで未来へ投資する」 Bリーグ初年度を振り返る 経営編(2/2)

また、経営情報を誰でも見ることができるなら、潜在的なスポンサーやファンの目に届く可能性もある。経営情報からは大会やチームにどれほどの将来性があるのかを読み取れるので、協賛したり支援したりする判断材料になると言える。

その逆もしかりで、情報が非公開のままでは検討すらできない。芳しくない経営状況だから隠したままにしておいたところで、もし関心を持ってくれた潜在スポンサーが問い合わせてくれたとき、いったい何と説明するのか? 同じ結果になるなら、最初から情報を開示しておくほうが誠実なので、将来の信頼を得ることができるだろう。

それと、経営情報には誰が支えてくれているのか(誰に支えてほしいのか)といった事柄も記載できる。ファンにとっては自分たちからの応援(という名の収益)がどれくらいの規模で、これからどういうふうに支えていけばいいのかの参考になる。大好きなチームや選手が経済的に苦しいのなら、もう少し支えてみようかなと思うのがファンである。

※参考「【海外における最注目のマーケティング動向 #04 】ユーザーは企業に”透明性”を求めている」

そして、経営情報を見た誰かが財務改善や戦略設計の助言をしてくれる可能性もある。コンサルタントの営業が来るかもしれないが、第三者の視点から自分たちが気づかない点を指摘してもらえるかもしれない。経営情報をネタに記事を書いているような人が取り上げてくれる場合もあるだろう。

ということで、メリットは以下の4つとなる。

1.信頼や将来に対する安心感や期待感に繋がる。
2.潜在的なスポンサーやファンの目に届く可能性がある。
3.誰が支えてくれているのか明示できる。
4.財務改善や戦略設計の助言をもらえるかもしれない。

esports業界では非公開が慣例に

対して、公開することのデメリット(非公開にすることのメリット)は何が考えられるだろうか。

とその前に、特に法人格のチームは気をつけてもらいたいが、株式会社であれば上場していなくても決算公告が義務となっている。官報など何らかの形で1年間の決算(貸借対照表)を開示しないといけないのだ(合同会社ならその必要はない)。よって、数年にわたって株式会社として活動しながら決算公告を怠っているチームは違法状態にあることになる。

さて、それを前提に、もっと多くの経営情報を開示するデメリットを考えてみよう。正直、僕は現時点ではほとんどないと思うが、そのデメリットが大きいからこそesports業界では非公開が慣例になっているのではないだろうか(ざっと大会やチームのサイトを見てみたが、きちんと経営情報が公開されているところは1つもなかった)。

最初に思いつくのは、自分たちの経営情報を同業者に知られると何かしらで不利になるという理由だ。売上規模が小さいから、赤字だから、格好のつく数字がないから、といったマイナス要因を知られたくないという気持ちもあるかもしれない。

しかし、その実態を非公開にしたまま昨今のブームに乗じて過剰な投資や協賛を受けても、それに報いる価値を有していないとしたら、それこそバブルが弾けて一巻の終わりだ。だから、知見を公開・共有し、そこから策を練って盛り上げていくことが先ではないか?

もちろん、ゲーム会社が大会に注いでいる費用、大会からチームへの分配金、チームが選手に支払っている給与などの情報を公開したほうがいいと言っているわけではない。大会の参加者数や視聴者数、来場者数、チーム全体・選手個別のフォロワー数、チームの売上の内訳など、上記に挙げた4つのメリットを享受できる情報だけでもいいのだ。

にもかかわらず、いったいなぜ公に活動している大会やチームなどがこれほどまでに経営情報を非公開にし、さらに表立ってお金の話をするのがタブーになっているのか。その理由を深掘りするのは直接インタビューするほかないので、ここでは保留としておこう。

情報を公開している大会やチームもある

積極的に経営情報を公開しようとしている場合もある。以前、RAGE Shadowverse Pro Legaueが選手への最低月額収入として30万円を明示したことが騒がれた(RAGEでは来場者数なども発表しているし、CyberZの決算公告が注目されたこともある)。

※参考「『シャドウバース』プロリーグ発足決定! 国内大手企業4社がチームメンバーを募集!選手は月額30万円を保証

また最近では、Sengoku Gamingが『LoL』部門の選手を募集する際に最低給与を明記した。

※参考「【LoL部門】メンバー募集のお知らせ

ほかにも募集要項に給与額が明記されているチームはあるが、その数は少ない。しかし、明記自体は驚くことではないし、画期的でもない。採用活動をしているのに募集要項で想定給与額を明示していない企業は不誠実だし、その情報がないがゆえに人材を逃す恐れもある。「応相談」とすら書かれていない募集要項を見た人は不安しか感じないだろう。

所属選手への給与を公開することで「それ以上を出すからうちに来い」といった引き抜きが発生するかもしれない。しかし、それは(ルールに則っているなら)極めて健全ではないだろうか。

個人的には、上述したようにチームが選手給与を公開するのではなく、大会のオーガナイザーが最低月額収入などの規約を公開したほうがいいと思う(チームの財務状況もあるが、不足するならゲーム会社が融資するなど)。

また、esports業界では(潜在)スポンサーのための情報も極めて不透明で、大会やチームがどれくらいの規模で、協賛することにどういう具体的なメリットがあるのかよく分からない状態になっている。その大会やチームはどこに強みがあり、スポンサーにどういった価値を提供できるのか、そもそもどんな支援が必要なのか?

大会やチームはゲームメディアのビジネスモデルを参考にできるだろう。例えば、ファミ通.comではかなり詳細に媒体情報や広告情報が公開されている。こういった情報は(潜在)スポンサーにとって不可欠。多少なりともサイトで公開するようにしたいところだ。

esports業界でも経営情報が当たり前に公開されるようになれば、デメリットを上回るメリットがあると思われる。これは法人格のないチームやコミュニティにも通用する。支援を求めるなら、情報を公開していく必要があるのだ。

事例:Jリーグ、Bリーグ、Tリーグ

ここからは、esports業界もおおいに参考にできるスポーツビジネスの先人が、経営情報の開示にどのように取り組んでいるのかを見ていく。どういう情報が公開されているのかはリンク先で確かめてほしい。

Jリーグの場合
近年、Jリーグではデータ活用が急速に進んでいるが、経営情報は以前から詳細に公開されてきた。リーグから各クラブの売上や入場者数などが発表されていて、どのクラブが黒字あるいは赤字なのか、経営上の問題はどうかといった情報が共有されている。

→ Jリーグの経営情報を見てみる

そもそもJリーグでは、リーグに所属するために財務諸表を提出が義務づけられている(クラブライセンス交付規約P38、第12章の第37条)。その情報をもとに、リーグでは年1回、全クラブの経営情報が公開されるのだ。

それに加え、各クラブは公式サイトで経営情報を開示しており、浦和レッズのようにかなり詳しく掲載している場合もある。売上は当然、純資産の推移や収支状況、営業費用、さまざまな指標も公開するなど徹底している。esportsチームもここまでやる必要があるかは分からないが、Jリーグの中で営業収益1位のクラブが示す姿勢には学べるものがある。

なお、Jリーグではサポーターの意識や属性をリサーチした観戦者調査レポートも公開されている。「観戦の動機やきっかけ」の項目はなかなか面白い。

Bリーグの場合
2016年に始動したバスケットボールのプロリーグであるBリーグは、B.MARKETINGという会社を立ち上げて全クラブを横断した観戦者データベースの構築を進めているなど、データ活用にかなり積極的だ。経営情報についてもJリーグ並みの規模・詳細度で開示されている。

→ Bリーグの経営情報を見てみる

Bリーグもクラブライセンスの交付に財務情報の提出を義務づけている(Bリーグ規約P8の第24条。提出する資料についてはクラブライセンス交付規約P25にある第10章の第23条)。クラブの財務状況が不健全なら継続性に問題が生じるため、リーグとしては当然設けるべき基準だ。ちなみに、債務超過もしくは3期連続の赤字を解消できないとリーグを退会となるようだ。

財務情報をリーグ側に提出しなければ出場ライセンスが得られないというのは、esports業界にとってはまだ想像がつかない領域だ。チームの経営・運営に関して、ゲーム会社や大会オーガナイザー、あるいはJeSUがどこまで踏み込めばいいのかといったところからの議論が必要だろう。

Tリーグの場合
10月24日に開幕する卓球のプロリーグであるTリーグも、上記両リーグと同じように収支報告を義務づけている(Tリーグ規約のP25にある第5節の第62条)。まだ始まっていないので経営情報は存在しないが、翌年以降、詳細なデータが公開されていくだろうと期待できる。

ところで、『PUBG』のプロリーグとして始まったPJSでは、個人配信の視聴者数を運営側に報告しなかった数十人の選手にペナルティが下されたが(なぜわざわざ同じ轍を踏むのか?)、その点だけに鑑みても既存・新興のスポーツリーグとは次元が違うと言わざるをえない。

何もかもスポーツリーグと同じようにすべきだとは思わないが、esportsも似たようなビジネルモデルやあり方なのは間違いないので、学べるところは学んだほうが得だ。PJSも、集計したこれらのデータを公開したらいいと思う。

何を公開したらいいのか

最後に、これから経営情報の公開に取り組もうという志の高い読者のために、どんな情報を公開すればいいのか、その考え方の一例を提案する。言うまでもなく、どんな情報もとりあえず、なんとなく、闇雲に公開すればいいわけではない。自分たちの戦略に沿って公開する必要がある。

現状の課題や目標(KPI)を明らかにする
最初にすべきことは課題と目標の洗い出しだ。大会やチームの場合、おそらく売上や費用面で何らかの課題を抱えているだろう。あるいは人材の確保かもしれない。健全な経営をしているという信頼を得たい場合もある。そういった事柄を洗い出し、優先順位をつけよう。

誰に協力してもらうとそれを解決できるのか?
次に、明らかになった課題を解決するために、誰の協力が必要なのかを見つけ出そう。費用ならスポンサーだし、長期的な売上ならファンである。信頼やブランディングなら……? 情報を届けるべきターゲットはとても重要だ。

そのターゲットにとって有益な、共感できる情報は?
そして、課題を解決してくれるターゲットにとって有益な情報、あるいは共感できる情報を公開する。スポンサーがほしいなら大会の視聴者数や選手のファン数、あるいは実際にどんな形式の広告が可能で、いくら必要なのかといった情報だ。業界の内外に広く健全な経営をしているとアピールしたいなら、それこそ経営情報を詳らかに開示するのがいい。

経営情報の透明性は信頼に繋がる

ということで、ここまで経営情報の公開について議論してきた。公開には手間がかかるが、その分のメリットはあるだろうし、メリットを得るために活用することが重要だ。

チームにとって情報公開はある種の恥ずかしさや好奇の目で見られる不安もあるかもしれないが、むしろプライドをもって毅然と公開してもらいたい。先人たちは皆、そうやって問題や課題に立ち向かい、周囲の協力を得ながら解決してきた。

例えば、Bリーグのレバンガ北海道は過去に債務超過を抱えていて、あわやリーグ退会という事態に陥ったが、クラブの努力により解消された。経営情報の公開でクラブ内の責任感が増していたことが功を奏したのかもしれない。そして、その勢いで新しいチャレンジとしてRAGE Shadowverse Pro Legaueに参戦したのだ。

※参考「株式会社北海道バスケットボールクラブ(第7期)決算報告について

あるいは、Detonation Gamingによる出演費滞納が退団したYushiによって暴露された事件があったが、普段から経営情報を見られているという意識があれば余計な炎上は避けられたかもしれない(本件は早急な解決がなされ、詳細な情報が公開されたのでかえって好感を得たようだが、繰り返せば信用は失墜する)。

※参考「国内トップレベルのe-sportsチーム「DetonatioN Gaming」に1年間所属してみた。」、「Yushi選手の個人ブログ関するご報告について

透明性はなにより信頼に繋がる。信頼とはブランドにおいて最も大切なものだ。逆に、公開できない情報があるというのは不信感を買うだろう。

esportsはタイトルの権利者あってのものなので、たしかに情報については慎重に扱わなければならない。しかし、今後シーンが健全に成長していくためには、関係者が経営情報の公開について前向きに対応していく必要があるのではないだろうか。

※経営情報と言うとおおげさだが、「昨年はこうだったので今年から来年にかけてこれを目指します」くらいの計画や、チームオーナー・企業の詳細な情報は掲載してほしいと思う。

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謎部えむ
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