プロゲーマーもスポンサーもお互いに「本当に好きかどうか」が問われている
以前の記事でも話題にしたが、「本当に好きかどうか」がとても重要になってきていると感じる。誰かに何かをお勧めしたり紹介したりするとき、自分がそれを本当に好きでないと何も伝わらないし、相手の心を動かすには至らない。これは人が他人の欲望にしか欲望できないというラカン的な言説に一致している。
インフルエンサーマーケティングの文脈でも、フォロワー数よりその人とファンとの関係性やエンゲージメントなどの結果に投資しなければならないということが言われ始めた(例えばDIGIDAYの「2018年に重要度増す、「インフルエンサー名簿」のあり方:フォロワー数を求める時期は終わった」)。そうした結果とは、インフルエンサーがどれだけ自社の商品を好きか、どれだけ熱心になってくれるかによって左右される。好きでも何でもない商品を宣伝しても、ファンは「これは仕事でやっているだけだ」とすぐに気づき、冷める。
ファンの心を動かす「好き」
これはesports業界でも同じ。スポンサーからの支援が選手やチームにとって最も重要な収入源の1つであるがゆえに、プロゲーマーやプロチームはスポンサーに対して結果を残さなければならない。ただフォロワー数が多いとか、配信の視聴者数が多いとか、熱心なファンがいるとか、そういう面だけでは優位性を築けなくなっていくだろう。
企業が広く伝えたい(リーチを取りたい)ならSNS広告を使ったほうが手っ取り早いし効率的だ。でも、多くの企業がesportsに注目している。それは、選手やチームが想像を絶するほど熱心にゲームに向き合っているからで、彼らなら自社の商品を同じように熱心に伝えてくれるだろうという期待からではないかと思う(若年層へのリーチはesportsの専売特許ではまったくない)。
ということは、プロゲーマーやプロチームはスポンサーの商品を好きでないといけないし、好きにならないといけない。日常的に使い、触れるたびに何かしら心が動かされるような商品でなければ、ファンの心を動かすには至らないからだ。
本当に好きなのか?
Sengoku Gamingがコカコーラ・ボトラーズ ジャパンのスポンサー契約を結んだように、esports界隈ではスポンサードのニュースが増えてきている。ゲーム業界に近しい領域の企業だけでなく、ナショナルクライアントと言われる大企業がスポンサーになる時代だ。数年前なら考えられなかった段階に、esports業界は成長してきている。実に嬉しいことだ。
ただ一方で僕が疑問に思うのは、選手やチームが本当にスポンサー企業のことやその商品を好きなのかということ。日常的に使っているとは思えなかったり、ただ宣伝しなくてはならないから宣伝しているだけだったり、そういう雰囲気を感じることもある。ファンを相手にするビジネスは、ファンに「これは仕事でやっているだけだ」と思われた瞬間にいろいろ終わる(そのとおり「お金をもらうための仕事」なのだが、ファンは「プライベートでも好き」であることを重視する)。
また逆に、企業の側が本当にスポンサードした選手やチームのことを好きなのかどうかも気にかかる。僕を含め、ゲームのファンや選手・チームのファンはかなりしっかり見ている。例えば、コカコーラ・ボトラーズ ジャパンはSengoku Gamingに対して「コカ・コーラボトラーズジャパン株式会社はSengoku Gamingを応援しています!!」というコメントを送っているが、これに心を動かされる人はいないのではないか。
だから、コカコーラ・ボトラーズ ジャパンがSengoku Gamingをどれくらい好きなのか、もっと具体的に知りたい(僕自身はペットボトルの緑茶の中で綾鷹が一番好きだから、コカコーラ・ボトラーズ ジャパンがSengoku Gamingを本当に好きならチームを応援してみようと思うだろう)。
そしてもちろん、Sengoku Gamingがどれくらいコカコーラ・ボトラーズ ジャパン(とその商品)を好きなのかも、知りたいと思う。商品の直接的な宣伝やバナーを張るだけでなく、そういう情報をもっともっと発信してほしい。プロゲーマーはインフルエンサーそのものではないから難しいかもしれないが、スポンサードを受けるからには社会的価値を生み出す義務がある。
数字以上の関係性を築いてほしい
これはSengoku Gamingとコカコーラ・ボトラーズ ジャパンだけの話ではなく、すべてのプロゲーマー、プロチーム、スポンサー企業に言えることだ。誰もが「本当に好きかどうか」を問われている。
「好き」だけでビジネスはできないと考える人もいるだろうし、それは当然だ。でも、数字上の戦略や効率だけで「好き」のないビジネスが長続きするような時代ではない。ましてやファンの存在に支えられているesports業界ならなおさらだ。最初のラブレターが数字上のメリットであっても、長期的には好き同士になってほしい。
本当に好きかどうかを問われ続けるのは疲れるが、人気商売なのだからしょうがない。愛されたいなら愛せよ、ということだ。ファンは好きな人が宣伝するから買うのではなく、好きな人がそれを好きだから自分も好きになるものだ。
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