クライアントの行動変容をサポートするための質問とは?
減量が目的のクライアントを抱える多くのパーソナルトレーナーは、様々なポイントでカウンセリングを行います。私は数週間、クライアントの1人に、ジム外でのこと全てをメールで送ってもらいます。時間、食べ物、推定カロリー消費量、毎日の体重、運動時間などです。これを行うことによって、調整すべき習慣やパターンに気づきます。
例えば、この人は頑張っているが、減量の努力を妨げるような量の夕食を食べている、この人はおそらくジムの外で運動をしていない、などです。問題が何であるかに関係なく、追跡することは戦略の変更を判断する上でとても役立ちます。
しかし、 “変えること”は簡単ではありません。多くの人は、比較的安定したルーティンに基づいて行動します。実行とは、自分が自分自身をどう見ているかの結果によって起こるものです。自分は倹約家だと思っている人は、毎週数百ドルを靴に費やすことはないでしょう。
自分は家族を大事にしていると思っている人は、家族と過ごす時間を大切にし、オフィスで無駄な時間を過ごすことはないでしょう。自身のアイデンティティに矛盾した行動をすることは、内面での対立を引き起こします。
健康やフィットネスを自身のアイデンティティとして上手く取り入れることができなければ、行動は良くて散発的なものとなり、最悪の場合は無意味になる可能性があります。自分自身を健康な人と定義しない人にとって、4〜5つのクッキーを食べることはどのような意味をもつでしょうか?
自分を健康的だと思う人は、クッキーを食べた後、それを消費しようと運動するでしょう。健康的な人は果物や野菜を好んで食べます。なぜならそれは健康な人々がすることだからです。健康的であることがその人のアイデンティティの一部ではない場合、その人にとって健康的な行動、または不健康な行動の影響を考えずに過ごすことになります。
私があるクライアントの習慣を確認した後、彼は大きな改善に繋がる可能性を感じ、私たちはミーティングで話し合いました。このクライアントが取り組むべき点について話し合った後、私は彼に1つ質問をしました:
「どのようにすれば健康的な生活をあなたのアイデンティティとすることができるでしょうか?」
彼は困惑しました。彼はこのことについて考えたことさえありませんでした。 「わからない…難しいと思う」と彼は言いました。私は彼に、アイデンティティは行動に意味を与えると説明しました。
アイデンティティは長期的な行動の維持を促進し、行動によって健康を増進させることも、またはその逆になる可能性もあるのです。「エクササイズ」を自身のアイデンティティに取り入れると、自身を「エクササイズをする人」と認識して行動し、クライアントが目標に向かって行動することを妨げるものは何もないでしょう。
パーソナルトレーナーが、自分のアイデンティティに運動を取り入れている新しいクライアントに出会うことはめったにありません。もしクライアントが既にアイデンティティに取り入れていれば、特に長期的に、彼らが助けを求めてくることはないでしょう。ただし、クライアントが答えられなくても、心配する必要はありません。私がクライアントに尋ねたのと同じ質問をしてみてください:
◆アイデンティティとは何か?
アイデンティティは、特定の役割において、自分自身を何であるか、どう見るかを定義したものです。アイデンティティは、私たちがどのように行動するかの個々の基準となるガイドラインとして機能します。過去の経験や行動がそれを形成します。
アイデンティティは、私たちの行動の基準を設定します。私たちは自分のアイデンティティに沿って行動することを目指しています。“エクササイズを行う”というアイデンティティを持つことによって、アイデンティティに沿って行動し、そのアイデンティティを強化することができるということです。
したがって、クライアントが“エクササイズを行う人”として自分自身を捉えてなくても問題ではありません。行動はアイデンティティを促進させます。まずは行動を開始することです。最初のカウンセリング時にアイデンティティを特定し、エクササイズをアイデンティティに取り入れ知識を養うことが役立ちます。
◆アイデンティティをどのように特定するか?
パーソナルトレーナーはここに興味があるかもしれません。最初のカウンセリングで運動と健康的な食事に関するアイデンティティを特定します。トレーニングを自分のアイデンティティにどのように適合することができるかをクライアントに尋ねます。以下は、アイデンティティを特定するための質問です。栄養のアイデンティティと、運動のアイデンティティに関連するそれぞれ3つの質問があります。
◆食事、栄養面について
Q1 自分の食事について当てはまるものは次のどれですか?
□私はジャンクフードをよく食べます
□私はジャンクフードをたまに食べます
□私は健康的な食事もジャンクフードも食べます
□私は健康的な食事をたまに食べます
□私はいつも健康的な食事をします
Q2 「私はいつも栄養価の高い食事を食べます。」当てはまるのは次のどれですか?
□全くそうでない
□あまり当てはまらない
□どちらとも言えない
□やや当てはまる
□とても当てはまる
Q3 あなたの食事について当てはまるものを選んでください。
□私は全く食べる物に気を付けません。
□私はめったに食べる物に気を付けません。
□私はほとんど食べる物に気を付けません。
□私は時々、食べる物に気を付けています。
□私はよく食べる物に気を付けています。
□私が非常に食べる物に気を付けています。
◆エクササイズについて
Q1 「私は自身をエクササイズが大好きだと認識している。」当てはまるのは次のどれですか?
□全くそうではない
□あまりそうではない
□どちらとも言えない
□どちらかといえばそうだ
□その通りだ
Q2 他人に自分自身について話す時、運動していることを説明しますか?
□全くしない
□あまりしない
□どちらとも言えない
□どちらかといえばする
□その通りだ
Q3 周りの人はあなたのことを定期的にエクササイズをしている人だと認識していますか?
□全くしていない
□あまりしていない
□どちらとも言えない
□どちらかといえばしている
□その通りだ
また、オープンエンドの質問「運動や食事は、あなたのアイデンティティとどのように関連していますか」などの質問も加えることで、よりクライアントとの対話が充実したものになるでしょう。
◆エクササイズに対するアイデンティティをどのように発展させるか
これが最も重要な問題です。クライアントのアイデンティティを特定した後、どのようにすればそれを強化することができるでしょうか?
自己決定理論(=SDT Self-Determination Theory )とは、動機付けられた行動を理解し、説明を試みる広域の理論です。自己決定理論内の行動に対するさまざまな動機付けは、より制御された段階から、自律的な段階まで連続して存在します。
行動は、さまざまな調整や動機付けによって起こります。それぞれの段階は以下のようになります。
① 外的調整:外部の要求や報酬により発生します。この行動は、自らが望んでいるからではなく、何かまたは他の誰かによって起こる行動です。
② 取り入れ調整:罪悪感、不安、自己を高めるため、などを理由とした行動です。取り入れによる行動も、外的調整による行動も、動機付けがコントロールされています。これらは、長期的に考えるとあまり良い行動の基盤を形作るとは言えません。
③ 同一化調整:必要性に基づく行動の評価を反映しています。例えば健康になることがその人にとって必要なことであれば、その目標に向かって行動します。
④ 統合調整:行動がその人の価値観やニーズと合致することです。
自己決定理論はまた、個々の心理的ニーズを満たすための方向性を示します。これらのニーズには、
・能力があると自信を持つこと
・自律性(つまり、好まない行動を強制されないこと)
・関連性(世話をすること)
が含まれます。パーソナルトレーナーは運動に関するクライアントの基本的な心理的ニーズを満たすための環境を整える必要があります。
クライアントが様々なエクササイズに挑戦し達成感を感じるよう助けることで、あなた自身も達成感を味わうことができるでしょう。新規のクライアントの初日にロードバックスクワットなどの複雑な動きを要求すると、クライアントは自信をなくしてしまいます。その日のクライアントの頑張りによって改善した部分を強調し、自信を持たせましょう。
また、クライアントの自律性を尊重する必要があります。パーソナルトレーナーが効果があるエクササイズだと考えていても、もしクライアントがそれを行うことに苦痛を感じるのであればすべきではありません。
エクササイズはあくまでも目標を成し遂げるための単なるツールです。その目標を達成するためのエクササイズにはたくさんの種類があります。パーソナルトレーナーはクライアントに合わせたエクササイズを提供することが重要です。
最後の要素である関連性とは、コミュニティの育成によって発展させることです。トレーナーだけでなく周りのスタッフも友好的で、クライアントの目標をサポートし、クライアントに気にかけてもらっていると感じてもらうように努力しましょう。
ジムやスタジオの環境を発展させていく必要があります。この環境は、自宅や職場とは別のユニークな共同スペースです。自分自身のアイデンティティを表現しながら、他者との関係を築くことができる場所です。
ジムやスタジオは、クライアントにとって第2の家のように感じる必要があります。コミュニティの育成は、クライアントのニーズを満たし、運動に関連するアイデンティティの発展をサポートする、とっておきの場なのです。
JUSTIN KOMPF(ジャスティン・コンフ)
パーソナルトレーナー、CSCS。ボストン・マサチューセッツ大学で運動・健康科学の博士号を取得。
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