39B-2飛行場にて
この場所には飛行場があったと思ったのだが。私は、草むらの中の大きなキノコに腰掛けて、辺りを静かに眺めていた。マルボールで買ったチョコ・プリンを食べながら。空には巨大な雲がーー入道雲って言うのかな?ーー異様なほど間近に浮かんでいるように感じられ、一帯はどこか不自然な平和な雰囲気につつまれていた。ヨット、赤と黄色のカラフルな扉、砂場。私は草むらから、そんなものを眺めていた。
細かいことを考えなければここは居心地がよい、と思う。自信はない。自分で言っておきながら、奇妙なことだが。私は自分がここにいるべきではないような感覚が、心の奥底にチラリとあるようなないような気がする。というよりも、ここはなにか、この平穏な見かけとは裏腹にもっと巨大なものごとーー戦車とか、大都市とか、それか、作戦とか?わからん。質問しないでくれ……自分でもよくわからんーーがずっと稼働中で、この不気味に平和な見かけはそれを隠すためのなんらかの仮面なのではないか、そんな予感が私の中に、深いところに静かに横たわっていた。もうずっと長いこと。私はきっと疲れている。
私は時計を見た。私は、自分が時計の読み方がわからないことに気がついた。ああ、そうだった。思い出した。私は自分でこの時計から針を抜き去ったのだった。私は他人の作ったものが嫌いだった。時計の文字盤に書かれた文字、そしてそれを指し示す機械仕掛けで動く針、これらの示す「この時計の製作者の考え」に賛成することができず、私はうんざりして、自らこの時計から機能を取り除いたのだった。文字盤の読み方も「わざわざ訓練して忘れた」のだった。
なのに、私は、どうしたのか、大昔の記憶や習慣をいま、無意識に再現して時計を覗き込んでしまったのだ。そこになにか知るべきものが記されているかのように。私はこれを恐れていたはずだった。古い習慣が蘇ることを。しかし、幸い、時計の文字盤に書かれている文字に関しては、私はこれの意味を「わからないでいることができる」ようであり、その点は安心した。文字盤を見ても、そこに書かれていることの意味を私はわからなかった。私はこれを技術と考えている。
私はここへ来る途中、森の中でいくつもの部屋を見つけた。部屋には、どれも、人のいた形跡はなく、真新しいまま随分と時が経っているようだった。どの部屋にも肖像画が飾ってあり、机がひとつあり、しかし椅子はなく、壁の変に高いところに位置した窓から光が差す、薄暗い部屋だった。これは私がーーないしは人間がーー思いつける用途で使用される部屋ではないことを、なんとなくだが直感した。いや、別に、そんなのは間違っているかもしれない。普通に誰かが使っている部屋かもしれない。でも、どの部屋も、ほこりというのか、長い時間放置されたままだったことがうかがえる「コケのようなもの」が、机の配置や床、そもそも机の上とかを全て覆っているような感じが、なんとなくだがしたのだった。実際にコケが生えていたわけではない。たぶん、ただのほこりであろう。
私は岬へ行こうとしていたのだった。いや、待て。飛行場だったかな。私は確かR3B地点でずっと物思いに耽ったままでいて、何分くらい経ったのだろうか、いや、何時間?それとも何年も?私はふと思い出して、飛行場を目指して歩き出すことにしたのだった。(それか、先に岬を目指していたかもしれない)39B-2地点にある飛行場を、私はずっと昔に訪れたことがある。その飛行場を、もう一度見てみたくなったのだ。見たからどうなるというわけでもないだが。ただ、なにかの足しになりはしないかと、そんなことはありもしないのだろうが、しかし、そんな哀れな期待をして、私は歩き出したのだった。
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