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すべて 白く 染めて
雪が、降る。
雪が、降っている。
灰色の空からふわふわと、軽やかに舞い降りてくる。
時が経つごとに積もりゆく様子が、本当に少しずつ、少しずつ、こつこつ こつこつ、小さな力を集めて大きな力になりゆく姿を、見せてくれるかのよう。
そうして、夜には、真っ白な大地が広がっていた。
車も人も、通りはいつもより少なくも感じる。
雪は降り積り、道路は無残な雪と無垢な雪とでわかれている。
しんしん と、雪が降っている。
それは、ただの擬音だけではなく、深々とも森々とも表せる、静かに、深まりゆく、無音。
これほどまでの、圧倒的な静けさは、他にはないのかもしれない。そんなことを感じさせる、圧倒的な静寂。
凛とした寒さに、身が震え、胸が震える。
でも、不思議。
雪がしっかり降るときは、なぜだろう、いつもよりも寒さを感じない。それは、空気が安定しているから、と。昔聞いたことがあるけれど、きっと、雪の御業に違いない。
私はやっぱり、冬が好き、寒さが好き、雪が好き。
白く、どこまでも白く、そうしてこの冷たい空気に、自分の輪郭がはっきりとわかる。
私が、今、ここに、いることを、ちゃんと、教えてくれる。
たしかな、自分の存在が、こんなにもくっきりと浮かび、わかる季節。どこにいるのかわからない不安を、感じなくていい。
夜の闇から雪が落ちてくる。
見上げれば、黒と白のコントラストがあまりにも美しい。いつまでも、こうして、見ていられる。
雪、白く染まる、街。
あぁ、私の心にも雪が降り、鮮やかな白に、染めてくれればいいのに。すべて覆い隠して、汚いものを、きれいなものでも、すべて、すべて、等しく、美しいこの白に、染めてくれればいいのに。
雪が降るたびに、そんなことを思い浮かべる。
かなしくも、さみしくも、しあわせに、こころおどる。
私は天を再び仰ぎ、空に向かって手を投げる。
それは、何をつかめたであろう。
雪が降る。
雪が降る。
白が、降りて、くる。
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