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その恐怖は、何から発せられているものか
目の前で、赤ん坊が泣いている。
溢れんばかりの声量で、それはいったい何を訴えているのだろう。
赤ん坊が泣くのは呼吸をするためだ、なんていう話しを聞いたこともある。けれど、これほどの力で発していたら、何か伝えたい想いがあるのだろう、と私は勘ぐってしまう。
友だちは ひょいと 赤ん坊を抱き寄せて、せっせとあやしている。私はその姿を見つめながら、何もできない。
その視線に気づいた友だちは、一瞬動作をやめたかと思うと、何を思ったのか
「抱いてみる?」
なんてことを口にした。
いやいや、私は赤ん坊を抱きたいなんて思ってないし、うらやましい、とか、やってみたい、とか、そんなつもりで見ていたわけではない。勘違いも甚だしいことだ。そんなことしたくない!
と、私の返事を待つより早く、友だちは ひょいと 私に赤ん坊を差し出して、恐れから反射的に手を伸ばすと、あっという間に私に赤ん坊を預けてしまった。
なにを どこを どうやって 持ったら いいのか も わからない わからない まま その重たさ だけが 心に 重石をつけられ たか のようにお も い
そのぎこちなさゆえか、はたまた私のかたまりきった表情からか、友だちは楽しそうに笑うと ひょいと 自分の手に赤ん坊を戻した。
私は脱力しきって疲れきり、何も言えずにいた。
そのとき、何かを友だちが言っているような気がしたけれどまったく耳に入らず、私が感じていたことは、ただの恐怖だった。
その恐怖は、赤ん坊そのものだけではなく、なぜだろう……
なぜだろうか。
私は赤ん坊を落としてしまうこと、放ってしまうこと、そんなイメージが頭に巡り巡り、それがあまりにも現実味のある重さを持ってよぎるものだから、それを実践してしまいそうでただただ怖かった。
そんなことするわけない。
と、思っているのに……。
私は、今は泣き止んでいる赤ん坊を見ながら、その背から暗い感情が湧き出てくるのを見た。そうして、その表情は、どことなく穏やかに、うっすら笑みを浮かべているようにすら、見えた。
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