その色
こんなに晴れやかな空があるのなら、誰も、不幸を背負うことはないのだろうか。こんなにも晴れやかな空があるのなら、誰もかれも、晴れやかな心地でいられるのだろうか。それなら、どうして、こんなにも空は青いのであろう。なんで、こんなに悲しい色と、晴れやかな空の色は同じなのであろう。
海だって、そうだ。青い悲しみを背負いながらも、生命の源でもある。
不思議だ。
気持ちよさそうに泳ぐ洗濯物を眺めながら、私は、この空が降りてきて悲しい気持を味わっている。
悠々と浮かんでいる雲でさえ、無理に悲しみにふたをしているかのように無垢な想いを忍ばせているみたいで、なおさら気持ちが沈んでいく。
おおいなるものがすべてこんなにも悲しい色をしているから、世界は悲しみに包まれてしまうのだろう。
あぁ、何度、悲しいなんて言っているのだろう。
今日も、晴れやかだ。青空が、どこまでも、広がっている。だから、みんな、悲しい、だろう。
曇っていても、灰色の想いが心を沈ませて、雨が降れば、その糸に絡まり身動きも取れず、何をしていようとも、どんな日であろうとも、悲しいことに、変わりはない。
それなら、まだ、この晴れやかな空は、いいのだろうか。
青い、深い、悲しみが広がっていても、晴れやか、という言葉が響き渡り、少しでも軽減してくれているのだろうか。
黄昏の夕日だって、儚い色をしていて悲しい。
深夜の暗闇だって、頼りない心地が悲しい。
それなら、まだ、この、青い、悲しい、青空は、比較的まともなもの、なのだろうか。
洗濯物は気持ちよさそうに泳いでいる。走り回る子どもたちは楽しそうに声を出す。
穏やかに、流れていく時間。
ゆるやかに、流れていく時間。
みんな、悲しい、と思っていたけれど、悲しいのは、私、だけ、なのだろう、か。
私が、悲しい色を、しているだけなのだろうか。
私が、ただ、悲しいだけ、なのだろうか。
それを、空に、投影しているだけ、なのだろうか。
それに、空が、呼応してくれているだけ、なのだろうか。
たんに、私の、心が、そう思わせているだけのもので、すべて、錯覚、すべて、幻想、きっと……。誰も、みんな、悲しんでなんか、いない。すべて、私の気のせいで、思い違いで、なんてことはなかった。私が空を見て、海を見て、青を見ていて悲しい気持ちになっているだけ。ただ、それだけ。
いつも、いつでも、私は悲しいから、きっとみんなもそうに違いない、って思いたかっただけ。
どんな空も、悲しみを孕んでいるから……
あぁ、でも――そう、だ
雪、だけは、雪の空だけ、は、すべて、すべて、白く染めてくれる。私のこの黒い、暗い心も、気持ちも、醜い体も、すべて、清らかな白で、染めてくれる。この世界のなにもかも平等に、白い心で包んでくれる。夜の闇でさえ、白が鮮やかに映り、照らしてくれているかのような。それもすべて、もしかしたら、私の思いこみなだけ、夢幻なのかもしれない、けれど。
それでも、私は、そう思える。
悲しい、と、思わない。
あぁ、そうだ、そんな日もあるんだ。
悲しい、って思わなくていい日が、ある。
それを思うと、何とか、今を生きていける、気がする。
悲しい心が今もまだ、私を作り上げている、けれど。
まだ、まだ、何とか、生きて、いける、気がする。