風景描写 その6 ~風花の雨~
それは、ちょっとした、違和感のようなものだった。
雲が形を成すよりもつなぎ合わさり、空自体をまねたように白と灰の混ざる色彩が一面を覆っている。
それでも作りこみの甘さからか、想定よりも光が強く主張しているからか、合間合間に蒼が見え、透明な輝きを放っている。それはしだいに光を増して、そのうち雲が退いて晴れやかな顔を見せるのではないか、という期待も持たせていた。
事前に確認していた天気予報とも相まって、私は揚々として雨具も持たず、買いものに出かけた。
ほどなくして、それは、ちょっとした違和感のようなものだったかもしれない。
天を見上げると、相変わらずの空模様が見下ろしている。
気のせいか、と思う間に再び――水滴が、肌に触れた。
それは天からこぼれた涙であろうか。
それとも、どこか遠くから風に運ばれた嘆きであろうか。
そっと 肌に触れる水滴は幻想のように瞬く間に消え、それが水滴であったのかも確信の持てない。
誰かの、何ものかの祈りが頬をないだ指先の感触に――それは私自身の涙であったのかもしれない、と そう感じた。
風花のような儚い雨に似た雫は、どこから現れて、どこへ去ってしまうのだろう。
思わず表情をゆるませて、駅へと入り、電車に乗りこむ。
ふと、それは、違和感ではなく、目の前の現実ではあったが――
車窓から見えたものは偽りでも幻でもなく、間違いなくかすかな雨そのものであり、気がつけば空はあっという間に暗澹と広がっていた。これからますます雨の強くなってきそうな気配に、ベランダに残した洗濯物を思い浮かべ、思わず天を仰いだ。
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