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あなたの名は
私たちのことを、あなた方は何て呼ぶのでしょう。それなら、逆も考えてみましょうか。あなた方のことを、私たちは何て呼ぶと思いますか?
あら、あなたは「ゆうた」というのですね。じゃあ、私の名前はわかる? ……いいえ、それは、私の「名前」ではないのですよ。
あの子にも、あの子にも、もちろん私にも、あなた方のようにそれぞれ名前があるのです。今あなたが――ゆうたが言ったその名は、ゆうたのことを「人間」と呼ぶように、ただの種の名前です。難しいかしら。
そうね、ゆうたは久しぶりに私の声に耳を澄ましてくれた方だから、教えてあげます。私の名前は――
今はもう聞こえないその声で、あの子の名前を聞いたのは何十年前だったか。僕は久方ぶりに訪れたこの場所で、もう一度耳を澄ましてみる。やはり、聞こえない。
それでも僕は、たしかに、覚えている。誰も名を知らない、けれど、それぞれ別の存在たらしめるーー名前が、あることを。
この子たちそれぞれに、想いがあり、言葉があり、命があり、違いがある。
それを、たしかに、教えてくれた。
それゆえに、僕たちにもそれぞれ、想いや言葉、命、違いがあることを。
改めて、教えて、くれた。
それを、僕は、覚えている。
風が吹くと、可憐な花たちはーーこの子たちは、静かにゆれて、何かをささやいたようにさえ、思えてくる。僕は、
耳を澄ました。けれど、声はもう、聞こえなかった。
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