私の想いを知ってほしい
人と人というものは、どうしてこんなにも、相容れないものなのであろう。
好きだから、一緒にいたいから、結婚をしたはずなのに、どうしても拭えない、このーーなんとも言えない感覚。
傍から見たら、うまくいっているのだろうか。
それは、でも、ただ、歯車のように、回っているだけではないだろうか。
仕事をしていてよかった、と思うのは、こうして考えこんでしまう時間が少なくなるし、忙しければそちらに思考を集中させておくこともできる。けれど
どうしても、こんなふうに ぽっかり 時間が空いてしまうと、だめだ。
「そんなに嫌なら別れればいいのに」
タバコを燻らせながら、同僚が簡単に言う。本当、簡単に言ってくれる。
「…‥でも、嫌いなわけではないの」
かろうじて伝えられた言葉は弱々しい。それが本心なのか疑わしいくらい、弱い声音。
「そ? ならいいんだけれど。何年してないんだっけ?」
その言葉が釘となって刺さるような。と同時に、ぱっと頭に浮かんでしまうのも、ずっと数えているようで嫌になる。
「…‥もう、四年」
はぁ
それは、どちらがついたものかわからなかった。
沈黙が流れ、タバコの煙だけが鼻腔をくすぐり、むせこみそうになる。
そう、四年だ。子どももいないのに、四年、経つ。
いずれ、なんていう言葉が風化してしまうくらい、どちらかといえば、諦めが先立ってしまう。このまま、二人で過ごしていくのも、いいのかもしれない。けれど…‥違う。そうじゃない。それで、あの人はそれでいいのかもしれない。私は、私の気持ちは……。したいわけじゃない。そうじゃない。でも、違う。
「私なら耐えられないな。女を満足させられない男なんて」
タバコを灰皿にこすりつけ、空になった両手で頬杖をつく。同僚は私のほうを見ずにそう呟いた。
その言葉に、何も言えずにいる。
何も言えずに、反論もできずに、頭の中で巡るのは、それもまた、違う、ということだ。
同僚みたいに、フリーで、いろんな男とするのも、私は望んでいない。
私は、ただ
「知ってるよ、したいわけじゃないのも。愛を確かめたい、なんて気取ったことでもなくて、好きな人に抱きしめてほしい、ってことも。でも、そんな満足も与えてくれない男でいいの?」
今度は私のほうを見据えながら、真剣な眼差しを向けている。この子は本当によく核心をついてくれる、と感心もした。
「……そう、ね。私も、逃げていたのかもしれない」
言われて、たしかに、そうも思う。
女としての満足でなくてもいい。私を、満足させてほしい、とは思う。
「逃げないで、話してみようかな」
わかってくれるかはわからないし、人なんて、やっぱり相容れないのかもしれないけれど。
話さなければ、初めから、伝わらない。
前に話したこともあるけれど、今度は……決意して、いかないといけないかもしれない。
「ま、どう転んでも、いつでも話しは聞くよ」
そう言ってグラスを差し出す。正直に、格好いいと思う。いろんな男と懇ろにもなれるわけだ。
「うん、ありがとう」
そうしてグラスを合わせると、ビールを飲む。
明日、話してみよう。
どうなるかはわからない、けれど。私の想いを、知ってほしい。知ってほしい、と思う、から。
そうして、彼の想いも、私は知らないといけない。何か、ちゃんとした理由があるのかもしれない。
相容れない、と思う前に、もう一度。
グラスをテーブルに置くと、同僚を見つめる。彼女は、先ほどまでの言葉遣いから信じられないような、慈愛を思わすやさしい笑みを浮かべながら、私を見て、そっと、包んでくれていた。