
感覚
心の底から、どうでもいい、と吐き捨てて、そうして積み重なったものは本当に何にもない、それこそからっぽにも思えるうつろなるものであった。
「ゆきはさ、まじめなんだよ」
そんなこと言われても、私には何が何だかわからない。まじめ? だなんて、そうなのかしら。
そうやって首を傾げているのがおかしいのか、さきは口元を押さえながら笑う。何も隠れていないのだから、そんなことしなくていいのに、と思う。
「そんなことばかり考えているんだから、やっぱりまじめだよ」
私には、わからない。
ぬるい、風が首筋を通り、気持ち悪さが全身を駆け回る。まるで誰かの指で撫でられたような感触が、そんな想像を抱いてしまうことが、あまりにも気持ち悪い。
さきはそんな私を見ながらーー笑ってはいるけれど、見放すこともなく、そばにいてくれた。
きっと、私がおかしいのだろう。そんなことを思ってもなお、そんなふうにも思えなくて、その相反する感じがどっちつかずの感情を覚えさせる。やじろべえみたいに、あっちへ、こっちへ。
「風が気持ちいいわねぇ」
そんな言葉を聞くたびに、不安になる。
あぁ、やっぱり……
「ゆきは気持ち悪い?」
覗きこんできたその表情は、馬鹿にしている感じもなく、すなおに、ただ、すなおに、聞いてくれているように、感じた。私は静かに頷くと、そっかぁ、と空を見上げる。
「おもしろいねぇ、感覚って」
そういって、私のほうを見るや、ぎゅっと抱きしめる。
驚きのあまり、声も出せず、きっと目を大きく見開いているに違いない。
「これも気持ち悪い?」
さきの表情は見えない。私の表情が見えないように。
私は目を閉じて、今の、自分の感覚に、意識を集中してみた。いや、そんなことしなくても、わかっていた。
私の言葉はどんなふうに届いたのだろう。
体を離したさきはいつものように にっこり 笑うと、私の頭を撫でながら、
「ゆきはまじめねぇ」
と、それはなんだか馬鹿にされたようにも感じた。思わず、笑ってしまう。
うずくまっていた感情は表に現れて、少しばかり、からっぽなんて、思えなくなった。
そろそろ帰ろうか、と、お互いに口にするわけでもなく顔を見合わせると すっと 歩き出す。
わからないことに変わりはないけれど。
それでも、なんとかなるような、そんな気持ちに、させてくれた。
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