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心とはどのようにして存在していると証明できるのだろう

 それは、祈りのようであった。

 私はここから眺めていることしかできなくて、もどかしさもありながらただただ見惚れていた。そう、見惚れていた。私は眺めることしかできなかったわけではない。ただ見惚れていたんだ。動けなかった。動く気も起きなかった。この光景を、この姿を、ずっと、じっと、見ていたかった。

 音のない空間に引きずりこまれたような、そんな錯覚に陥る。いや、実際に音は掻き消えていたのかもしれない。音だけではない。

 今、世界には、私たちしかいなかった。

 そんなふうに考えてしまうほどの、濃密な存在感と圧倒的な違和感が、私の脳裏に滑りこみ、目の前の光景を映し出していたに違いない。

 彼女は横目で ちらり 私を見た。口元が綻び、やさしくもかなしげな眼差しが印象的で、すぐさまに目を切った彼女の心理を、語らずとも伝えているようであった。

「ーー」

 儚げな音が、唇からこぼれだし、意味にもならず、私の耳に届く。それは言語ではなかったのかもしれない。旋律とでも表現するべき軌跡が、目の前を通り過ぎて命を芽吹かせる。

 あぁ、それは祈りのようであった。

 彼女の、生きるかなしみであった。

 いや、それは私が感じたことで、彼女の本心ではなかったかもしれない。

 私から見える、その佇まいも、その表情も、すべてが私の感覚を通して訴えかけてくる。けれど、私の感覚を通したものは、彼女の感覚を通したものと一緒であると、どうしてわかることだろう。

 それはふいに訪れた思考で、ひらめいては心まで根ざし、ことのはが咲いた。

「わたしは、ただ……」

 それは意味を通して言葉と成し、私の鼓膜を震わせる。最後までは聞き取れず、集中のほどかれた空気が栓となって耳を塞いでしまったに違いない。

 彼女の姿が、立ち振る舞いが、またすべて違った印象を受け、すぐにまた違う感覚を経て、時間が過ぎ去るごとに刻一刻と形を変えていく。

 私の目にはもはや、人の形を真似た何か別のものに感じられたーーそう、外見からは人と区別のつかないゾンビのように、感じた。

 しかし、それは彼女だけのことなのだろうか……。

 私がそうではないと、誰が、何が、証明してくれるだろう。
 他の人がそうでないと、誰が、何が、証明してくれるだろう。

 私にはまるで、全人類が実はゾンビで、私もその中の一員であるのではないかと、と疑わざるを得なかった。

 彼女の姿は祈りのようであって、祈りではないのかもしれない。それは私が無意識に伝えていた言葉にも現れていて、考える前から感じていたのかもしれない。

 それは、実は、何だったのだろう。

 彼女の目が私を写す。網膜に焼けついた、私の姿は、私が見えているものとはたして同じなのだろうか。真実は、誰にもわからない。

 私は深い迷宮に惑わされ、囚われてしまったことに、気がついていた。出口がどこかもわからずーーいや、その出口はおそらく存在しないであろうことがわかってはいながらも、それには目を逸らしながら出口を追い求める生きる屍となって、さまようしかなかった。

いつも、ありがとうございます。 何か少しでも、感じるものがありましたら幸いです。