風景描写 その3 〜雲の大地〜
吹き荒ぶ風がすべてを飲みこもうとするような、荒々しい朝だった。
のんびりとした朝に似つかわしくない騒がしさがあり、どことなく急かされているような心地になる。
風の強さに関係なく、日は上り、空は明るい。
けれど、日差しはゆるく、それでいて影でもない。不思議な空だった。
私はようやく準備を済ませ、外に出る。
自転車を転がしながら、風の行き先へ行く分には何て心地よい楽なものだろう、と思ったが、同時に帰りのことを思うと、いくばくかの憂鬱があった。
そんな憂鬱など杞憂とでも言うように、風に飛ばされていく雲が、私よりも先に次から次へと過ぎていく。
絵筆でも描かれたように掠れた雲は、灰色とも暗い紫ともとれる色合いをしており、駆け足でもするように流れも速い。その上をふんわりとした大きめの、少しばかり明度の低い白い雲が歩いている。風の強い日によく見られるような風景であった。
曲がり角を抜けて、遠くまで見通せる、開けた場所に出た。そこには、
完全なる白さで、悠然と立ち並び、それこそ絵画のような風合いの雲が低く、低い位置で広がっていた。それはまさしく雲海のような、いや、雲の大地とでも呼べるような、荘厳な美しさがあった。
あまりにも遠くなのだろうか、風の流れとは無縁のように静かにそこにいる。その目の前を通る掠れた雲とのコントラストがあまりにも絶妙で、私は周りも気にせず立ち止まり、ただただその光景を眺めていた。
光と影が織りなす、自然の絵画。
流れゆく上空の雲との対比がまたよいもので、地上と並列している低空の雲が、どしん、と腰を落とした力強さを感じられた。
しばらくの間そうして見つめているうちに、先ほどの憂鬱が風と共に吹き飛んでいることに気がついた。
あの美しい白い大地に住む、幻想的な生き物たちを想像しながら再び自転車に乗り、力強く、ペダルを漕いだ。