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千文小説 その1182:無化
こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。
急いではしょった時間は、必ずや、どこかで、調整される。
妙にスムーズに行ったな、という時ほど、気をつけなければならない。
後で、どかんと、大渋滞に巻き込まれて、均せば、元通り、になることがほとんど。
だが、初めから、アップダウンを嫌って、人生全てを均等にしようとすると。
…こればかりは、推測ですが、多分、死ぬ時に、大ごとになる。
むちゃくちゃ長患いをする、とか、あり得ない事故を起こして周りを巻き込む、とか。
おそらくは、生き物には、それぞれに、与えられた時間というものがあり。
多少、前後はするものの、おおよそ、その範囲で、一生が完結するようになっている。
細胞レベルの、超物理的な話なので、通常の意志では、いかんともし難い。
そこを超えようとして、修行したり、研究したり、してはみるものの、しょせん、釈迦の手のひら。
初めから、おとなしく、従った方が早い。
諸聖賢が、口を揃えておっしゃる通り、凡人は、無駄に、あがかないように。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
iPhone問題や、iPad問題は、いずれも、大変苦労しつつも、各々の時間を経過して、霧消した。
…MacBook問題は、どうかな。
収まった、と思うと、そこかい、とがっくり来るようなところで、つまずく。
苦しむだろうな、と覚悟していると、もういいの?と顎が外れるほどあっさり、抜ける。
相性なのか、あるいは、ノートパソコンというデバイスの特性か。
大丈夫かな…。
無事に、終わるのだろうか。
気をもむほどに、長丁場で、どうにも、疲れる。
今代の、13インチのProに、落ち度はない。
毎日毎日、スムーズに、原稿が書けて、ありがたいこと、このうえない。
しかし、…あまりにも、うまく行き過ぎなのではないか。
見落としていることが、あるのではないか。
そわそわして、あら探しをするも、とりたてて、見つからず。
何を、ひとりで、大騒ぎしているのか。
黙って書いていれば、済む話だろう。
文句ばかり言って、仕方ない奴だね。
頭の中が、分裂的になってきて、違和を感じている自分を、感じていない自分が責める、騒乱状態に。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
どんな物事にも、必ず、理由はある。
因果の法則の網の目をくぐることは、いかなる存在物にも、不可能。
今代のMacBookに、根本的な不信感を抱くようになったのは、なぜ?
購入直後に、インターネットが切れたこと。
…即答じゃん。
そうなのです。
一昨年の三月に、今代を購入してまもなく、建物の設備故障で、Wi-Fiが、一週間、通じなくなった。
冷静に見れば、別に、MacBookのせいではない。
しかし、僕の中では、両者が、がちっとリンクしてしまい。
MacBookを使うたびに、iPhoneのSIM回線に頼るしかなかった、あの恐ろしい不便さがよみがえってきて、落ち着かない。
悪いことに、その後、何度か、MacBook本体の都合で、Wi-Fiがオフになってしまったことがあり。
ますます、このパソコン、ネット環境がよろしくないのでは。
インターネットライターとしては、致命的な疑念にさいなまれ、MacBookにログインすると、まず真っ先に、Wi-Fi接続を確認してしまう。
トラウマの厄介なところは、自分から、当該の、ショックな出来事の再現を望んでいるかのような状況に陥ること。
また、繫がらなかったら。
おびえるうちに、
また、繫がらないで。
脳内で、文言が変換されてしまい、いつの間にか、Wi-Fi切れろ、と思っている自分に、とても驚く。
怖かったのです。
こうして、何年も、引きずるくらいに。
Wi-Fiレベルで、これだけなのだから、暴力を振るわれたり、災害に見舞われたりした方が、心身を立て直すのに、どれほどかかるかと思うと、気が遠くなる。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
炬燵の中、爆睡を続ける愛猫に、布団の裾で、換気の風を送りつつ。
天板の上、静かに横たわる、薄灰色のノートパソコンを見やって、ため息をつきます。
MacBookを交換したとしても、完全完璧なインターネット接続が、保証されるわけではない。
大枚をはたいて、買い替えて、また繫がらなくなったりしたら、今度こそ、立ち直れない。
それこそが、トラウマの罠で、何度でも、似たような状況を、自ら、引き寄せてしまう。
上書きするには、どうしたらいいの?
とにかく、何もしないこと。
傷は、治そうとして、いじればいじるほど、深くなります。
思い出してしまったら、思い出してしまったままにしておく。
…つらいです。
拒みたい。
それでも。
生きるためには、時に、無になることも必要です。それでは、また。