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千文小説 その1206:頭角

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 MacBook Airを選べば、OSの期限に合わせて、定期的に、買い替えられる。

 MacBook Proを選べば、行き止まり的に、安心して、使える。

 どちらにしても、相応の代金と、手間がかかる。

 楽はできないし、するつもりもない。

 そして、ここが肝心だが、物書きとして、どちらがふさわしいか。

 こればかりは、人によって異なるので、共通の正解はない。

 あくまでも、僕にとって。

 いや、僕の文章にとって、どちらが、合うの?

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 ちなみに、表面的に、僕っぽいな、では、駄目。

 書いている時の人格と、日常の人格は、別物。

 普段の僕は、ぼんやりで、いろいろと、抜け漏ればかり。

 しかし、いったん、スイッチが入ると、あり得ないほどの洞察力を示して、こちらが、びっくりする。

 こちら?

 そう、普段の僕は、書いている僕と、両立しているのです。

 毎回、君は誰?状態で、自分が何なのか、よくわからなくなる。

 もちろん、天才ではないので、いかに冴えているといっても、限界はある。

 あるのだが、やはり、普段の僕より、書いている僕の方が、はるかに賢く、努力などでは、とても、その差は埋められない。

 一生、二重人格?

 …ですね。

 書いている限り、僕は、ダブルに分裂した状態を、維持し続けなくてはならない。

 苦痛か、と訊かれたら、まあ、それほどでも。

 これが常態なので、なんということはない。

 それでも、人間だもの、心弱ることは、多々あり、その際に、手に合う愛機が、いつもそばにいてくれると、とてもほっとする。

 デフォルトで、厳しいので、できれば、愛機とは、もめたくない。

 さあ、MacBook。

 Airなの、 Proなの?

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 炬燵の中、爆睡の愛猫に、布団の裾で、換気の風を送りつつ。

 天板の上、静かに横たわる、薄灰色のノートパソコンを見やります。

 MacBook Pro、13インチ、スペースグレイ。

 後者二つが、普段の僕で、前者が、書いている僕。

 …次代も、このスペックがあれば、良かったのにな。

 残念ながら、両者は、分割されてしまった。

 書くことを優先するなら、14インチのPro。

 日常を大事にするなら、13インチのAir。

 どちらを選んでも、どちらかを切り捨てることになる。

 要するに、どちらでもない。

 13インチも14インチも、選べない。

 16インチのProだと、僕の懐を破壊して、書く/生きるどころではなくなる。

 と、いうことは。

 …出たよ。

 秘技・中途半端。

 15インチのAir。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 とにかく、ずらすしかない。

 自分の中にある二重性を表現するには、あまりにも分類可能な、誰が見ても納得するぴったりさでは、かなわない。

 そして、決して、お金で解決してはいけない。

 現行のProシリーズは、貧乏物書きにとって、破格の高額。

 己の人格落差を、無理な背伸びで代行すると、後が、大変。

 仮に、14インチのProを買って、OSの期限を迎えて、では、次代は、どうする。

 そうなった時に、14インチのProになじんでしまったら、もはや、シリーズ変更は、困難。

 それでも、僕と僕は、重ならない。

 このずれを、愛機によって、表すとしたら。

 いっちゃう?

 16インチ。

 となって、エンドレス浪費→破産→廃業。

 13インチのAirでも、結局は、同じこと。

 いずれ、必ず、14インチのProが、欲しくなる。

 いったん買ってしまったら、上記の浪費ループを抜けるには、書いた物が、大当たりして、ノーベル賞クラスの賞金を手にするとか、逆の意味で、経済を振り切るような大事件が要求される。

 大事件、起こしたいですか?

 …ごめんこうむる。

 破産も、大儲けも、書くことの邪魔にしかならない。

 となると、選択肢は、ただ一つ。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 本来、僕は、大画面が、苦手。

 15インチなどという広さは、全く必要としていない。

 加えて、Airでは、物書きとして、物足りない。

 ほぼ同額を出すのであれば、ぜひ、14インチのProを。

 このように、日常の僕にとっても、物書きの僕にとっても、いまひとつ、使いづらいスペックにしか、もはや、活路はない。

 僕の独自の金銭基準として、電子機器は、一台二十万円以内、というのがある。

 ぎりぎりじゃん。

 その通り。

 苦肉の策、という言い回しが、これほどジャストな状況もない。

 15インチのAir、か…。

 色は?

 …そこまでずらすと、やり過ぎ。

 スペースグレイのまま、ひと回り大きく、グレードは下げて。

 徐々に、次代が、頭角を現してきました。それでは、また。

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