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千文小説 その1196:不束

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 決まったか、と思うと、ひっくり返り。

 決まらないなあ、と思うと、すっと着地して。

 MacBook問題は、いよいよ、難解な様相を呈してきました。

 にちにちにちにち。にちにちにちにち。

 そもそもが、僕と今代、13インチのProは、相性がいいのか?

 訊かれたら、…ううむ。

 悪くはない。

 しかし、良くもない。

 なんとなく、ずっともやもやするばかりで、いまひとつ、愛が育たない。

 さりとて、買い替えるほどではなく、ずるずると、関係は、継続中。

 …結婚に至らない恋人、みたいなもので、本当は、早いところ、別れた方がいい。

 別れられないのは、打算?

 このままにしておけば、いずれ、改善するかもしれないという、未練?

 それとも、ただ一点、確かに通じ合っている箇所があるとか?

 にちにちにちにち。にちにちにちにち。

 バッテリー保ちです。

 大変なロングライフで、充電という概念を、忘れるくらい。

 …そうだった。

 今代を買う時に、とにかく、長保ち電池を。

 先代の、IntelのAirが、あまりにも、すぐ減ってしまい、ひたすら祈って、選んだようなもの。

 ある意味で、願いは、完全に、叶った。

 が、裏を返せば、完璧に、それだけだった。

 それだけ?

 …恥ずかしながら。

 そこにしか、評価点を見出せず、あとは、良くも悪くもない。

 次代に対する、願望も期待もない。

 …いくらなんでも、ひどいのではないか。

 もっと、他に、ないの?

 キーボードの打ち心地とか、色とか、画面のサイズとか。

 ないな…。

 シルバーは、苦手だが、それ以外なら、どれでも。

 作動音が、静かな方がいいのは、確かだが、Appleシリコンであれば、多分、大丈夫。

 困ったな。

 夢が叶った、その先が、見えない。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 おやつのするめをかじり終え、満腹で、寝落ちした愛猫を、ひよこの毛布でくるんで、抱き直し。

 食べ残しのイカを口に、天井を仰ぎます。

 良くも悪くもないものが、とてつもなく良いもの、に変貌する可能性は、残念ながら、ゼロに近い。

 じわじわと、あまり良くないもの、に落ちていくのが、関の山で、それは、誰にも、止められない。

 いずれ、今代のProも、経年劣化が進んで、それほど長くは、バッテリーが保たなくなってくる。

 そうなった時に、果たして、僕は、この機体に対して、どういう態度に出るか?

 あっさりと、見放して、新品に乗り替えるか。

 OSの期限が来るまでは、辛抱するか。

 やる気なく、だらだらと、使い続けるか。

 …そのどれかしかない時点で、なんと言うか、既に終わっている。

 劣化したらどうする、なんて考えていることが、もう、破綻の証。

 潔く、認めよう。

 ごめんなさい。

 僕は、君と、別れなくてはいけないみたい。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 自然消滅、という手段も、あるにはある。

 しかし、ここまで、気合いを入れて、買って、意気込んで、使って。

 なんか、疲れちゃった。

 じゃあね。

 さよなら。

 というわけには、やはり、いかないだろう。

 僕は、相当の覚悟で、MacBookのProシリーズを購入した。

 降りるなら、同様に、相当の覚悟で、降りなければならない。

 この機体を含めて、二度と、Proには戻らない。

 生涯、Airで、書いていく。

 決意を上書きし直して、13インチなり、15インチなりを買って、全てのデータを移行して、今代を、リセット&クローゼット。

 振り返らず、その話題にも触れず、前だけを向いて、千文小説に、専念する。

 …と、書いているだけで、疲れました。

 それは、無理。

 僕のだらだらっとした性格に、そんな完膚なさは、そぐわない。

 シリーズ変更路線は、なしだな。

 となると、次代は、14インチのPro一択。

 16インチは、価格においても、スペックにおいても、無謀。

 ああ、三十万円か…。

 嫌だな。

 でも、仕方ないか。

 でも、嫌だな。

 でも、仕方ないよな。

 ぐるぐると、ずるずると、引きずりながら、今代の13インチと、書いていく。

 …これだな。

 なんともみっともない、うじうじした割り切れなさこそ、僕の本質。

 すっぱり切らないから、生きていられる。

 希望はないが、絶望もなく、ほんのりした明滅を繰り返して、やがて、消える。

 もう、これで、いこう。

 努力をすれば、すっぱりあきらめタイプに変われるのかと、無駄な抵抗を重ねてきたが。

 今年の抱負。

 自分を受け入れ、決して、いじらないこと。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 ゆっくりと、うつむいて、天板の上、静かに鎮座する、薄灰色のノートパソコンを見やります。

 君と、別れなくても、良くなったみたい。

 いや、むしろ、別れない方が、いいみたい。

 結婚しよう。

 ふつつか者を、どうぞ、よろしく。それでは、また。

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