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千文小説 その1157:土竜

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 今代のMacBookに関しては、だいぶ、諸々、クリアになった。

 しかし、やはり、次代が、決まらない。

 Proシリーズを買い継ごうと思うと、資金の面で、苦しい。

 Airシリーズに乗り替えようと思うと、色の点で、もめる。

 …これは、根本的に、何かが、間違っている。

 そもそも、まだ、次代を検討する時期ではない、というのもあり、いまひとつ、ぴたっと来ない。

 のだが、なぜか、このところ、今代ではなく、次代のMacBookのことばかりが、頭を離れなくて。

 なんで?

 今代の、13インチのProに、何か、問題でも?

 にちにちにちにち。にちにちにちにち。

 あるんだろうな…。

 そうでなければ、これほどまで、真剣に、買い替えについて、悩まない。

 新しいMacBookが欲しいな。

 でも、今代が、まだまだ元気だし。

 お金も、あんまりないし。

 せめて、 OSの期限切れまで、待たない?

 …うーん。

 ぼんやりと、夢見ては、打ち消して、それでも、あきらめ切れなくて、ぐるぐると、引きずって。

 さらにぼんやりと、問題の外側に出てみると、さほど、大したことではない。

 微細な違和感に目をつむり、ごまかしごまかし、使い続けても、そうひどいことにはならない。

 しかし、きりっと神経を研ぎ澄ませて、渦中へと、深くもぐっていくと。

 危ない。

 このままだと、いずれ、書けなくなる。

 ぼんやりしたもやに覆われて、退屈に呑み込まれ、言葉を聞き取る耳が鈍る。

 どうにかして、薄い膜を、抜けないと。

 どうやって?

 にちにちにちにち。にちにちにちにち。

 どうにもならない。

 これは、もはや、MacBookの問題ではないから。

 機体を交換する等の、物理的な解決では、ほぐれない。

 書くことの、根幹を、問い直せ。

 お前は、なぜ、書いている?

 …わからない。

 物心つく前から、書いていた気がする。

 どうやって、字を覚えたのか。

 どうやって、文章を習ったのか。

 全く、記憶にない。

 鉛筆、シャープペンシル、ボールペン、万年筆、クレヨンに至るまで、ありとあらゆる筆記用具を試して。

 ワープロ、Windowsのデスクトップとノートパソコン、MacBookに、たどり着いて。

 小説、詩、俳句、短歌、エッセイ、論文、作文、戯曲以外のオールジャンルに、手を出して。

 書いて、書いて、書いて、四十歳を超えて。

 その原動力は何か、と訊かれても。

 さあ…。

 なんなのか、わからないねえ。

 トラウマもないし、才能もない。

 なんで、書いてるのかね。

 自分では選べない、大きな力によって、ここに運ばれてきた、としか言えない。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 おやつのするめをかじり終え、満腹で、寝落ちした愛猫を、ひよこの毛布でくるんで。

 食べ残しのイカを口に、天井を仰ぎます。

 これをしよう、という強い意志を持って、物事を遂行していく人を、昔から、いいな、と思っていました。

 実業家タイプというか、プレゼンテーションの達人というか。

 独自の判断で、唯一の道を切り開き、後の人々にも役立つ発明なり発見なりを成し遂げる、偉大な人。

 …どうも、違うのではないか。

 僕は、風に舞う、一枚の落ち葉なのでは。

 ぴらん、と地面に落っこちて、踏まれたり、さらに飛ばされたり。

 植物にとって、不要になった葉なので、厳密には、生きてはおらず、いずれは、朽ち果てる定め。

 なのだが、なぜか、いつまでも、その辺にいて、誰か片付けてくれないかな、とうっすら邪魔にされる、薄汚い小山を形成する。

 雨に濡れた落ち葉ほど、厄介なものはありません。

 側溝を詰まらせ、景観を害し、それでも、手が付けられなくて、放置プレイ。

 価値的には、僕と落ち葉は、完全に等価で、どうしようもないところも、そっくり。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 落ち葉は、物を書くのか?

 書くかもしれない。

 書いていないとは、誰にも言えない。

 その程度の、ちっぽけな文章を作るための道具を、己の一存で決められると思うなど、愚の骨頂。

 僕には、13インチのMacBook Proが、与えられた。

 選んだのではない。

 気づいたら、目の前にあった。

 Touch Barを始め、一癖も二癖もあって、扱いには苦心するけれど、押しも押されもせぬ、ノートパソコンの最高峰。

 ただの落ち葉には、まことに、もったいない。

 使うか使わないか、そんな我がまま、言える身分ではない。

 これしかないのだ。

 良くも悪くも、僕には、これしか書けない、これでしか書けない。

 評判が芳しくなかろうと、ちっとも儲からなかろうと、後には退けない、ただただ、前進。

 もぐらのように、土を搔き分け、しゃにむに、貫通を目指します。それでは、また。

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