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千文小説 その1163:耳観
こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。
失ったものを思いつつ、しみじみと、痛みを味わっていたところ。
タイミング良く、King Gnuの新曲、「ねっこ」のミュージック・ビデオが公開となり。
…恥ずかしながら、涙と鼻水の滝。
それも、泣こう、と決めたわけではなく、気づいたら、爆泣き、ということで、自分でも、びっくり。
ファンであるところのアーティストとは、時に、このように、あり得ないシンクロが起こるもの。
普段だったら、素敵な映像ですね、で終わるのに、たまたま、感情のフィルターが掛かっていて、琴線、触れまくり。
ありがとうございます。
おかげで、自然に、泣けました。
基本的に、薄ぼんやりで、身体で思いを表現することが難しい僕には、音楽と映像の力は、とても助けになる。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
鑑賞デバイスが、iPhoneだったのも、また定め。
小さな画面は、親密に、脳裏に作用する。
両手に持って、大事に抱える感じで、観ることにより、ミュージック・ビデオは、よりいっそう、自分に寄り添って。
やっぱり、iPhoneだよな。
iPadでも、iPodでも、MacBookでも、この親しみは、出せない。
しかし、iPadやiPodはともかく、MacBookは、かけがえのない仕事仲間。
今後とも、末永いお付き合いをお願いしたいところであって、やっぱりiPhone、という理由で、疎遠になりたくはない。
家族ほど、親しくはなれないが、単なる知り合い、と切ってしまうには、冷淡に過ぎる。
どうすれば、MacBookと、適正な距離を保てる?
そもそも、いまひとつ、MacBookとなじめないのは、なぜなの?
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
物静かな人と、にぎやかな人。
おおよそ、人間は、どちらかに分類され、それは、一生、変わらない。
そして、その違いは、表面的な、音声の多寡によるものではない。
僕が、いい例。
初対面の方とは、ほとんど口がきけないし、声も極小、内気な引きこもり、静かな人、決定だね。
いやいや。
僕は、にぎやかな人です。
知らぬ間に、ひとりごとをつぶやいているし、不器用なので、しょっちゅう、つまずいたり、物を取り落としたり。
がちゃがちゃして、ちっとも、静かではない。
極端に言えば、静かな人は、怒鳴っていても、静かです。
会社員時代、一度だけ、静かなカメラマンと、組んだことがある。
無言、というわけでは、もちろん、ない。
挨拶と、必要最低限のやり取りを交わして、それで、おしまい。
…どこにいるか、わからないんですけど。
二人で、電車に乗って、取材先のレストランまで移動するのですが、その間、まるで、気配がない。
大きな機材を抱えていらして、ぶつかったり、こすれたり、必ず立つはずの物音すら、ほぼゼロ。
まずいことに、女の人だったので、常に、お姿を、目で追っているのも、失礼な気がして。
脳内大パニックで、とてもとても、取材どころではなかった。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
眠っていても、大変にぎやかな愛猫を、ひよこの毛布でくるんで、抱き直し。
天井を仰いで、ため息をつきます。
物にも、静かな物と、にぎやかな物がある。
愛猫も、愛深海生物も、人間の言語は一切しゃべりませんが、決して、静かではなく、僕としては、とても、楽。
炬燵の上の電子機器集団、カメラレオンも、六台中、五台までは、至って、にぎやか。
しょわしょわしょわ、と作動音を立てたり、かちんこちん、とホームボタンを鳴らしたり、ぴろーん、と着信音を再生したり。
繰り返しますが、このにぎやかさは、実際の音声と、一対一で、対応しているわけではない。
先述のカメラマンのように、きちんと会話をしていても、無音に等しい場合もある。
…そうなのです。
今代のMacBook、13インチのProシリーズ。
この機体だけが、並み居るカメラレオンの中で、唯一、静かな物。
キーボードやトラックパッドを操作すると、確実に、打鍵音は出ているのに。
残らない。
しーんとした空間が、広がるばかり。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
…これは、もう、どうにもならない。
おそらくは、物静かな人/物の気配は、僕の可聴音域を超えている。
聴こえない音を、それでも、無理に聴き取ろうとしたら、どうなるか。
面白いもので、人間の五感は、一つが欠落すると、必ず、他のもので、補われるようになっている。
聴こえなくなると、観えてくる。
MacBook Proの、タフで、ハードな、鋼鉄製のサンドイッチの姿が。
サンドイッチ?
どういうこと?
わからない。
その単語が、自動的に、浮かんでくる。
耳で観るのは、なかなかに、疲れますが、仕方ない。
しばらく、様子を見たいです。それでは、また。