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千文小説 その1193:淡希

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 これから始まり、と考えると、しんどくなる。

 そろそろ終わり、と考えると、楽になる。

 …何事に対しても、僕は、そんな傾向にあるな。

 いつか必ず終わるんだし、と、ある意味で、あきらめることで、継続の重みから、逃れようとする。

 その結果、まだ、やってるの?

 他人様がびっくりするような、長期間、同じことをやって、飽くことがない。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 何時間寝ても飽きることのない、特異体質の持ち主である愛猫が、今日も元気に、炬燵で爆睡しているところへ、布団の裾で、換気の風を送りつつ。

 天板の上、静かに横たわる、我が筆頭愛機であるところの、薄灰色のノートパソコンを見やります。

 あれこれ文句を言いながら、13インチのMacBook Proとも、そろそろ、三年。

 しばらくは、買い替えなさそうなので、まだまだ、ご縁は続く。

 次代は、どうしよう。

 Proシリーズを継続するか、Airシリーズに戻るか。

 こう思う時、いつも、利き手を変えたことを、思います。

 生まれてから、三十数年、右利きだった。

 しかし、今は、左利き。

 どんどん、熟達してきて、多分、もう、右利きには戻らない。

 MacBookも、多分、もう、Airには戻らない。

 少なくとも、13インチは、買わない。

 どうしてもと言うなら、15インチに上げるが、…そんな必要、ないよね。

 そもそも、大きな画面が苦手で、テレビも、小さい方が好き。

 16インチのProに至っては、意味がないどころか、破産したいの?

 狂気の高額なので、文字通り、手も足も出ない。

 やっぱり、14インチのProかな…。

 どうやら、この方向は、覆せない。

 あきらめて、受け入れて、仕方ない、買うか。

 重い腰を上げて、十年に一度くらいの頻度で、買い替えに、乗り出すしかない。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 次代が、14インチのProということは、今代の、13インチのProは、MacBookのProシリーズにおける、栄えある初代。

 ここから、始まり。

 …重いね。

 なんとなく、使いづらくなる。

 これから何十年、と思うと、嫌だなあ。

 Airに、替えたいな。

 ぶつぶつ言い出すけれど、いやいや。

 13インチのProは、どのみち、廃版。

 この機体の、OSのアップグレードが終わったら、おしまい。

 あと数年、どうにか、頑張りなよ。

 …わかった。

 急に、聞き分けが良くなって、ぽつぽつと、こつこつと、原稿に向かい出す。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 要するに、結果としては、Proシリーズを継続購入するが、どこが初代だとか、残り時間は何年だとか、縛ろうとしてはいけない、ということ。

 今、目の前に、13インチのMacBook Pro、スペースグレイ、256GB、がある。

 現段階で、OSは、最新版に対応している。

 これだけが、確定事項で、それ以外の余計なことは、言わない。

 ただし、13インチでもない、スペースグレイでもない、256GBでもない。

 反復すべきは、Proシリーズ、である。

 そのことだけは、折に触れて、自分に言い聞かせた方がいい。

 もう、右利きでもないし、Airユーザーでもない。

 時は、確かに、流れている。

 いつまでも、同じところをめぐっているわけではない。

 進歩している、とは言い難いが、とにかく、時計の針は、進んでいる。

 変わるものと、変わらないもの、バランスを取りながら、日々毎日、新しい文章を、生み出すのだよ。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 ため息をついて、天井を仰ぎ。

 またうつむいて、正面の壁、ドーベルマンの肖像と向き合います。

 ある程度、未来予想図を確定してから、現在に帰ると。

 そうか。

 このMacBookと、いつまでも、一緒にいられるわけでは、ないんだな。

 Touch Barが、表示されたり、されなかったり。

 前回100%まで充電された日付が、1970年1月17日になっていたり。

 不具合は、ちらほら現れていて、果たして、十年後まで、無事に連れ添えるか。

 どんな占い師にも断言できない不確実の中を、どうにか、一日ずつ、這っていくのが、人生。

 シリーズ自体は、継続できるけれど、この機体と過ごせるのは、今だけ。

 醍醐味だなあ…。

 あんなにも、ProかAirか、MacBookかiPadか。

 悩んでいた日々も、もはや、遠い。

 それでも、そんな予想をあっさり上回る出来事が起こるのが、生きる楽しみ。

 iPadを買う予定は、今のところ、ないけれど。

 もしかしたら、新しいiPadを迎える日が、来るかもしれない。

 MacBook Proを買い続けるラインと、矛盾せず、収まるかもしれない。

 淡い希望だけは、いつでも、灯しておきたいです。それでは、また。

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