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千文小説 その1201:勇者

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 どうして、もめごとというのは、良くなったな、と喜んでいると、がくんと悪くなるのか?

 しみじみと、不思議に思いながら、天板の上、静かに横たわる、薄灰色のノートパソコンを見やります。

 にちにちにちにち。にちにちにちにち。

 当初、プライベートタイムには、ほとんど出番がなく。

 やきもきしていた、今代の、13インチのMacBook Pro。

 やっと、ちょっとずつ、電子書籍を、読めるようになりました。

 やったじゃん。

 良かったじゃん。

 喜んで、数日、読み続けていたのですが。

 …今朝、目覚めたら、なんとも、鬱。

 嫌だな。

 起きたくないな。

 どんよりと、もやがかかった精神状態で、全てにおいて、やる気が出ない。

 体調に異変はなく、純粋に、心の話。

 と、いうことは…。

 にちにちにちにち。にちにちにちにち。

 とりあえず、規定の原稿書きだけ、MacBookで、仕上げて。

 隙間時間には、これまで通り、無印の第五世代のiPadで、電子書籍を読むようにしたところ。

 良くも悪くもない、通常のテンションに、回復しました。

 …やっぱりな。

 嬉し過ぎることは、心に悪い。

 それはもう、とんでもないストレスがかかるのと、同じこと。

 もちろん、人間だもの、多少のアップダウンは、やむを得ない。

 しかし、こんなふうに、メンタル直撃、みたいな無理強いは、しない方がいい。

 隙間時間は、iPadと、過ごしましょう。

 夜のくつろぎタイムは、iPhone14 Proと。

 電卓は、第六世代のiPod touchで。

 たまには、iPhone7もね。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 おやつのするめをかじり終え、満腹で、寝落ちした愛猫を、ひよこの毛布でくるんで、抱き直し。

 食べ残しのイカを口に、天井を仰ぎます。

 冒頭の問いに戻る。

 どうして、良いだけの方向に、物事を持っていくことは、できないか。

 やはり、無理は駄目、ということなんだろうな。

 正確には、無理をすると、必ず、反動が来る。

 僕にとって、隙間時間の電子書籍読書というのは、iPadでするもの。

 そこを曲げるには、よほど、iPadが壊れたとか、仕方ないよね、と誰もがうなずく、自然な理由がなくてはならないくらいの、心身に染み込んだ習慣で、一日や二日では、変えることはできない。

 なので、購入後八年になる、無印の第五世代の寿命が来るまでは、極力、このまま、そっとしておくのが、正解。

 …なのだが、僕の中に、せっかくのMacBook、それも、Proシリーズを、余らせておくのはもったいない、という強迫観念があって。

 ことあるごとに、浮上して、隙あらば、出番を増やそうと、狙っている。

 そもそもは、三年前、清水の舞台から飛び降りる覚悟で、MacBook Proを購入したこと自体に、無理があった、ということなんだろうな…。

 せめて、先代の、IntelのAirの、OSのアップグレードが終了するまで、待てば良かった。

 現在、MacBook Proを新品で買うのは、貧しい物書きにとって、清水の舞台、どころではない、イグアスの滝に飛び込んで生きて帰ってくる、くらいの、むちゃぶりレベル。

 購入タイミングが、今であれば、僕は、間違いなく、Airを選ぶ。

 だが、実際には、今代のOSの期限切れは、まだまだ先。

 どこまでもずれていく買い時を、どうやって、あるべきペースに戻せるか。

 と、また無理をしようとすると、今度こそ、取り返しがつかなくなる。

 起こったことは、修正不能として、粛然と受け入れ、そのうえで、どうする?

 MacBook Proは、仕事用と割り切って、執筆専用にする?

 それとも、徐々に、相応の時間をかけて、iPadが果たしている役目を、吸収合併していく?

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 …どちらも、違うな。

 現状維持も、おかしいし、自分の思い通りに事を運ぼうとするのも、傲慢。

 何かを、変えなくてはならない。

 しかし、それは、おそらく、僕個人の力では、いかんともし難いこと。

 このまま行くと、数年後、僕はまた、MacBook Proを買う。

 当時と違って、簡単に出せる金額ではなく、下手をすると、なけなしの貯金に、手を付けなくてはならなくなるかもしれない。

 そんなにしてまで、Proシリーズにこだわる必然性は、どこにもない。

 でも、流れ的には、そうなってしまう。

 …これは、あれだな。

 ゲームや映画でよくある、破滅の未来を変えるミッション。

 まさか、自分が、勇者になるとは、思わなかったな…。

 鎧もまとわない、刀剣も携えない。

 逃げ惑うモブのまま、世界を救う旅に、いざ、出発です。それでは、また。

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