![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/116220205/rectangle_large_type_2_87ccdb9de4d4309e58019af8bab86ae9.jpeg?width=1200)
千文小説 その715:磁石
こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。
…ううむ。
ううむ…。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
耳に、イヤホン、口に、するめ。
膝に、愛猫、胸に、深海生物。
穏やかな、初秋の午後、おやつに満腹して、寝落ちした愛猫の、食べ残しの干しイカをかじりつつ、夕方の、zoom会議までの数時間を、音楽鑑賞に充てている状況。
平和です。
幸せです。
なんで、うなってるの?
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
King Gnuというバンドのファンで、このところ、新曲、めじろ押し。
現在、再生中は、「硝子窓」。
初冬に発売予定の、アルバムからの最速カットということで、大変、期待して聴きました。
フルセットリストは未解禁のため、この曲が、アルバムの性格を決める、プロモーション的にも、重要なものであるはず。
なのに。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
…なんで、こんなに、攻めちゃってるのかな?
文学で言ったら、前衛実験短編。
メロディーは、長過ぎて、気軽に口ずさむどころか、何度聴いても、絶対に、ちゃんと覚えられない。
クライマックスに向かう転調ときたら、これって、アリなの?
音楽の門外漢ですら、力技と知れる、突飛な展開。
いいの?
これだけを聴いて、アルバム買おうかな、なんて人は、少ないと思うけど?
売る気、ある?
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
おまけに、この曲の、直近の解禁であるシングル、「SPECIALZ」が、直球王道の、売ります路線。
実にわかりやすい構成、非常にかっこよいプレイ、文句ないね。
これを、アルバムトップで、打ち出せば良かったんじゃない?
なんで、そうしなかったのかな…。
ディズニーランドとつげ義春、くらいの落差。
ほんとに、同じ作者?
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
…同じ、なんですね。
たまたま、連続リリースだったので、消化に苦しみますが、それぞれに見れば、それぞれの路線に、類似曲がある。
いずれも、他メディアとのタイアップ作品。
傾向として、アニメやドラマ等、比較的、長期にわたる放映に対しては、ディズニーランド。
映画等、一回きりの上映に対しては、つげ義春。
それくらい、俯瞰で見ないと、とても、同一バンドの枠には収まらない。
が。
…冷静と俯瞰は御法度です、と歌詞で言われた日には、ファンとして、どうしたらいいんでしょう。
翻弄している?
そうではない。
他人に対して、熱心に働きかけるようなバンドではない。
ディズニーランドで荒稼ぎして、つげ義春を貫こうとか、計算ずくでの作曲でもない。
自然に、そうなってしまうのだ。
なってしまうものを、普通は、体面とか、忖度とかで、曲げていく。
曲げるもんか。
俺の体感を、他人の思惑でずらすなんて、絶対に、させない。
そのために、それだけのために、ありとあらゆる、音楽的技巧を身につけた。
それが、常田さん。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
むちゃくちゃです。
横暴の極みと、言ってもいい。
しかし、彼の曲は、どれも、上品。
誰に聴かせても、おそらく、そう言う。
どうして、そうなる?
…さあね。
僕は、常田さんではないので、わからない。
しかし、他人事では居られない、あなたはわたし、という歌詞をお借りするなら、多少の推測は、許されるかもしれない。
冷静も、俯瞰もなしに?
そうだね。
自分のこととして、書けばいいんだ。
僕にも、そういうところ、あるよ。
愛しているほど、慎重に、紳士的になる。
愛こそが、矜持であると同時に、決して悟られてはならない、鶴の正体。
言えない。
言わない。
アイラブユーベイベーなんて、本当に愛している人には、口が裂けても。
わりあい、自分の趣味ではない路線の作品の時は、言ってもいいかな、と思うけど。
変態的に、好きな路線だと、隠すよね。
ひねくれたメロディーに、異性である女の人を模した歌い方でさ。
やるよな…。
やりがちだよな…。
…恥ずかしい。
ありあまる才能と、あふれ出るイケメンが、似れば良かったのに。
常田さんには、ものすごく、恥ずかしいところで、自分にそっくり、を感じます。
できれば、語りたくない。
己のしょうもなさを、露呈するだけだから。
でも、語らざるを得ない。
聴かざるを得ない。
King Gnuの曲たちは、僕の書くものと、異極の磁石で、がっちりくっついている。
あの剝がれなさと言ったら、絶望的。
テープも、接着剤も、使っていないのに。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
会議まで、まだ、間がある。
先延ばしにしていた、アルバムの予約、してしまおう。
逃れられないと、観念して?
いや、それほどは、重くない。
自分だから。
全ては、壮大な一人相撲だから。
ため息をつきつつ、のんきに、書いていきます。それでは、また。