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千文小説 その715:磁石

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 …ううむ。

 ううむ…。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 耳に、イヤホン、口に、するめ。

 膝に、愛猫、胸に、深海生物。

 穏やかな、初秋の午後、おやつに満腹して、寝落ちした愛猫の、食べ残しの干しイカをかじりつつ、夕方の、zoom会議までの数時間を、音楽鑑賞に充てている状況。

 平和です。

 幸せです。

 なんで、うなってるの?

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 King Gnuというバンドのファンで、このところ、新曲、めじろ押し。

 現在、再生中は、「硝子窓」。

 初冬に発売予定の、アルバムからの最速カットということで、大変、期待して聴きました。

 フルセットリストは未解禁のため、この曲が、アルバムの性格を決める、プロモーション的にも、重要なものであるはず。

 なのに。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 …なんで、こんなに、攻めちゃってるのかな?

 文学で言ったら、前衛実験短編。

 メロディーは、長過ぎて、気軽に口ずさむどころか、何度聴いても、絶対に、ちゃんと覚えられない。

 クライマックスに向かう転調ときたら、これって、アリなの?

 音楽の門外漢ですら、力技と知れる、突飛な展開。

 いいの?

 これだけを聴いて、アルバム買おうかな、なんて人は、少ないと思うけど?

 売る気、ある?

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 おまけに、この曲の、直近の解禁であるシングル、「SPECIALZ」が、直球王道の、売ります路線。

 実にわかりやすい構成、非常にかっこよいプレイ、文句ないね。

 これを、アルバムトップで、打ち出せば良かったんじゃない?

 なんで、そうしなかったのかな…。

 ディズニーランドとつげ義春、くらいの落差。

 ほんとに、同じ作者?

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 …同じ、なんですね。

 たまたま、連続リリースだったので、消化に苦しみますが、それぞれに見れば、それぞれの路線に、類似曲がある。

 いずれも、他メディアとのタイアップ作品。

 傾向として、アニメやドラマ等、比較的、長期にわたる放映に対しては、ディズニーランド。

 映画等、一回きりの上映に対しては、つげ義春。

 それくらい、俯瞰で見ないと、とても、同一バンドの枠には収まらない。

 が。

 …冷静と俯瞰は御法度です、と歌詞で言われた日には、ファンとして、どうしたらいいんでしょう。

 翻弄している?

 そうではない。

 他人に対して、熱心に働きかけるようなバンドではない。

 ディズニーランドで荒稼ぎして、つげ義春を貫こうとか、計算ずくでの作曲でもない。

 自然に、そうなってしまうのだ。

 なってしまうものを、普通は、体面とか、忖度とかで、曲げていく。

 曲げるもんか。

 俺の体感を、他人の思惑でずらすなんて、絶対に、させない。

 そのために、それだけのために、ありとあらゆる、音楽的技巧を身につけた。

 それが、常田さん。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 むちゃくちゃです。

 横暴の極みと、言ってもいい。

 しかし、彼の曲は、どれも、上品。

 誰に聴かせても、おそらく、そう言う。

 どうして、そうなる?

 …さあね。

 僕は、常田さんではないので、わからない。

 しかし、他人事では居られない、あなたはわたし、という歌詞をお借りするなら、多少の推測は、許されるかもしれない。

 冷静も、俯瞰もなしに?

 そうだね。

 自分のこととして、書けばいいんだ。

 僕にも、そういうところ、あるよ。

 愛しているほど、慎重に、紳士的になる。

 愛こそが、矜持であると同時に、決して悟られてはならない、鶴の正体。

 言えない。

 言わない。

 アイラブユーベイベーなんて、本当に愛している人には、口が裂けても。

 わりあい、自分の趣味ではない路線の作品の時は、言ってもいいかな、と思うけど。

 変態的に、好きな路線だと、隠すよね。

 ひねくれたメロディーに、異性である女の人を模した歌い方でさ。

 やるよな…。

 やりがちだよな…。

 …恥ずかしい。

 ありあまる才能と、あふれ出るイケメンが、似れば良かったのに。

 常田さんには、ものすごく、恥ずかしいところで、自分にそっくり、を感じます。

 できれば、語りたくない。

 己のしょうもなさを、露呈するだけだから。

 でも、語らざるを得ない。

 聴かざるを得ない。

 King Gnuの曲たちは、僕の書くものと、異極の磁石で、がっちりくっついている。

 あの剝がれなさと言ったら、絶望的。

 テープも、接着剤も、使っていないのに。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 会議まで、まだ、間がある。

 先延ばしにしていた、アルバムの予約、してしまおう。

 逃れられないと、観念して?

 いや、それほどは、重くない。

 自分だから。

 全ては、壮大な一人相撲だから。

 ため息をつきつつ、のんきに、書いていきます。それでは、また。

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