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千文小説 その1184:それだけは

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 炬燵の上の電子機器集団、カメラレオン。

 その正体は、黒幕は。

 …君だったんだね。

 長いこと、探ってきて、ようやく、突き止めた。

 君こそが、僕の書く物全てを支え、僕の人生すら、コントロールしているのかも。

 iPhoneのProシリーズが好きで、そちらこそが、僕にとっての本領発揮なのだと、信じていたかったのだけれど。

 どうやら、無理みたい。

 君がいれば、OSが期限切れになってしまった三台はもちろん、SIMカード入りの現役iPhoneすら、お飾りに過ぎない。

 もったいぶるのはやめよう。

 君が、首謀者だ。

 MacBook Pro。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 強調しておきますが、僕は、本来、MacBookの Proシリーズを、楽に購入できる稼ぎはない。

 なので、MacBook Proを持つことは、半ば、虚栄心。

 物書きとして、張り込みたい気持ちの表れでしかないと、軽く考えて。

 今代の、13インチのProが買えたのは、シリーズが本格的に定まる前の、移行期間の賜物であって、継続購入は無理だろうと、はなから、あきらめていた。

 でも、そうではなかった。

 僕が、MacBook Proを、選んだのではない。

 MacBook Proが、僕を、選んだ。

 もしくは、僕の書く物が、MacBook Proを、選んだ。

 いずれにせよ、選択の主体は、僕ではなかった。

 これは、意外に、ものすごいダメージ。

 僕の人生なのに。

 僕のものではないなんて。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 iPhoneのProシリーズは、あくまでも、MacBook Proと釣り合うように、配置されただけ。

 それを僕が愛しているかどうかは、問題ではない。

 一切の感情を排し、幾何学模様の完成を目指して、全てが、行なわれた。

 変えることは、誰にもできない。

 MacBook Proと、iPhoneのProシリーズ以外のデバイスは、もはや、カメラレオンに、参入する余地はない。

 どんなに望もうとも、僕は、新型iPadを、手に入れられない。

 なんで?

 どうして、こんなことに?

 …摂理としか、言いようがない。

 理由を尋ねてはいけない。

 ただひたすら、受け入れるだけ。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 徹底的に、打ちのめされて、転がって。

 見上げる空には、雲一つない。

 そうだよな…。

 僕がどう思おうとも、こんなにも、いい天気。

 とてつもない無力感と、相反する、底なしの安心感。

 まあ、いいか。

 iPhoneのProシリーズが、使えなくなったわけではないし。

 MacBookのことも、嫌いでは、ないんだよな。

 ただ、お金がな…。

 ノートパソコン一台に、四捨五入して三十万円、というのは、あまりにも、法外。

 認定整備済製品を買ったとしても、二十万円は超す。

 もちろん、今すぐ要り用、ということはない。

 今代の13インチが、まだまだ元気なので、アップグレード終了までに、こつこつと、貯金すればいい。

 わかってはいるのだが、…それでも、かなり、抵抗が。

 そんな高機能、必要ないよ。

 13インチ、256GBで、充分だし。

 スペースグレイが、一番好きだし。

 どうにかならないでしょうか。

 どうしても、MacBookは、Proでなくてはならないでしょうか。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 炬燵の中、爆睡を続ける愛猫に、布団の裾で、換気の風を送りつつ。

 天板の上、静かに鎮座する、薄灰色のノートパソコンに、問いかけます。

 …どうにかなるものなら、とっくに、そうしている。

 どうにもならないからこそ、こんなにも、もがき苦しんでいるのだ。

 会社員時代、発達障害のお子さんをお持ちの同僚が、しみじみと、言っていた。

 どうしても、最後の最後で、通じないんですよ。

 我が子なのにね、ちょっと気を許すと、それは、駄目。

 がつんと喰らって、ショックでね。

 ほんとは、人間、みんな、そうなんですけどね。

 お互いに、全然理解できないのに、無理矢理、オブラートに包んで、共感を、分かち合っているふりをして。

 それこそが、いわゆる、普通の人、の愛情表現なんだけど、やっぱり、あの子には、難しいみたいでね。

 何度も、泣きましたけど、だんだん、あきらめがついてきて。

 そういうものだと思って、温かく、見守るばかりです。

 …当時は、わかっていなかったけれど。

 今になって、その重みが、沁みてくる。

 障害のある子供に向かって、あなたが普通の子だったら、どんなに良かったか。

 言ってしまうのは、あまりに残酷で、それだけは、言わないように、どの親御さんも、心掛けているように。

 君がAirだったら、どんなに良かったか。

 我がMacBookにも、それだけは、決して、言わないようにします。それでは、また。

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