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千文小説 その1151:還土

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 結局、どうなの?

 愛機の選定は、自力で、できたの?

 …どうなんだろう。

 炬燵の上の電子機器集団、カメラレオン。

 最終的に、六台で、落ち着いて。

 ほぼ引退状態が、二台。

 限定的現役が、二台。

 正真正銘稼働中が、二台。

 文句ないバランスで、収まって、ほっとした。

 リセット&再設定も、もうしないし、あとは、それぞれ、大事に、面倒を見るだけ。

 …というところまで持っていったのは、果たして、僕なのか?

 結果的に、おおよそ、望み通りになったというだけで、そうならない可能性も、大いに、あったのでは?

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 なぜ、そんなことを考えるのか。

 それは、あまりにも、きれいに、決まったから。

 望み通りどころか、望んでいたとは思えない鮮やかさで、六台ものデバイスが、あるべき位置にあることを、どうして、己の力と思えよう。

 僕が、機械を、選んだのではない。

 機械が、僕を、選んだのだ。

 主客転倒の理論に飲み込まれそうになりつつ、いやいや。

 僕も、かなり、考えた。

 全てを、機械のせいにするわけにはいかない。

 確かに、僕も、関わってはいるが、しかし、完全に僕だけの意志で、物事が進んだとは言えない、という話。

 主人公、という概念に、修正が要るのでは?

 ユーザーの僕が、全てをつかさどるのではなく、僕と、機械と、周囲の状況。

 あらゆる要素を含んでの、この結末。

 いや、結末というほど、終わり感はなくて、あくまでも、状態。

 また、変わるかもしれない。

 たとえば、保留になっている、iPadの後継問題。

 いちおう、次代はない、と決まったものの、もしかしたら、ひょっこり、現れるかも。

 そんな希望を、実は、まだ、捨て切れない。

 しかし、じゃあ、今すぐ、現行のラインナップの中から、一台、購入しますか?

 訊かれたら、…しないな。

 無印の第五世代が、天寿を全うするまでは、iPadは、オンリーワンで。

 そして、無印の第五世代が、いよいよとなっても、少なくとも、データと設定の直接転送はしない。

 直系の子孫ではなく、別物として、新規に、立ち上げる。

 結構、大変じゃない?

 特に、ミュージック・ビデオのダウンロードがうまくいかないのは、無印の第九世代とのトラブルで、実証済み。

 それを押してまで、iPadの次代を、迎えますか?

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 …ゴリ押し、という感じしかしないな。

 横槍、という単語も浮かぶ。

 どんなに望もうとも、iPadの新規購入は、僕にとって、カメラレオンにとって、ひいては、僕の書く物にとって、異物。

 袋小路の脇道なので、遅かれ早かれ、破綻するのは、明らか。

 わかっていて、買うわけにはいかない。

 ゆえに、iPadよもう一度、は、あきらめるんだね。

 …『神曲』で言うところの、地獄の門、だな。

 ここをくぐる者は、一切の希望を捨てよ。

 捨てます。

 そうしないと、いつまでも、引きずる。

 目に見えないものを、どうやって、捨てるの?

 …そこがね。

 物体と違って、思念というのは、そう簡単には、消え失せない。

 物体ですら、きちんと処分しないと、カビたり、腐ったり。

 いわんや、希望をや。

 ここは、まっすぐ、素直に、その思いを、じっと見る。

 新しいiPad、欲しいの?

 …欲しくはない。

 しいて言えば、この間別れた、無印の第九世代が、復活してくれないかな、と思うだけ。

 完全、未練じゃん。

 元恋人が忘れられない、いじけた男じゃん。

 その通り。

 僕のiPadへの執着は、新機種が欲しいというよりは、うまくいかなかった二台を取り戻したい。

 今からでも、遅くはない、何度でも、やり直したい。

 失敗を、なかったことにしたい、過去への妄執。

 どの角度からも、終わっています。

 僕にとっては、無印の第五世代だけが、真っ当な縁のある、iPadだった。

 それ以上を望むことは、重く言えば、摂理に反する。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 膝の上、大爆睡の愛猫に、ひよこの毛布を掛け直して差し上げ。

 天板の上、静かに横たわる愛機たちを見やって、ため息をつきます。

 叶わぬ望みを望むことは、止められない。

 でも、それが、叶わない、と自覚することは、できる。

 iPad、終わっちゃったな。

 無印の第五世代も、OSの期限が切れているうえに、購入後、八年目。

 動かなくなるのも、時間の問題で、ゆくゆくは、手放さなくてはならない。

 その時に、悔いなく、見送れるか。

 心身の底から、納得して、iPhoneとMacBookとiPodとの生活に、なじめるか。

 気をつけるべきは、ただ一つ。

 引きちぎらないこと。

 枯れ葉が自然に落ちるように、当たり前に、思いが土に還るのを、見届けたいです。それでは、また。

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