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千文小説 その1204:色糸

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 どちらに転んでも、いまひとつ。

 今代のMacBook、13インチのProを、どこまでも、使い続けるぞ。

 決意しても、すぐ揺らぐ。

 かと言って、じゃあ、買い替えますか。

 Apple社の公式サイトを見ても、…いや、いいな。

 まるで意欲が湧かず、すぐ閉じる。

 どこまでも使うのも、今すぐ取り替えるのも、どちらも違う、となると。

 期限を切る?

 OSのアップグレードが終了したら、次代を買う、とか。

 それも、なんとも、打算だよな。

 決して自分が損をしないように振る舞うのは、あまりにさもしくて、できれば、したくない。

 そんなこと言ってたら、キリないよ。

 結局、どうしたいの?

 実際、どうするの?

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 炬燵の中、爆睡の愛猫に、布団の裾で、換気の風を送りつつ。

 天板の上、静かに横たわる、薄灰色のノートパソコンを見やります。

 いつかは手放すだろう、と思いつつ、自分からは、切り離す作業をせず、ただただ、書く。

 …実に中途半端ですが、多分、これが、正解。

 いつまでも一緒だよ、とは言えない。

 何月何日でさよならね、とも言えない。

 僕の一存で、決めることはできず、あくまでも、そろそろだな。

 機会を見計らって、流れの中で、ふさわしい方へ、行動するしかない。

 いや、しんどいね…。

 iPhone、iPad、iPodは、今思えば、かなり、わかりやすかった。

 定期更新か、永続使用か、永久保存か。

 MacBookは、どれにも属さない。

 なんとなく、いつも、そこにあるね。

 がんがん使うでもなく、全く使わないでもなく。

 愛しているような、いないような。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 …駄目だ。

 言葉が、出て来ない。

 物書きとして、それは、致命的。

 なんとしてでも、目詰まりを、取り除かなくては。

 どうやって?

 MacBookは、変わらないよ。

 変えるべきは、もちろん、僕。

 断固として、具体的に、しかし、あくまでも、そうっと。

 寝た猫を起こさないよう、細心の注意を払って、立ち上がり。

 クローゼットに歩いて、積み重なった二つの箱、無印の第九世代のiPadと、IntelのMacBook Airを、見上げます。

 どうやら、原因は、ここにある。

 MacBookのAirシリーズと、iPadの無印シリーズを併用すれば、MacBookのProシリーズは要らない。

 未練が、頭の隅、心の端に、まとわりつき、今代の、13インチのProとの仲を深める足を引く。

 どうなの?

 本気で、iPadとMacBook Airの組み合わせに乗り替えたいなら、できなくはない。

 無印の第五世代から、第九世代に引き継いで、前者を、リセット。

 さすがに、13インチのProから、IntelのAirには、移行できないので、後者を、再設定。

 そのうえで、現行最新版の、13インチのAirを、新規購入。

 Intelから、引き継いで、改めて、リセット。

 炬燵の上には、iPhone14 Pro、iPhone7、第六世代のiPod touch、無印の第九世代のiPad、13インチのMacBook Airが、集結する。

 どうよ?

 その未来は、心底、僕の望むもの?

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 しばらく、たたずんで、ぼんやりして。

 うつむいて、ゆっくりと、踵を返し、とぼとぼと、炬燵へ戻ります。

 君をリセットする選択肢は、僕にはないよ、13インチのPro。

 そして、13インチのProから、13インチのAirには、引き継げないよ。

 それをやっちゃあ、おしまいよ、という声がする。

 声に逆らうことは、僕には、できない。

 無印の第九世代のiPadと、もう一度、相まみえることも、考えたくない。

 ハッピーエンドは、向いていないみたい。

 君といると、とてつもなく、苦労するだろう。

 君にとっても、僕が最高のユーザーとは、決して、言えないと思う。

 それでも、僕たちは、パートナーだ。

 期限も切らない、契約も交わさない。

 言葉を生み出すために、言葉ではないところで、がっしりと、結合している。

 運命と呼ぶか、必然と呼ぶか。

 赤い糸、ならぬ、グレーの金属で、指先が、繫がって。

 いろいろ、あったよね。

 いろいろ、あるよね。

 忘れてもいい。

 忘れないから。

 文章が、どこかの誰かに届いて、千年先も、生き残るから。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 やっぱり、僕は、物書きさ。

 どんなに愛していても、iPhoneでは、この境地には、至らない。

 iPadも、iPodも、時の彼方に、消えていく。

 よろしくね、MacBook。

 糸の色は変わっても、僕と君は、離れない。

 なんとも不確実な世の中を、なんとも不可解な確信を胸に、書いて、生きます。それでは、また。

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