単身赴任を始めたばかりのアパートに初めて長男が来る。
高校三年生の長男。夏休みに入り、私が単身赴任を始めたばかりの東京へ遊びに来ることになった。
息子は、19時には、アパートの最寄り駅に着いているはずだが、スマホの充電が切れそうなメッセージを最後に音信不通となる。アパートまでの道のりも、部屋の開け方も、おそらくスマホ頼み。スマホ無しでは、道のりも分からないし、部屋にも入れないはず。
そんな日に限って、私は仕事が終わらず、帰路を急ぐ21時。
札幌にいる妻からは「大丈夫なの?」「どこにいるの?」「心配!」「お父ちゃん急いで!」とグループLINEにメッセージが連発。
もちろん長男の既読は付かない。
私は、駅構内のファミレスで待っていると予想。もしくは二時間、改札前で待ち続けているか。
21:19、最寄り駅に到着。ホームから階段を急いで改札へ。
どこを探してもいない。
駅構内のファミレスに向かう。
「お一人様ですか?」
「あ、中にいるかもしれないので見ていいですか?」
いない。
え?
どこ?
どこ?
改札に戻り、駅員さんに聞いてみる。
「大きなスーツケースを持った男子高校生が改札前にずっといた記憶はありませんか?」
二人いた駅員さんはどちらも記憶に無いようだ。
駅前をぐるりと探してみる。
いない。
「駅にいない」とLINEに入れると、妻はさらに大騒ぎ。
アパートへ急ぐ。
もし彼がアパートに入ることができていたら、スマホは充電できているはずなので、アパートにいる可能性は高くない。
アパートに着く。
見上げると、部屋の電気はついていない。
終わった。
「ひとまず、部屋に荷物を置いて、探しに行こう」
そう思って、部屋を開けたら
奥から声が。
「お父ちゃ〜ん」
いた!
薄暗い中、エアコンをガンガンかけてテレビを見ていた。
「ここの充電器、合わなくて、充電されないんだけど」
***
最寄り駅に着き、部屋のあたりまで何とか充電は持ったのだとか。ただ、いつ切れるか分からないから、「アパートまでの道」と「部屋の開け方」は頭に叩き込んだのだとか。
たくましくなった。