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こちらに語り続けている。

母は、天井を見つめている。

認知症と診断されてから五年ぐらい経っただろうか。少し前の記憶をとどめていられないことと、考えようとする意思が起こらないこと以外は、あまり異常らしい異常は見られなかった。

それが、今年に入ってから、急に食欲が無くなり、歩くのも難しいほどに活力が薄らいだ。すぐに母を検査入院させたが、入院から二日後、癌が広範囲にわたっていて手の施しようがないことを医師から告げられた。「三ヶ月程度ではないかと思います。早ければ一ヶ月…。」

固形物を口から食べることはできなくなった。表情の変化はほとんど無くなり、しゃべることもほとんど無くなった。小さくうなずくことと、小さく首を振ることでギリギリの意思表示はしてくれる。一昨日は一度「こんにちは」を言ってくれた。この一言が、こんなに嬉しいなんて知らなかった。

私は、たくさん話しかける。
家族のこと、リハビリのこと、なかなか取れなくてもどかしい首のコルセットのこと。そして母との思い出を。



母は、天井を見つめている。

先週ぐらいまでは人形が横たわって見えたベッドの上に、今、私には、活き活きとした、表情豊かな、おしゃべりな母が見えるようになってきた。

今日も、リハビリが終わったら、おしゃべりしに行ってくる。

いつも読んでいただきありがとうございます。