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校長室通信 HAPPINESS  ~「無駄」の大切さ~

学校の教育には「無駄」がいっぱい?

 教室を廻っていると、子どもが持っている国語辞典が付箋だらけになっているクラスがあります。分からない言葉を辞典で調べ、そこに付箋を貼る…そんなことを10ヶ月も続けていると、あんなふうに、ものすごい量の付箋が貼られることになるわけです。
 でも今やデジタル時代…意味の分からない言葉があったら、インターネットや電子辞書で調べれば、ものの数秒で分かります。それなのになぜこんな「無駄」な作業をさせているのでしょうか。
 似たようなことは他の学習でも見られます。少し前に6年生が「卒業アルバム」の作文を書いていました。下書きを見ながら丁寧に清書をしています。今っぽいなあと思ったのは、ワープロで打った原稿を見ながら、手書きで清書している子がいたことです。これなら誤字脱字を防げます。
 でも考えてみれば、ワープロで打った作文をそのまま貼り付けて提出のほうがずっと効率的です。たぶん「ワープロはダメ、手書きで提出」と言われたのでしょう。でもどうして「手書き」という「無駄」な作業をさせるのでしょう。

「無駄こそ命」……その真意は?

 思い出すことがあります。まだ「カーナビ」がない時代、知らない場所に車で行くときは紙の地図だけが頼りでした。目的地を地図で探して経路を確認。道順を忘れたら車を路肩に止めて、地図を開いて再確認ということを繰り返しながら、やっとの想いで目的地までたどり着いたものです。
 でも今は楽ちんです。カーナビに目的地を入力して、あとはカーナビの指示通りに運転すればいいのですから。ありがたいことに渋滞も察知し、時間短縮の裏道まで教えてくれるので、ドライブはいつも快適です。
 ところが「カーナビ」の案内で行った場所は、次も「カーナビ」がないと行けません。一方、地図を見ながら苦労して行った場所は、次に行くときには「景色」だけを頼りに行くことができます。「あそこの看板を右だったな」「ここのウナギ屋さんを左折だ」というふうにです。自分が向かっている方角もはっきりわかるので、建物の影を見て「あれ?南に向かってる。方角が違うぞ」なんてこともよくありました。
 
 読売新聞1月30日の朝刊に、あるシンポジウムの記事が1ページにわたって掲載されていました。テーマは「教育の急激なデジタル化の問題を考える」です(教師必見です。ぜひご一読を!)。この記事の中で、「教育のデジタル化」の問題点を、東大教授の酒井邦嘉氏は次のように述べています。
「機械やAI(人工知能)を安易に使うことは『考えなくていい』と教えているようなものです。教育は決して効率ではない。「無駄こそ命」です。同じ状況が繰り返し来た時、初めて脳は学習し、「そうか、同じ状況だ」と前の知識を活用しようとします。だから、学習プログラムは、現場に精通した人が作らなければいけません。理解度によって進度は大きく違い、一人ひとり、必要な繰り返し学習の頻度や回数も違います。」
 同じように、国際ジャーナリストの堤未果氏も教育のデジタル化での課題を次のように語っています。
「『タブレットはすぐ答えをくれるし、自分の頭で考えなくていい』…ある小学生の言葉です。スピードには中毒性があり、慣れてしまうと答えが出ないときにイライラし、「なぜ」と立ち止まって考えられなくなる。個別最適化にすることで、教室で先生や速い子が、遅い子に教える相互学習の機会も失われるでしょう。教育の質とスピードは、決してパラレルではないことを忘れてはなりません。」
 このお2人の提言は、「デジタル化を急げ」「1人1台タブレットの充実を!」と尻を叩かれ、悪戦苦闘している教育現場が、一旦立ち止まって考えなくてはならないことを示唆してくれているような気がします。

教育の現場に「無駄」を残そう

 人の記憶は、様々な「雑音」とともに脳の中に蓄えられます。
 辞書を引くときは、その言葉の意味だけでなく、そのページの中での位置、文字の形や色、貼った付箋の特徴や自分の文字のクセなど、様々な情報がセットで記憶されます。でもデジタルは、どのページも似たり寄ったりで、その言葉を印象づける情報を得られません。
 卒業文集をワープロで作れば、ミスも減り、時間短縮にもなりますが、一方で、手書きの場合と違って、想像を膨らましたり、言葉を吟味したりする時間がありません。まさに「無駄こそ命」です。
 そう言うとすぐ、「やっぱり教育はアナログだね」と極端な意見をいう人がいますが、答えは0か100ではありません。それぞれの良さを混ぜ合わせながらの教育実践を考えていくことが大切なんだと思います。

※参考資料 讀賣新聞(2022.1.30朝刊 21面) 
 ON LINEシンポジウム「教育の急激なデジタル化の問題を考える」   
 国際ジャーナリスト 堤 未果 氏  東京大学教授(言語脳科学者) 酒井 邦嘉 氏

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