ポッケからするめいか50
しょうさんの妻ミキさんは若い頃、
着付けとお花を習っていた。
15歳から10年近く働いていた大手の傘工場を寿退社という名目で辞めてからしょうさんと結婚するまでの1年間、
花嫁修行として着付けやお花を習ったり、
料理をしたりして家事手伝いをして過ごしていた。
昔はこんな感じだったのだろう。
特に着付けは好きで、
これは後々とても役に立った。
娘さんの七五三や成人式、
親戚が着物を着る時、
よくミキさんが着付けたものだ。
着付けにも、
ミキさんなりのこだわりがあって、
シワ一つ、ヨレ一つつかぬよう
ピシッと着付けていた。
たまに街で着物や浴衣姿の人を見かけると、
よく批評していたものだ。
首元が閉まりすぎている。
帯がガタガタ。
ヤダっ!あの人、、右前!
あれじゃ死んだ人だよっ!!
(着物は左が上にくるように着て、亡くなった人だけ右が上にくるように着る)
結婚して以来、
長年専業主婦だったミキさんは、
しょうさんの会社で経理を担当してしてはいたが、
外で働くことはなく、
子供たちが学校から帰る頃は必ず家にいた。
子供たちはそれはそれで安心感はあったけれど、
もっと友達と出かけたり、パートしたりしてもいいのに〜と思っていた。
だからミキさんが、
時折親戚の前などで見せる着付けをする姿やその知識に、
子供たちは誇らしい気持ちになった。
昨今では冠婚葬祭時には洋装で済ませる方も多く、
自粛続きでこれといった行事もないため、
着物を着る機会も着付ける機会もなくなった。
ミキさんが嫁入り道具の一つとして持ってきたいくつかの反物はほぼ着ることはなく、
見事にタンスの肥やしになっている。
その中に、
ミキさんの実母が仕立ててくれた桃色の着物があって、、
ことあるごとに、
私が死んだら、
私にこれを必ず着せてよ!
というのです。
虫食いだらけになってないことを祈る。