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文学部出身の私が業務改革コンサルになったわけ

 私は年間30-50人ほどの学生と接し、自分の仕事や就活の話をしている。OG訪問の依頼や就活生向けイベントへの登壇依頼をいただき、卒業後も出身大学との接点が持てることをありがたく思うと同時に、私自身も学生の話や質問を通して刺激をうけたり、初心を思い出したりする。

 そのときの定番の質問の一つが「なぜ今の仕事・会社に決めたのですか」である。私は今コンサルタントとして働いているが、一言でいえば「いろいろな業界・企業を知るのが楽しくて1つに絞れなかったから」がその理由。コンサルであれば、様々なプロジェクトに参画する中で多様な業界・企業について知ることができる。

 けれど、就活中に悩みながら行った自己分析や、最後までなかなか定まらなかった企業選びの軸は、6年ほど経つ今振り返ってもあながち間違っていなかった気がしている。

 私はコンサルに対して「上から目線の嫌な奴」という偏見を持っていて、就活を始めた頃には志望業界として考えてもいなかった。そんな私がなぜ今その仕事をしているのか、子どもの頃から遡って書きたい。

誰かのためになりたい

 子どもの頃の将来の夢は、漫画家だった。本を読んだり、物語を作ったり、絵を描いたりするのが好きだったので、漫画家は私の好きなことが詰まった仕事だと思えた。

 漫画家を目指した理由はそれだけではない。早くデビューできれば子どものうちから稼げると思ったのも理由の一つだった。うちはあまり裕福ではなく、母の座右の銘は「働かざるもの食うべからず」。小学生の頃には私も早く稼いで家族を支えなければ、と思っていた。それから、私の描いた漫画がどこかの誰かを勇気づけたり癒やしたりできたら嬉しいなとも思っていた。

 結局漫画家の夢は父に大反対されて諦めてしまったのだけれど(そのうちまた目指すかもしれない)、根源にある「誰かのためになりたい」という思いは今も心の奥深くに根付いている。

文学部コンプレックス

 大学では英米文学を学んでいた。入学当初から、文学部は就活で不利なのではないかと友人の間で囁かれていた。それを早くから危惧した同じ学部の人たちは教職を取っていて、その後実際に先生になる人もいれば、そうでない人もいた。実際には文学部でも立派な企業に就職した先輩はたくさんいて、学部があくまでも選考の一要素にすぎないことはわかったが、私が就活で感じた最初の壁は、大学の学びが果たして社会に還元できるのかどうかであった。

 理系の学問が「実学」と言われるのに対し、文学や人文学・芸術は「虚学」と言われる。文学部の教授は、実学によって社会が発展したその先で求められるのがそれら「虚学」と言われる学問たちであり、最も人間的な学問なのだと言っていた。私もその言葉を胸に自身の文学部での学びに誇りを持っていた。

 けれど、実際に社会に出ることを考えたとき、文学では直接誰かの役に立つ場面が少ないことがコンプレックスに思えた。私の学んだことや持っているスキルは、人の命を救うことはできない。もしも私の書いた文章で自殺を思いとどまる人がいたとしたら、間接的に人の命を救ったことになるかもしれないけれど、自分の研究で新薬が開発されて多くの命が救われるというような、世の中で今困っている人のニーズにすぐに応えるようなことはできない。

人と人、人と技術を繋ぐ仕事

 とはいえ、優れた技術があってもそれが十分に認知・周知されない限りは生かされない。もしかしたら最先端の技術・製品を広めるような「人と人、人と技術を繋ぐ」仕事を通して、間接的に人の役に立つことができるのかもしれない、と思った。そこにこそ私が文学部で培ったコミュニケーション能力が強みとして生かせるのではないかと気づいた。

 私が参加していたアメリカ文学ゼミでは、各々が小説の原文を読み込み、当時の時代背景を重ね合わせて作者の意図や隠された意味合いについて解釈を試みた(アメリカ文学では動物などの表象を通して黒人差別や女性解放などのテーマが隠れていることが多いのだ)。そのうえでゼミ生が各々の解釈を発表し、自分とは異なる考え方を受け入れた。さらに全体でディスカッションをすることで、いろんな人のアイデアをブレンドした新しい解釈にたどり着くこともあった。文献と時代背景から作者の意図を類推し仮説立てる力や、自身の考えを根拠立てて発表する力、他の人の考えを理解しディスカッションをしてよりよい考えを生み出す力など、文学部だからこそ磨き上げられたコミュニケーション能力があったのだ。(文学部の就活生にはこのあたりが自己PRの参考になるかもしれない。)

 そこから私は、就活の軸を「①自分の強み(コミュニケーション能力)を生かせる仕事・②チームワークの仕事・③社会貢献度の高い仕事」と定め、最先端技術をもつメーカーの営業職などにターゲットを絞った。社内の技術者・関係者と良いチームワークを築き、お客様と繋いでいくことで、間接的に技術活用に貢献できると考えたためだ。

 その中でたまたま出会った今の会社はITに強みのあるコンサルファームで、コンサルティングを通して最先端の技術とクライアントを結びつけることができるのではないかと思いエントリーした。OG社員の話しぶりから社風のよさを感じ、唯一選考を受けたコンサルファームだった。

コンサルに求められること

 今の会社から内定をもらったときは驚いた。友達からも「パソコンの電源ボタンすらわからなかった君がなぜ、、」と驚かれたが、研修のおかげもあり、今ではどうにか人並みにパワーポイントやエクセルをショートカットで操作できるようになっている。

 コンサルに求められる要素は色々とあるが、私はロジックとコミュニケーション能力がベースとなり、そこに自分ならではのスキルや強みが乗せられていくものだと思っている。入社直後、周りはコンサル業界を志望してきたいわゆる「意識高い系」でロジックの強い同期が多かったため、ロジックが薄くコミュニケーション能力に偏重した私がいてもよいのだろうかと不安になった。しかし私が配属されたのがサプライチェーン領域を専門とする部署だったため、幸運にも自分の強みが生かせる場面が多かったように思う。

 サプライチェーンの業務改革のプロジェクトにおいて、工場や倉庫の現場にヒアリングしたり、新しい業務プロセスへの移行を促したりする際、ロジックを押し付けてしまっては大反発をくらう。人間は慣れていることから新しいことに移行するのを嫌う生き物であるため、業務改革に反対はつきもの。加えて役員・中間管理職・現場での意思の衝突が発生することが多く、第三者の立場でのコンサルの発言やサポートが重要となってくる。

 そこでものをいうのが、少し古臭く思われるかもしれないが、人情や寄り添いスキルだったりする。その人の経歴・役割・性格を分析することで、なぜ反対をするのか、どこが懸念ポイントなのか、どのように伝えれば納得してもらえるのかが見えてくる。それらを踏まえ、相手への理解を示しながら改革の趣旨や相手へのメリットを訴求し、時間をかけてきちんと腹落ちさせる。ここに、私が培ってきたコミュニケーション能力が生かされているように思う。就活当初考えていたような、最先端技術を使った社会貢献という形にはなっていないのだけれど、根底にあった「誰かのためになりたい」という思いは実現できている気がする。

その時の自分の軸に沿った仕事選び

 私は運も手伝い、自分の軸に沿った仕事に就くことができたが、ずっと今の仕事を続けるかどうかはわからない。プロジェクト型の仕事なので、案件ごとに異なる面白さや難しさがあり常に新鮮な気持ちで働けるけれど、自分が成長しつづける中で他にやりたいことが出てくるかもしれないし、もうやりきったと思う段階が訪れるのかもしれない。転職ではなく複業といった形でそれが実現されるのかもしれない。

 その時にはまた就活の時のように自分自身と対話して、その時の自分の軸に沿った仕事を見つけられたらいいなあ、と思っている。

#この仕事を選んだわけ

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