
「今日もレストランの灯りに」を読んで、本業とまったく違うアルバイトに憧れる。
本を紹介するぞ〜!
BuzzFeed Japan時代の同僚、岩永直子さんがエッセイを出版した。ベテラン記者がレストランでのアルバイト経験を綴った一冊だ。
「まさか、あの人が接客業をやるなんて」
岩永さんがイタリアンレストランでアルバイトをはじめたときいて、はじめは冷やかし半分で行ってみた。そのお店は調べるとわりと近所だった。
春のある日、マスクをしたまま店に入ると、本当に岩永さんはいた。職場では見たことのないにこやかな表情でカウンター席に案内され、メニューが手渡される。
ビールをたのむと、きれいな泡のグラスが運ばれてきた。そのタイミングで「あれ?なるみさん!?」と気づかれた。
聞くと、この記事を読んで来たお客さんは僕だけではなかった。いろんな友人・知人が訪れたという。
一瞬で職場の元同僚の顔に戻ったあとは、「私が好きなのはねぇ…」とお酒のおつまみをおすすめしてくれた。
低温調理のレバーとレンコンのスパイス煮込みがめっちゃうまい。どちらもお酒にあうのだ。


ビールを飲んだあとはワインにうつった。お酒のおかわりをすすめてくるタイミングもこなれている。
最後には自慢のパスタもいただいた。旬の牡蠣と春菊をつかったリングイネ。牡蠣の仕入れにこだわり、ソースも自家製であることは知っていた(この記事を読んでいたから)。

料理はどれも「とても」おいしかった。知ってる人が料理を運んでいるからと、にぎやかしで行ってみたら、お世辞抜きでうまかった。
ひとりでワインを飲んでもいいし、パスタも最高だった。次は3〜4人でいって、ピザやパスタ、その他いろんな料理をたのしみたいなと思った。シェフも記事で読んだとおり、魅力的な人だった。
一言でいうと、いい店だった。
翌週にはさっそく仕事仲間とランチタイムにいってみた。
パスタを1つずつたのむ。前に食べた「春菊と牡蠣」はリピートして、さらにホタルイカのパスタを選んでみた。

めちゃくちゃうまい…!大振りでぷりぷりの牡蠣と、色つやのいいホタルイカに知人は驚いていた。ランチタイムはとても賑わっていた。
本の紹介をしようと思ったのに、気づいたらお店と料理について書き散らかしてしまった。パスタがすごいから。
岩永さんの本業は医療記者である。読売新聞からBuzzFeed Japanを経て、いまはフリーランスで活動している。
BuzzFeed Japanで記者として働きながら、副業で週3日レストランでアルバイトをはじめたと聞いて、最初は驚いた。ふつうはアルバイトをするにしても書き物の仕事をする人が多いからだ。雑誌に寄稿したり、本を書いたりする人は見てきた。
反面、純粋にうらやましいとも思った。本業とまったく違うアルバイトをすることはきっと本業にも特別なフィードバックがあるに違いない。記者は人と会って、聞いて、書く仕事だ。いろんな人と触れ合うことはいい影響をもたらすはず。
実際、この本にも書いてあった。医療記者としてコロナ禍の現状をつたえる仕事をしながら、一方では苦しむ飲食店も間近で見ることになる。書く筆はぶれないが、書くときの気持ちはいままでとは違ってくる。それは大きな変化だ。
まあでも、そんなむずかしいことは置いておいて、単純にたのしそうだ。少なくともそう見える。
「リスキリング」とか「アンラーニング」とか言われているが、それをこんなに泥臭く、実地でやっている人はいないだろう。
シェフと大喧嘩して若者に仲裁に入ってもらったり、他のシェフの著書を読んで料理人の心理を学んだり、若いアルバイトの子との心温まる交流があったり。
この本に書かれているエピソードはどれもおもしろくて、笑えて、ときには考えさせられて、ちょっと泣ける。
何度かお店を訪れるうちに、気づいたことがある。岩永さんってこんな表情をするんだっけ。
一緒に働いていた頃。陽気な人だが、それなりに緊張感はあった。短気で喧嘩っ早いと本人は言うが、僕もそう思う。
それがどうも変わってきているんじゃないか。
表情がとても柔らかくなっているし、笑顔はより明るくなっている。アルバイトを通じて違ったタイプの同僚や、お店の常連と触れ合ったことが影響しているのだと思う。
発売日のちょっと前、岩永さんから本が送られてきた。

表紙がかわいいですね、と伝えると
私が可愛い過ぎると、シェフが😁
と返ってきた。
これまでだったら「たしかにw」と笑うところだが、そんなことはない。レストランの灯りに照らされて、岩永さんは輝いていると思う。
それはシェフがつくるパスタの味と同じくらい、間違いない。

僕も一応は元記者なので、ふつうの会社にいると文章を書くのが上手ですねとごくたまに言われる。そのたびに僕は言う。いや違うんだ、本物の人の記事を読んでみてくれ、と。
これが本物だ。本物が書くエッセイはこんなにおもしろいのだ。リズム感、読後感、言葉の選び方、すばらしい作品だと思う。
もちろんエッセイもいいが、岩永さんが本領を発揮するのは医療記事である。ニュースレーターでは有料の読者をつのって取材記事を届けている。こちらも購読をおすすめしたい(僕も読んでます)。
※新刊を献本いただいてしまったが、レストランで何杯かワインをごちそうしたからトントンだろう。だから思いっきりおすすめできる。
本もニュースレターもおもしろいよ!
おまけ:この本にはうれしいことに、お店で出てくるおつまみやパスタのレシピも載っている。さっそくレンコンのスパイス煮込みをつくってみた。

思ったより、おいしくできた。スパイスの風味とレンコンの歯ごたえがよく合うのだ。お店にもまた食べにいこう。
さんざん料理を紹介して、店名を書いてないことに気づいたが、それは本の中で確認してみてほしい。