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出家未遂した男のその後⑩
卒業後の進路はSさんのところで働くことを考え始めました。
Sさんのところで働くことがほぼほぼできることが確定した時点で、私は他の可能性を探ることを止めてしまいました。
それは例えば、津和野町でそのまま残って働くといった選択肢を探さなくなってしまった、ということでした。一人で独立して始めることを無理だと諦めてしまったことと、他の可能性を探るのに疲れて面倒になってしまったのが主な原因です。
そうやって迎えたヤモリーズ最終年度の年に私は一冊の本に出会いました。その本は高田 宏臣 氏の「土中環境」という本でした。
この本は山や川の環境改善の仕組みと方法について書いており、それを読んで私は感動し、その数か月後にある高田さんのワークショップに参加するのでした。
参加したのちに書いたヤモリーズのnote。
高田さんの自然環境改善技法の仕組みで最も大事なのは、見えている地上部分だけでなく、地中部分の空気と水の通りを良くすることです。
詳細は上記noteや「土中環境」を読んでいただきたいのですが、簡単に言うと、
・山の健康度は土中の空気と水の通り具合による
・土中の空気と水の通りが良ければ雨水は浸透し、川の氾濫、土石流などは起きない。
・砂防ダムやコンクリート擁壁やアスファルト道路は水の流れを分断し、空気と水の通りを悪くするため、土石流を発生させてしまう
・自然の石と木を用いた造作によって、空気と水の通りを確保した道路や人工物はつくれる
と言ったところです。
私はこの本を読んで、理屈を全て理解はできませんでしたが「この本に書かれていることは本当だ!」という直感を得ました。(人の話を信じやすい髙橋くん)
そしてこの本に書かれていることを実地で学びたいと思い、上記のワークショップに参加し、さらに高田さんに連絡をとってその年の年末の5日間、高田さんの事務所で研修という形で仕事のお手伝いをさせていただきました。
高田さんのおっしゃっていることで私が最も感動したのは「人が関わることで自然環境が回復するのを手助けすることができる」というところです。
私はそれまで、人間が自然に関わると、自然を破壊することしかできないと考えていました。そのため、ヤモリーズで作業道づくりを学んでいる時も、自然への負荷をなるべく小さくする、という観点で学んでいました。
しかし、高田さんの説明によると、自然が自ら回復するより、人が適切に手を加えることで、より自然の回復が早まる、とのことでした。私は初めてこれを聞いた時「人間も捨てたもんじゃない」という喜びを覚えました。
以前の記事で書いた通り、私が林業に関わろうと思ったきっかけは、山の自然を守りたいと思ったからです。
しかし「山の自然を守る」といっても、当時はその具体的な方法はわかっていませんでした。ヤモリーズの「壊れない作業道」に「山の自然を守る」という光明を見ましたが、作業道の一番の目的は材の搬出路です。つまり人間の都合の割合が大きいです。
ですが高田さんのおっしゃる方法は、「山の自然を守る」という目的にダイレクトに働きかける方法です。私が林業に関わろうと思ったときにまさに知りたかった方法でした。
このとき私は大いに悩みました。
もう来年からSさんのところで働くことを決めている。だけどそれを一旦待ってもらってでも、この技術を学ぶべきではないか。
とはいっても、高田さんの技術を学ぶ道筋が定まっていませんでした。ヤモリーズの時は地域おこし協力隊という形で、給料をある程度確保しながら学ぶことができましたが、高田さんの技術の場合はそういった確たる道筋はありません。
そのため結局はSさんのところで働くことにしました。仕事の合間にワークショップなどに参加したり書籍を読むことで高田さんの技術も学んでいくことにしました。
高田さんの技術を学ぶことに未練を持ちつつも、ヤモリーズの任期満了後、Sさんの町に移住して生活を始めるのでした。
続き。
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