(44)正の兵法/計篇の補足-竹簡孫子 地形篇第十
それでは、地形篇第十の解説をしていきましょう。
計篇から行軍篇までの九つは理論の展開が繋がっておりましたが、この地形篇からの四つはこれまで述べてきた兵法理論の詳細な説明になります。
地形篇は、「正の兵法」についての詳細説明。九地篇は「奇の兵法:の詳細説明になります。地形篇と九地篇は対の関係であり、兵法のより深く奥深い内容を「正奇」の両面から解説するのが特徴です。また、地形篇は、計篇の内容の補足でもあり、計篇と地形篇も対の関係の関係になります。計篇では述べられなかった五事七計の項目について解説します。用間篇はすべての篇の土台となるスパイの使い方です。火攻篇は、謀攻篇の対の関係であり、「機」、事を起こすタイミングにについて説明しています。
計篇の解説でも述べましたが、この地形篇は、これまでなかったとされていた「天」についての言及があるなど、新解釈としても動きのある篇になります。
本文に入る前に、地形篇で述べる正の兵法(正攻法/定石)とは何か、改めて解説したいと思います。
孫子の基本的な戦略は、敵よりも戦力を蓄えて、容易に勝てるだけの準備を整えることです。敵よりも戦力を充実させながら、戦わないで勝利を目指すというのがポイントです。
そして戦う場合においても、さまざまな策略、奇を使うことで敵の体勢を崩し、戦力を分散させて、戦場において我が軍有利を作り出します。ポイントは、我が軍の戦力を維持し、敵が体勢を崩すのを待つという事です。戦力を消耗させない防御は自己努力の範疇ですが、敵に打ち勝つ攻撃は敵によって作り出す範疇であるとする事です。
では「正の兵法」での戦いの要点はなんでしょうか。
一つは、我が軍の戦力充実を維持することです。もう一つは敵の戦力を分散/消耗させることです。
この戦力の充実と分散と消耗といった利と害(死と生)は、表裏の関係であります。地の利、天の時(利)が利と害を作り出す媒介になります。利の中に害があり、害の中に利があります。利と害の関係は固定されておらず、状況に応じて変化します。
では、この利と害を決めるものはなんでしょうか。「将」になります。将軍の能力や性格が、「地の利」「天の時」を利にも害にもするのです。
計篇の七計では、「将、孰か能あるか」の次に「天地、孰か得たるか」があります。優秀な将軍だけが、天と地を利益に変えることができるのです。
「孫子」を陰陽の原理でとったえる新解釈で見ると、「天地の利」を得るための方法と言えると思います。戦う前の駆け引き、戦場での駆け引きはすべて「天地の利」に繋がり、自然のままに勝つを実現しているのです。
追記をすると「孫子」以外の兵法書、「呉子」「六韜」「司馬法」などは、七計のそれ以外の項目である「法令孰か行われるか」「兵衆孰か強きか」「士卒孰か練れたるか」「賞罰孰か当たるか」について述べている部分が多い。
「孫子」は、「道」の兵法であり、「陰陽」の兵法、「全き」の兵法であり、「天地」の兵法と言える訳です。地形篇の本文は次の解説から扱ってまいります。
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