(24)混戦乱戦-竹簡孫子 勢篇第五
「孫子」における混戦乱戦の戦い方を見てみましょう。
「孫子」は、優れた用兵家が戦えば、双方が激戦を繰り広げ、戦い乱れても、乱れることがなく、自軍の形、戦型が変化しても敗れることがないと述べています。
それはなぜでしょうか?
それは、敵や味方、情勢の「変化」を見極めることができるから、つまり変化をコントロールできるからです。
易の原理では、物事が絶え間なく変化すること教えてくれます。「陰」と「陽」が、さまざまな変化を繰り広げるからです。
自軍を劣勢に変化しないようにできるのではなく、変化に影響を与える要因を理解して、そのハンドルをしっかりと握っているからです。
【書き下し文】
紛紛紜紜(ふんぷんうんうん)として、闘乱(とうらん)するも乱る可からず。渾渾沌沌(こんこんとんとん)として、形円(めぐ)るも敗る可からず。 乱は治より生じ、怯(きょう)は勇より生じ、弱は強より生ず。 治乱は数なり。勇怯は勢なり。強弱は形なり。
善く敵を動かす者は、之れに形すれば、敵必ず之れに従い、之れに予(あた)うれば、敵必ず之れを取る。此を以て之れを動かし、卒(そつ)を以て之れを待つ。
【現代訳】
敵と味方が入り乱れ、混戦になっても我が軍が混乱することがなく・・・水が勢いよく流れて、また塞がって止まるように、軍隊の体勢(形)が流動的に変化しても敗れることもない。
何故ならば、混乱は秩序から生まれ、恐怖は勇気から生まれ、弱さは強さから生まれるからです。つまり軍隊の「治乱」は、兵力とその編成で決まります。兵士の「勇怯」は、勢いを生み出せるかどうかで決まります。軍隊の「強弱」は、戦力を充実させることができるかどうかで決まる訳です。
だから敵軍を上手に誘導する者は、「形」、すなわち自軍の陣容を見せることで、敵軍に何らかの反応をさせた上で、さらに利益や機会を与えることで敵がその利を必ず取るように仕向けるのです。このようにして敵軍を誘導し弱体化させ、自軍の部隊を待ち構えさせるのです。
つまり、戦場においては、「治乱」、「勇怯」、「強弱」の変化があり、乱は治より、怯は勇より、弱は強より生まれる、つまりプラスの状況からマイナスの状況の変化していくことを教えてくれます。
基本的に「孫子」では、マイナスの状況からプラスの状況への変化は作り出せないとしいます。くたくたに疲れて動けない状況を1時間で元気一杯にすることはできません。ですから自軍の状態を低下させない守りの態勢で、敵軍の判断ミスによってマイナス状況になるのを待つという戦い方をします。
では、「治乱」、「勇怯」、「強弱」を変化させるテコ、ドライバーはなんでしょうか。
「孫子」では
「治乱」の場合は「数」、つまり兵数や編成です。
「勇怯」の場合は「勢」、軍隊の勢いです。
「強弱」の場合は「形」、戦力の充実です。
と述べています。
次の文章の「善く敵を動かす者」は、誘導するという意味ですが、陰陽で例えると、変化させることです。
敵を良くプラスからマイナスに変化するものは、「形」、自軍の体勢を見せる。ここでは、充実した正の体勢だけでなく、変化して弱そうに見えるものも含めた様々な大勢の事です。もう一つは利益を与えて取らせます。
現実の人間関係やビジネスにおいてもそうですが、利益をとってしまうと利益に縛られてしまい、身動きが取れなくなります。ある場所を奪ったら、その場所を守られねばなりません。物資を奪ったら運ばないといけない。人質を奪ったら、処遇をどうするか上司の判断が必要になったりします。
そして最後に、混戦乱戦に身を置くからこそ、敵の中に潜んでいた「乱」「怯」「弱」の要因を顕にし、苦境に陥らせることができる訳です。