(23)「勢」の発動は一瞬-竹簡孫子 勢篇第五
「勢」(奇勢)の特徴は、威力が大きく(険)、ただその発動されている期間(節)は短いことです。そして弩の発射ようであり、勢の発動する期間は、一瞬のタイミングに引き金を引くようなものだと例えています。
【書き下し文】
水の疾(はや)くして石を漂(ただよ)わすに至る者は、勢なり。鷙鳥(しちょう)の撃ちて毀折(きせつ)に至る者は、節なり。是の故に善く戦う者は、其の勢は険にして、其の節は短なり。勢は弩(ど)を弾つが如く、節は機を発するが如し。
この「勢」の発動の様子を、「奇正」から「虚実」を為して「勢」が生まれる構造と繋げて考えみます。
「奇」によって敵の戦力が「虚」、自軍の戦力が「実」の状況になった時、「静」から「動」に変わるごとく、兵士は「勇」になり、「勢」が発動します。「勢」のエネルギーが大きいが、その発動する期間は短いのが特徴です。
敵軍との駆け引きでにおける「正」と「奇」、その下の階層にもまた「正」と「奇」があり、そこには「陰」である「静」の状態と、「陽」である「動」の状態とがあり、「奇」の中にある「陽」の面である「動」で攻撃力を発揮させようとしていると考えれます。
「戦いは正で以て合し、奇で以て勝つ」とあり、「奇」で戦いに決着つけると受け取ることができます。しかし、あくまでも「奇」はさまざまな形態に変化しており、敵だけでなく味方の戦力が分散している状態である可能も高く、「正」のように戦力が充実し攻撃力も防御力も高いわけではない。
だから「奇」でありながら、「正」または「動」の状態を作り出すことが必要になる。「奇」中の「奇」から「奇」中の「正」に変化する。
それこそが敵との関係の中で「勢」を作り出す「奇勢」の本質ではないかと考えます。
戦いの前に作られる「正勢」は、自己の努力によって作られる優位性が元になっているので、その効果は戦う前から戦いの最中にも影響を及ぼしますが、「奇勢」の場合は、位置関係や戦力差など敵との関係性の中での優位性であるため、すぐに変化するために優勢な期間も一瞬である。
勢篇では「其の節は短なり」と述べ、計篇では「外征を佐く」と矛盾する内容を述べている理由です。
「勢」の中に「陰」と「陽」の二つの性質があり、この両者は矛盾なく両立するためには「陰陽」の原理を理解することが必要になってくるのです。