(14)全勝と破勝-竹簡孫子 謀攻篇第三
前回(13)では「全き」の意味を追求していきました。
次は「孫子」の一つの特徴を紹介しましょう。
「孫子」の中に出てくる「勝」という字には、二つの使い方があります。
一つ目は「全き」による勝利を「勝」と言い、もう一つは、敵軍を「破る」、撃破する勝利です。
同じように「勝」と書かれていても、それは「全き」によるのか、「破る」によるのか意味合いが違う訳です。
これまでの「孫子」の研究家(訳者)のほとんどは、「破る」による勝利、敵軍撃破による勝利としております。しかし重要な箇所の「勝」に「全き」の意味を加えて読むと、意味合いが変わってきます。
例えば、謀攻篇第三に出てくる「勝」は、すべてが「全き」の意味が含まれます。「是れを軍を乱して勝(かち)を引くと謂う」「勝を知るに五有り」などがそうです。
君主による将軍への干渉を戒める内容の結論が、勝ちを引くと述べておりますが、これは「全き」による勝利、共存共栄ができなくなるというように解釈できます。
「勝ちを知るの五有り」の場合、「全き」による勝利、共存共栄を実現するための五つのポイントを解釈できます。
而て戦う可(べ)きと而て戦う可からざると知るは勝つ。
衆寡の用を知るは勝つ。
上下欲を同じゅうするは勝つ。
虞(ぐ)を以て不虞(ふぐ)を待つは勝つ。
将の能にして、君の御せざるは勝つ。
一つ目は、戦うべき時と戦ってはいけない時を判断できることです。
二つ目は、大兵力と少兵力の外交的な使い方に精通していることです。
三つ目は、上下、つまり様々な立場の人間が心を合わせて一致団結させることです。
四つ目は、準備万全の状況でそうでない者を待ち構えることです。
五つ目は、有能な将軍の仕事を君主が足を引っ張らないことです。
例えば二つ目の「衆寡の用を知るは勝つ」は、「大兵力と小兵力の運用方法を知っていれば、敵を撃破できる」としているものがほとんですが、その解釈が孫子の意図をどれだけ汲んでいるのかと思います。
この五つすべてが、共存共栄を目指して、敵軍を撃破しないで勝利するための軍事行動の要諦として読むとこれ以上の学びはないと思います。