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(45)地形の原則-竹簡孫子 地形篇第十

地形篇の冒頭は、「地」の解説から入ります。
地形篇で述べられる六つの地形(通/桂/支/隘/険/遠)は、計篇の「地」で説明されている「地とは、高下・広狭・遠近・険易、死生なり」と繋がっていると解説をしました。(4)地形について-竹簡孫子 計篇第一

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それでは一つ一つ解説していきたいと思います。

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【書き下し文】
我も以て往(ゆ)く可(べ)く、彼も以て来たる可きは、通ずと曰う。通ずる形には、先ず高陽に居り、糧道を利して戦えば、則ち利あり。

【現代訳】
自軍にも敵軍にとっても往き来しやすい場所を「通」の地形という。「通」の地形では、敵よりも先に高地で生命を養いやすい場所を陣取って、補給路を確保した上で戦えば有利になります。

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【書き下し文】
以て往(ゆ)く可きも、以て返り難きは、挂かると曰う。挂(ひっか)かる形には、敵に備え無ければ出づれば而ち之れに勝つも、敵に若(も)し備え有らば、出づるも而ち勝たず、以て返り難くして不利なり。

【現代訳】
行くときは容易でありながら、引き返す時に難義する場所を「挂」の地形という。「挂」の地形では、敵に備えがなければ勝つことができますが、敵に備えがあれば攻め入っても勝つことができず、引き返す事ができないので不利になります。

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【書き下し文】
我の出づるも而ち不利、彼れも出づるも而ち不利なるは、支(わか)ると曰う。支るる形には、敵我を利すると雖も、我は出ずること無くして、引きて之れを去り、敵をして半(なか)ば出で令(し)めて之れ撃つは利なり。

【現代訳】
自軍にとっても敵軍にとっても、行けば不利になる場所を「支」の地形という。「支」の地形では、敵軍が我が軍の利益を与えて誘ってきても、我が軍は応ずる事はなく、引き返してその地から離れて、敵軍の半数を誘い込んでから反撃すれば有利になります。

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【書き下し文】
隘(せま)き形には、我先に之れに居らば、必ず之れを盈(み)たして以て敵を待て。若し敵先に之れに居り、盈つれば而ち従うこと勿れ、盈たざれば而ち之れに従え。

【現代訳】
軍隊が入りきらない狭い「隘」の地形では、自軍が先に占拠して、空間を自軍で満たして敵軍を待ち受けなさい。もし敵が先にその地を占拠し、狭い空間が敵によって満たされておれば、仮に自軍に勢いがあっても攻めてはいけない。まだ敵軍で満たされていなければ、自軍に勢いがあるならば勢いに従い攻めなさい。

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【書き下し文】
険しき形には、我先に之れに居れば、必ず高陽に居りて、以て敵を待て。若し敵先に之れに居れば、引きて之れを去り、従うこと勿れ。

【現代訳】
要害堅固の「険」の地形では、自軍が先に到着し、必ず高地で生命を養える陽のあたる場所を占拠した上で、敵を待ち受けよ。もし反対に敵軍が先に到着し占拠していれば、引き返してその地を去り、自軍に勢いがあっても従ってはいけない。

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【書き下し文】
遠き形には、勢均(ひとし)ければ以て戦いを挑み難く、戦えば而ち不利なり。
凡そ此の六者は地の道なり。将の至任にして察せざる可からざるなり。

【現代訳】
敵軍と距離のある「遠」の地形では、敵味方の勢いが同じくらいであれば、勢いを維持しながら戦いを挑むことは容易ではないため、戦いを仕掛ける方が不利になります。

おおよそこれら六つの戦場の対応方法は、地形を判断するための原理原則です。将軍にとって最優先の責務であるから、よくよく明察しなければならない。

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それでは「孫子」における「地形」について整理しましょう。

計篇と地形篇の内容から、地形には三つの階層があることがわかります。まず一つ目は、高いとか狭いといった「形状の種類」です。次は「通」や「隘」といった「戦場での形状」、最後は、「死」と「生」といった敵と味方の双方の関係性、「彼我の状況」になります。

ここで疑問を感じた方がいるかもしれません。九変篇第八、もしくはこの後の九地篇第十一で出てくる地形の種類は含まれないのか?という疑問です。

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計篇と地形篇に出てくる地形と、九変篇と九地篇に出てくる地形には、扱っっている階層が違います。計篇と地形篇は、具体的な形状を指す地形で、基本的には変化しません。九変篇と九地篇は、敵国と自国の関係性によって作り出される相対的な地形概念です。

この2種類の地形概念は、重なることで兵法に無限の広がりを作り出します。九変篇と九地篇は、変化を起こす方法について述べる篇ですが、計篇っと地形篇の戦術的地形より上流(本質的)の概念である戦略的地形であることがポイントです。つまり、本質的なものにアプローチするからこそ変化を起こすことができる訳です。

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さて戦術的地形のまとめに入りましょう。地形はバラバラに存在するのでなく、さまざまなものが含まれているということです。敵軍との駆け引き、戦いは、広大でさまざまな形のある地形の中で、敵軍との距離を計りながら、自軍の有利な状況(生/利)、敵軍の不利な状況(死/害)を作り出すべく行動する訳です。

ここで「孫子」はどのように考えるのか。相手を我が方の思い通りに動かせるとは思いません。
我が方が墓穴を掘らないことを考えます。つまり自分が任命した将軍が現場でミスをしないことがまず大事な事になります。そこで地形篇の二つ目の内容に「敗の道」に続いていきます。


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