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内製する文化から外に開かれたチームへ-ゼロからWebマーケティングの「自走」をつくり出す挑戦

✔️株式会社技術評論社は、1969年の創立以来、入門書からIT技術者向けの専門書までを網羅した書籍・雑誌を発行する出版社。
✔️従来からある書店営業とは異なるWebマーケティング施策の立案・実行のパートナーとしてナラティブベースを指名。
✔️ナラティブベースは技術評論社との対話を経て、国家試験「ITパスポート」に自学自習で合格することを応援する特設ページ制作・運用を実施、さらにはお客様の運用自走までをサポート。

新しいことに挑戦しようとする企業にとって、どんなパートナーと共に、どんな形でその挑戦に立ち向かうのが最適解なのでしょうか。株式会社技術評論社は、なんでも内製してしまう社内文化を超えて、外部リソースを活用したチームづくりに挑戦し、パートナーとの対話を繰り返しながら書籍のWebマーケティング施策の運営を仕組み化していきました。その計画立案、仕組み化のパートナーとなったのがナラティブベースです。

両社が連携して立ち上げ、社内自走ができるまでになった当プロジェクトについて、技術評論社 デジタル事業部の馮(ふぉん)さんと、ナラティブベース 当プロジェクトのチームコンダクター 藤川の対話を通して振り返ります。


54年にわたる技術書作りのノウハウを基に資格試験、一般実用書などを幅広く出版

――まず技術評論社様の事業内容についてお伺いできますか。

【技術評論社 馮富久さん(以下、馮さん)】技術評論社は、コンピューター書を中心に書籍・雑誌を発行している出版社です。範囲としては、パソコンの入門書からIT技術者向けの専門書まで幅広く網羅しています。また、54年間積み重ねられてきた技術書作りのノウハウを活かして、理工学書をはじめ資格試験のための参考書を発行するほか、サイエンス書、一般実用書、ビジネス書、大学受験参考書などの分野での出版活動を行っています。その発行点数・売上規模ともに、業界トップクラスであると自負しています。

【ナラティブベース 藤川 麻夕子(以下、藤川)】出版されている本のジャンルは、かなり幅広いですよね。技術書のイメージが強いですが、入門書も多いですね。

【馮さん】はい、当社は入門書の領域の中では、情報処理のほか、パソコン解説書や年賀状向けの素材集なども強いです。

新しい販促の形で自分たちの刊行物を読者の手に届けたい

――今回ご依頼をいただいたのは、御社に新設されたマーケティング室からでした。マーケティング室はどのような経緯で新設されたのでしょう。

【馮さん】もともと当社は、販売促進部において書店に向けた営業や取次(出版関連の卸会社)への流通を展開し、刊行物のWeb展開などは、Webコンテンツ事業を行う別の部門が担当しているという体制でした。

しかし、SNSの普及、EC市場の拡大に伴い、書店だけでなくオンライン書店各社への対応も必要となっていき、さらにはコロナ禍での巣ごもり需要への対応のために、両部門の連携を強める必要がありました。そこで、新たに、電子出版やEC管理など、デジタル・オンライン事業を統括するデジタル事業部を設立することになり、そのなかに専門部署としての、EC/ マーケティング室が配置されました。

部署の役割は、EC領域を起点とした当社刊行物の販売促進はもちろん、Webマーケティング、書店と連携したイベント企画など多岐にわたります。とはいえ、社内にここで必要となるWebマーケティング専門の人がいなかったんですよね。

【藤川】御社ではデジタル系、Web系の技術書も多く出版されているし、専門家はいらっしゃるかと思っていたのですが。

【馮さん】専門知識をもつ人や、個人的な興味関心の分野でデジタル発信している人はいました。しかし、組織において業務として実行するとなると、知見もなかったですし人材リソースという点でも潤沢ではありませんでしたね。
それに加え、当社は内製でやりがちになる文化もありました。長年そうした文化の中にいると、どうしても内向きになり、広がりをもたせにくくなってしまいます。そこで、外部パートナーとの協働という選択肢を検討することになりました。

また、当社が刊行物のWeb展開が苦手かというとそうではありません。プロフェッショナルとのコミュニケーションが得意という強みを活かして、専門色、技術色の強い雑誌や関連の刊行物については、著者、編集者、読者も巻き込んだWeb展開を30年近く行ってきました。その一方で、初心者の方や技術者ではない方々が手に取るPC関連の入門書のWeb展開については模索中でした。

入門書であれ、専門書であれ、私たちは自分たちの刊行物を読者に手にとっていただきたいという思いを強くもっています。今の時代、書店での販促だけではその思いは叶いませんし、内向きにとどまっていてはこれ以上広がらないという危機感から、なおさら入門書については外部パートナーとの協働が大切ではないかと考えたのです。

決まっているのは予算だけ。ゼロから対話を通じてターゲットとゴールを設定

――今回のプロジェクトは「ITパスポート試験(*1)」の資格試験関連書籍の販促をWeb展開するものでしたが、最初からある程度ターゲット刊行物は決まっていたのでしょうか?

*1:ITパスポート試験:ITを利活用するすべての社会人・これから社会人となる学生が備えておくべき、ITに関する基礎的な知識が証明できる国家試験(ITパスポート試験Webサイトより)

【馮さん】いえ、実際には予算以外はふわっとした状態でした。あとは入門書がターゲットというイメージがあった程度です。

入門書でも当社に強みがある「情報処理」「パソコン解説書」「年賀状素材集」の分野のうち、季節ものの年賀状をはずし、「パソコン解説書」を本で読まれる方はオンラインでのコミュニケーションは得意ではないかもしれないという仮説で「パソコン解説書」を外し、最終的には「情報処理」の入門書に絞っていきました。

【藤川】私たちも最初の段階からミーティングに参加させていただき、一緒にディスカッションを重ねていきました。Webマーケティングの観点からも、注目度が高いこと、ある程度の頻度でコンテンツ更新や内容がイメージできるなどの理由からITパスポートに決めていきました。

- Webマーケティング展開を「ITパスポート」から始めた理由
⚫︎
試験が通年で実施され、定期的に関連書籍が発行される
⚫︎関連書籍が複数あってまとめて扱える
⚫︎ライバルとなる他社の書籍も明らかである
⚫︎デジタル人材育成の機運のなかで注目されている

予算しか決まっていない状態からターゲットやゴールを決めるまで、ヒアリングから体制理解、現状可視化なども含め3ヶ月じっくり時間をかけましたね。その後は、具体的な施策を決めるため、引き続き対話を重ねました。

https://itpassport.gihyo.jp/
https://www.instagram.com/gihyo_ipass/

【馮さん】そうでしたね。最終的には、特設ページを作成すること、そしてSNS運用での拡散、リスティング広告運用などの実施が決まりましたが、他にも、他メディアでの広告運用、合格祈願作戦(キャンペーン案)など、中には「ネタかな」と思うものまで、さまざまな提案をいただきました。

【藤川】この段階では、月2回程度、技術評論社さんとの定例会議を行っていました。まず、ナラティブベースのチームメンバーでたたき案を数十本出し合い、それに対して市場動向や競合などのリサーチを分担して持ち寄り、案を絞っていく。提案を出しては皆さんの反応を見て持ち帰り練り直す、を繰り返していました。ナラティブベース側でもああでもないこうでもないと案を練り直すなかで、特設ページを作ってInstagramで発信する案がうまれ、リスティング広告での拡散がいいかもしれないと最終案にたどりつきました。

【馮さん】そして、特設ページの更新コンテンツ(*2)においては、実際に書籍を作っている編集部と協働していこうとなりました。その際にナラティブベースさんにお願いしたのは「継続できる仕組みにしてほしい」ということです。
 編集部側も当然、通常業務でリソースは足りないわけですが、特設ページを作って終わりでは意味がありません。実際に以前、自分たちでページを作ったものの、積極的な更新は1年も持たずクローズしたという苦い経験もありますので、継続できることを大切にしたいと思っていました。

*2:更新コンテンツ:特設ページ「自力で合格!ITパスポート」では、「がんばる“あなた”を応援する」をコンセプトに、自学自習で資格取得を目指す方へ、資格説明から勉強法まで、さまざまなお役立ちコンテンツを更新しています。
https://itpassport.gihyo.jp/

【藤川】人的なリソースがないというお話をいただいていたので、長期的に伴走をさせていただくつもりではいましたが、特設ページ作成後は編集や発信に強みのある技術評論社さんが自社で運用される形がいちばんとも考えていました。こちらが代行して発信を続けるよりも、編集の方や営業の方がご自身の言葉で発信していくほうが絶対いい。そこで「リソースのないなかでも無理なくできる自走」をゴールに設定し、実施業務の業務フローも含めた制作・運用の仕組み構築が始まりました。

- 協議を重ねて決定した実施業務
⚫︎ITパスポート関連書籍の特設ページ作成
⚫︎特設ページのコンテンツ制作
⚫︎関連書籍、特設ページに関するSNSコンテンツ発信
⚫︎リスティング広告運用
⚫︎自走できる運用の仕組み構築
など

内製する文化から開かれたチームへ、ともに「自走」をつくり出す

――両社がじっくり検討を重ねて、ITパスポートの特設ページが出来上がっていったわけですね。ゴールに決めた「リソースのないなかでも無理なくできる自走」はどのように出来上がっていきましたか。

【藤川】コンテンツ更新はナラティブベースと編集部で分担して行っていくことにしましたが、お忙しい編集部の皆さんが無理なくコンテンツがアップできるように、最初はこちらでページの更新の操作マニュアルを作成して共有し、チャットツールで適宜サポートさせていただきました。また、更新頻度についても、ナラティブベースが週1回、技術評論社さんは月1回という分担で緩いペースからお願いしました。しかし、実際に始まると、編集部の皆さんが予定より早いペースでどんどん更新してくださったんです。

【馮さん】やはり出版社の編集者という仕事柄、コンテンツを作ることに対しては貪欲な人間が多い。だからこそその強みを活かし切れるよう連携してよかったと思います。内部でお願いし合うとどうしてもやらされ仕事感が強くなりますが、ナラティブベースさんが外部から関わって伴走してくれたおかげで、楽しみながら進められた部分もあるんじゃないかと思うんですよね。

【藤川】あと、特設ページにある書店インタビューや、ITパスポートに取り組む学校や教育機関のインタビューといったコンテンツは、とても珍しいと思いました。特定のジャンルの刊行物に対して、本を販売している方々、実際に本を活用されている方々の声が一堂に会しているページはなかなかないと思うからです。デジタルの向こうにいる人たちをリアルに感じられるページになりました。

書店インタビュー
学校・教育機関インタビュー

ITパスポートの受験者は、学生や20〜30代の社会人が応募者の約7割を占め(*3)ます。ただ、実際にはオンライン購入が苦手な年齢が高めの方もいらっしゃるので、特設ページを介して書籍に興味をもってもらい近くの本屋さんに買いに行ってみようというきっかけも作れている。私たちの手を離れた今、読者の目線になって改めて見ると、「ITパスポートの紹介にとどまらないすごく充実したサイト!」と感じます。

*3:ITパスポート試験Webサイト(2023年3月17日閲覧)
https://www3.jitec.ipa.go.jp/JitesCbt/html/about/result.html

【馮さん】自走してコンテンツの強みが出たことが数字として結果にも表れていますよね。ナラティブベースさんがレポートを毎月作ってくれて、その内容を見ながら効果の確認と今後の戦略にも役立てています。数字が見えるというのがモチベーションにもつながっています

【藤川】毎月広告の効果をGoogleアナリティクスで測定してレポートを共有しています。結果として、どんどん表示回数は伸び続けています。広告以外の流入も増えていっています。「頑張れば伸びる」「自分の書いたものはこれくらい見られている」ということが、やる気につながり、自分ごとにしていただいているのかなと思います。

【馮さん】こちらとしても、数字のデータがまとまっているのはとても大きいんです。私たちが本当に伝えたいことが的確にまとまっていて、社内でそのままスライドできる形にしてくださっているのはとても大きいです。ちゃんと社内にも理解がもらえるという安心感ですね。

【藤川】そう言っていただけるのはとても嬉しいです。このプロジェクトでいちばん嬉しかったのは、特設ページという納品物があって終わりではなく、“技術評論社のメディア”という形で自分たちが運営しているメディアだと思ってもらえていること受託制作というよりも、中身を一緒に考えて、一緒に更新して、そして私たちが手を引いてもサイト運営が続く体制ができたこと。ナラティブベースが自転車を後ろから押して、技術評論社さんが漕いで、ナラティブベースが手を離した後もうまく走ってくれている、まさに自走していることです。

ノウハウの吸収、社内での横展開。想定外の広がりが生まれる

――想定していた以上の編集部の皆さんのコミット、そして自走につながったわけなんですね。そのほか御社のなかでの変化はあったのでしょうか。

【馮さん】ナラティブベースの伴走のもと、特設ページ制作からSNS運用、広告運用の手法を一通り経験できたことは、大きな学びになりました。私たちにとっては初めてのトライアルなので、ほぼ全部吸収させていただきました。
そして、内製に頼らず外部の人たちと組んで進めるときにやるべきことが見えたということが今回は何よりもの収穫でした。

【藤川】御社の別案件で、ほかの編集部のWebサイト制作のお手伝いをさせていただいているんですが、ITパスポート施策でご一緒したマーケティング室の方がその編集部の方をしっかりひっぱっていらっしゃいます。今後もいい形で広まっていくといいですね。とても頼もしく感じました。

【馮さん】1を2にすることは自分たちだけでできでも、1を100にするには、多くの人とやらなきゃいけないという経験値が社内でひとつできたのは大きいです。さらに、その経験値をもって社内での横展開が生まれたのは大きな変化でした。

大切なのは継続、そして楽しみながら次のプロジェクトへ

――1つのプロジェクトが、他部署にまで違う形で広がっていくのはとても嬉しい展開ですね。さて最後になりますが、今回の取り組みを経て、Webマーケティング施策の今後の展開をお聞かせ下さい。

【馮さん】まずは今回開設したサイトが1年後もちゃんと稼働していることが大切だと思っています。ITパスポート関連書籍は毎年改訂版が発行されますので、やはり継続が重要です。

ITパスポートとは別のプロジェクトがナラティブベースさんと動き出しているんですが、また異なった形のマーケティング手法が一緒に作り出せないかと思っています。さらには、今回のように編集者だけではなく、別の部署の人間がプロジェクトに入ってくれる体制ができて、それが引き継がれていってほしいですね。

【藤川】そちらのプロジェクトも担当させていただく予定ですが、本当に楽しみです。今回のITパスポートのプロジェクトのように、外部連携をきっかけに社内が巻き込まれて盛り上がっていく感じになるとよいなと思っています。馮さん、引き続きどうぞよろしくお願いします。

<対談企業のご紹介>
株式会社技術評論社 様

主に関わったナラティブベースメンバー
藤川麻夕子・伊藤真美・藤井治子


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