【前編】人の成長を生み出す企業カルチャーのつくり方。
サイカの行動規範であるXICA WAYを、全社に浸透させ社員全員がジブンゴト化していくために実施された「ナラティブ・ワークショップ」。その陣頭指揮を執ったサイカ代表平尾様と、伴走者として関わったナラティブベース代表江頭が、約半年間のプロジェクトを振り返り、そこから見えてきた人の成長を生み出す企業カルチャーのつくり方についても語り合いました。
※対談の内容は、前編・後編に分けてお届けします。ぜひ後編も併せてお読みください。
大量辞職という苦い経験が、社員の才能開花を実現するEX構想につながった
――「サイカ」という社名には「才能開花」という意味が込められているそうですが、どのような会社なのでしょうか。
【サイカ 代表取締役CEO 平尾喜昭さん ※以下、平尾さん】 サイカは、ビジョンに「才能開花に満ちた公正な世界をつくる」を掲げ、誰もが納得感のある意思決定にもとづいて才能を最大に発揮できる世界を目指すデータサイエンスカンパニーです。特に、まだ「公正な世界」とは言い難い広告業界に問題意識をもち、「データ分析を民主化し、マーケティングの適正評価を民主化する」をミッションに、データサイエンスを駆使したマーケティングソリューションを展開しています。
――今回ナラティブベースが関わらせていただいた、サイカ社員の行動規範と位置付けられる「XICA WAY」は、どのような経緯で生まれたのでしょうか。
【平尾さん】 発端は約5年前に遡りますが、社員が大量辞職するという出来事があったんです。創業間もない頃は、あえて言語化しなくても、阿吽の呼吸みたいなものによって社員と会社のビジョンを共有できていました。しかし組織が大きくなるにつれて阿吽の呼吸は通用しなくなり、サイカが何を目指して何を成し遂げる会社かが、みんなの腹に落ちていない状況になってしまった。こうした状況に対処できず大量辞職という結果を招いてしまったことを深く反省したんです。
そこからビジョン・ミッションを明文化して、社員としっかり共有し、一緒に育てていこうという機運が生まれました。XICA WAYは、ビジョン・ミッションを実現するために必要となる行動規範として2020年に策定しました。これは他社でバリューと呼んでいるものに近いですね。
また、こうした機運の中で、社員の「才能開花」に対しても会社として向き合っていこうと、XICA EXというプロジェクトが立ち上がりました。
ここで言うEX(Employee Experience)はUX(User Experience)やCX(Customer Experience)と同じような考え方で、対象を社員にしたものです。具体的には、社員の才能開花に本気で向き合うための取り組みとして、サイカで働く社員の「理想的な体験」を定義していきました。例えば、「社内でも社外でも成長の機会を得られ、成果を出し成長し続けている」「サイカの一員であることに誇りを感じることができている」などの体験が定義されています。それらの理想に対する現状とのギャップをモニタリングしながら、環境や制度による支援を通じてギャップの解消を図っていくというものです。
【ナラティブベース 代表 江頭春可 ※以下、江頭(ハル)】私ももともとマーケティング畑なので、いわゆるCXについては馴染みがありましたが、それを社員に対して行うという発想はありませんでした。素敵な取り組みですよね。
【平尾さん】 ありがとうございます。
ナラティブベースの実践を聞き、「それ、僕らにもできますか?」
――XICA WAY制定の次のステップとして、どのようなことを考えましたか。
【平尾さん】 XICA WAYの主人公は、「会社」や「経営層」ではなく「社員」です。「バリューを定めたはいいが形骸化している」という話はよくありますが、それは、バリューが会社からの押しつけになっていて、バリューを体現する主体であるはずの社員が主役になっていないことが大きな原因だと思います。XICA WAYは決してそうさせたくありません。そのために、XICA WAYを社員1人ひとりにジブンゴト化してもらう機会として、ワークショップを実施することを考えていました。
ワークショップの実施にあたっては、その機会を社員全員に活用してもらうため、ファシリテーターを外部の方にお任せしたいと考えていました。また、社内にはない別の視点からファシリテーションしてもらったほうがXICA WAYの輪郭をより正しく掴んでもらえるだろうという考えもあり、そこをうまくリードしてくれる方を探していました。
――そこでナラティブベースをご指名されたのには、どのような経緯があったのでしょうか。
【平尾さん】 きっかけは、信頼している社外の方からの情報提供です。その方と「XICA WAYを社員にどうジブンゴト化してもらえばいいだろうか」という話をしているとき、「それに成功し、その実践知を基にソリューションとして他社にも提供している会社があるよ」と教えてもらったのが、ナラティブベースさんでした。
詳細を聞いてみると、ナラティブベースさんは、パターン・ランゲージ(暗黙知を言語化・体系化する手法)と、グラフィックファシリテーション(対話を見える化することで場の活性化や相互理解を促す技術)を使ったワークショップを実施して、その制作プロセスからメンバーが関わったことで、多様なバックグラウンドをもつメンバーのチームビルディングを実現したという話を聞きました。
それは、まさに僕らがXICA WAYで実践したいことでした。その場で「それ、僕らにもできますか?」と伺い、ワークショップの設計・運営をお願いすることになりました。
【江頭(ハル)】 私たちの「ナラティブ・パターンランゲージ」も、サイカさんと似たような課題感から始まった取り組みです。ナラティブベースが成長していくなかで、チームビルディングがうまくいかない時期もありました。
それを受けて自分たちのありたい姿やよしとしていること、すでにある暗黙知やイメージをどう言語化したらいいか、すごく悩み、パターン・ランゲージにたどり着き、つくっていくなかでさまざまな気づきがありました。
ですから、拡大期にあり社員数が急速に増加しているサイカさんにおいても、アウトプットの形は違いますが、「ナラティブ・パターンランゲージ」の制作工程をカスタマイズして活かせるところがあるのではないかと、興味津々でお話を伺ったのを思い出しますね。
演劇がベースにあるナラティブ・アプローチに期待
【平尾さん】 加えて、ハルさんと話してみて、問題を深掘りできる人間性や能力の高さに安心感があったことも大きいです。「テクニック×安心感」という掛け算の結果でお願いに至ったという感じでしょうか。
あと、意外と決め手になったのが、ハルさんが学生時代にガチで演劇をやられていたと聞いたことですね。
僕も学生時代は音楽活動に熱中していたんですよ。そのなかで劇団とコラボして、一緒にストーリーを組み立てて1つのセッションを生み出すということもしていました。なので、今回のワークショップに対しても、勝手に当時のコラボのイメージを描いていたように思います。
【江頭(ハル)】 そうだったんですね。おっしゃるように、自ら劇団を旗揚げして、作・演出担当としてガチでやっていました(笑)。実は、“ナラティブ”(語り)にこだわって経営してきたのも、演劇がベースにあるんです。
私は、何か言いたいことがあってそれに向けてストーリーを組み立てていく演劇より、登場人物が生き生きと話しているうちにストーリーができてしまうみたいな演劇のほうが魅力的で、観客を力強く巻き込んでいくと思うんです。実際に、大筋の構成だけ決めて役者には自由にセリフを言ってもらい、そのなかで出てきた面白いセリフや生まれた関係性を拾っていって1つの舞台を作り上げるという即興演劇から組み立てることもやっていました。
まず“場”があって、そこに誰かと誰かが乗ったときに、何かが生まれ、ストーリーになっていく。それと同じように、ナラティブベースという“場”でも、メンバー1人ひとりがナラティブから自分のストーリーを紡いでいく。そんな演劇的な考え方がベースにあって、会社を立ち上げました。
ですから、今回のXICA WAYのワークショップでも、「サイカの皆さんはどんなナラティブをもっているんだろう」というところにすごく興味をもって、ワークショップに臨みました。
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